乙女は白灰と共に新たな年を迎える①
『聖夜に白灰は現れる』の番外編として、短編で掲載していた『乙女は白灰と共に新たな年を迎える』を修正して投稿し直したものです。(短編の方は削除しました)
孤児院育ちのマーチェは白灰の髪を持つ男性グレイアースと聖夜に出逢い、彼の元で働くことになる。しかし、マーチェは新米侍女である筈なのに彼の帰郷に付いていくことになりーー?
今日は一年最後の日。
どこもかしこも新年を迎える準備で大忙しな日。
しかし、忙しいと言っても夜は家族と過ごす。
温かい部屋の中、共に年越しの鐘の音を聴くのだ。
だが、これは世間一般的にという意味で、全ての人々に当てはまる訳ではないのであるーー。
「どうしてこんな事になってるんだろ……」
「それは、俺が新年を実家で過ごそうとグルーデオに来たからだ」
マーチェは現在進行形で途方に暮れていた。
「わたしが付いてくる必要、ありました?」
「おおいにある。新米だから、早く仕事を覚えさせる為に俺に同行させた」
「でも、これは侍女の仕事じゃないと思います……」
聖夜の日、教会からグレイアースの邸まで行くとそのまま採用となった。グレイアースが家令に一言「今日からうちで働かせる」と言っただけなのに「承知しました」で済んでしまい吃驚したのは記憶に新しい。
その後、色々あったが無事彼の家で働き始めるーー筈だった。
「確かにこれは違う」
「じゃあ退いてください」
「断る」
「何でですか?」
「俺が、この体勢でいたいから」
「むぅ」
グレイアースに雇われたのだから別に可笑しくない。
そう、可笑しくない……のだが。
(新米侍女の一番最初の仕事が雇い主に付いて雇い主の実家に行くことって……普通あるの?)
現在マーチェがいるのは城下にあるグレイアース邸ではなく王都から馬車で一週間程で辿り着くグルーデオという場所で、ここはグレイアースの実家が治めている土地である。
マーチェは新年を、彼の家で迎えようとしていた。
ーー何故か、膝枕をした状態で。
「グレイアース様」
「グレイ」
「……グレイ様、本当にこの状態で新年を迎えるつもりですか?」
「ああ」
「わたしの膝、そんなに良いですか……?」
「良い、とても良い」
犬が懐くとこんなだろうという感じに、グレイアースはマーチェの膝に頬擦りしている。
彼の髪を触ると、聖夜に思った通り、もふもふしていた。
(もふもふしてるのはいいんだけど、グレイ様にどうして膝枕をする羽目になったんだっけ?)
そもそも今に至るまで可笑しい事ばかりだった気がするのは、マーチェの気のせいだろうか。
ご機嫌なグレイアースを見下ろしながら、マーチェはここに来るまでの経緯を思い返した。