曇り空
素直に生きられなかったのだ。
幼いころから人と同じことが嫌で、自分の好みよりも周りと違うことであるのを基準に物事を選択してきた。
小学生の林間学校でのお皿の柄付け体験。子供らしくない、昔話に出てくるようなネズミの絵を選んだ。
高校受験。二つ上の姉は頭がよく都内のトップの高校に進学した。周りからは比べられるのが嫌だった、と思われているようだが、そんなことはない。
普通科が嫌だったのだ。だから家庭科の学校に進んだ。
物事を考えるときも批判が先に思いついてしまう。
そして、取り繕うように口から大して思ってもいない言葉で褒めるのだ。
今だってそうだ。もう高校三年生の春、進路を決めなければいけない頃。
授業に進路の講義が増え、いろんな人の話をしている。
そんな大人が声をそろえて言うのだ。「高校受験とは違って人生を決める進路だ。これからの選択で人生が決まる。」と。
きっと素直なクラスメイト達はこの言葉にはっとして、気持ちを締めなおして、オープンキャンパスにでも行くのだろう。
でも私は捻くれた考えしか出来なかった。たかが十八歳なのだ。たった十八年しか生きていないのに将来を決めろというのは無理だと考えてしまう。
自分の選択だが、高校で専門教科の分野に来てしまった以上、今後の進路は狭まっているのだ。普通教科の授業は少ないため模試なんて受ける意味があるのか、という位学力は下がっている。
そんな考えのため、進路が定まったいなかった。
「柳さん、進路はどうするの。この前の進路希望調査に何も書いてなかったけど。あなた被服の成績がいいし、入学当初は服飾系に進みたいって言ってたから、その系列で考えてみたらどうかしら。」
担任の佐山先生は、大学一覧の分厚い本をめくりながら言った。
本当は先週に終わった個人面談だが、私だけが進路についての話がまともに出来ず、再度面談となったのだ。
「あぁあった、ここ。ここなんかはどう?設備も整っているし校舎は綺麗よ。」
先生が薦めてきたのは四年制の服飾系の大学で、私の高校の先輩も沢山進学しているところだった。
被服の成績が良かったのは事実だが、楽しかったのかは自分でも定かではない。
前の面談で「系列は決めていないけど、四年制大学が良い」と言ったことを覚えていてくれたようだ。
そういえば佐山先生は厳しいけど、生徒の本質を見ていて正論を言ってくれる人だった。そのお陰で嫌う人もいるけども。
「柳さん、聞いてる?」
「あ…、はい。」
聞いていなかった、ぼんやりと先生を眺めていた。
「だから、柳さん本当にやりたいことないの?」
薦められた大学の資料を見ても、何も言わず表情も変えなかった私を見て、気が進んでいないとわかったのだろう。
やりたいこと。口先で呟いた。
好きなことならいくつかある。小説・漫画・ぬいぐるみ・パソコン・園芸・お米・心理・音楽・映画・ものづくり
でも、それを職業にするとなると違うのだ。
本を読むのは好きだが、書くのも、書くサポートをするのも違う。
絵を描くのも好きだけど、途中で飽きてしまうから違う。
何が違うのかはわからないが、自分の中で違和感が生じる。将来を想像できない、描けない。
でもきっと、何でもやりきることは出来るのだ。好きじゃなくたって、違ってもそこに責任が生まれれば放棄することはない。それは自分でわかっている。
「好きなことはあっても、職業にしたいほどやりたいことはわからないです。きっと誰かに数学をやりなさいって言われたら出来ます。…だから自分の意思がないんです。向いていることも、分からないし。」
自分で言っていてまとまりのない言葉だったなと思う。先生も少し困惑気味だ。
「休み明け間でにはやりたいこと、考えてきます。すみません。」
そう声を落として言うと今日は終わりにしてくれた。
挨拶をして校舎を出ると、もう部活動も終わっていたようで誰もいなかった。
まだ肌寒くなるときがある。
空を見上げると雲が出てきて、雨の降りそうな空模様だった。
地元の駅についてからは自転車なのだ、雨で濡れた地面に自転車が滑らないうちに帰ろうと思い、少し早く歩いた。
柳寧々、捻くれた女子高生の物語である。