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聖夜に白灰は現れる  作者: 西
本編
1/10

20:00

 今年も終わりを迎える最期の月。

 この月には『聖夜』と呼ばれる日がある。

 一日中家族と過ごす。神に歌を捧げる。恋人と愛を語らう。

 一年で一番寒い日は、一年で一番温かい日でもあるのだ。

 しかし、それは立場の違いで見方が変わるのだと、誰も気づかないのだろうかーー?




「ねぇ、今日は何食べるの?」


「ふふ。今日はね、皆でチキンを食べるのよ」


「チキン?何それ」


「夜ご飯までのお楽しみ。さぁ、帰るわよ」


 子どもが母親に手を引かれて歩いて行く。

 楽しそうに笑いながら、幸せだというように。


「……いいなぁ」


 ポツリと呟かれた言葉を拾う者はいない。

 遠ざかる背中を眺めていた少女は、溜め息を吐いてから歩き始めた。


「マーチェ!こんな所でどうしたの?」


 しかし、程なくして少女ーーマーチェは声を掛けられ足を止めた。


「レイラ、貴女こそどうしたの?」


「足りない食材があって買い出しに来たのよ……貴女は?」


 幼馴染であるレイラは気立ての良い娘だ。孤児院育ちのマーチェにも優しくしてくれ声を掛けてくれる。


「今年も教会で歌を歌って、そのまま朝まで居ようと思ってる。院長に心配掛けるわけにはいかないし」


「女の子が一人で過ごすのは危ないと思うわ」

「仕方がないよ。院長も、今日は家族とだけで過ごさせてあげたいんだ。毎日子ども達を相手にしてるんだもん、今夜ぐらい罰は当たらないって」


「マーチェ……」


 マーチェの暮らす孤児院では聖夜から翌日の聖日まで、教会のシスター達が子ども達の世話を代わりにしてくれる。また、そこそこ大きい子どもは街の家に招かれ、そこで過ごさせてもらうのだ。

 でも、マーチェは一度招かれて以来、街の家にやっかいになる事はなかった。


「もう馴れたし、大丈夫。レイラも家族が心配するから早く行きなよ。ご馳走、冷めちゃうよ?」


「……そうね、わかったわ。でも、我慢出来なくなったら家に来て。お願いよ?」


「わかってる。ありがとう、レイラ」


 お礼を言い、彼女と別れる。

 長い髪を躍らせながら走り去るレイラがどんどん遠のいて行く。


「行ける筈、ないけど」


 心優しい彼女の好意はとても嬉しいが、行けない理由があるのだ。

 止めた足を再び動かし、マーチェは教会へと向かって進んでいった。

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