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異世界でもふもふなでなでするためにがんばってます。

国外追放を言いわたされました。

作者: 向日葵

本編にアイデリーナたちが出てきたので、修正・加筆しました。

まったくもって、意味がわからないですわ。

ちょっとお馬鹿さんだと思ってはいたのですけれど、正真正銘のお馬鹿さんでしたのね。



「アイデリーナ、お前との婚約を破棄する!」


お馬鹿さんこと、このパスディータ国の第一王子であるレイレガード殿下が婚約破棄を宣言した。

よりによって、国王陛下の誕生日の宴の場で。

陛下の御年(おんとし)五十七歳の誕生日兼戴冠三十巡の記念式典でもあるこの盛大な宴で!

我が国の貴族だけでなく、周辺の友好国からもたくさんの王侯貴族が招待してあるこの場で!!


「わたくしの方は構いませんが、理由をお伺いしても?」


この婚約自体が、陛下と王妃様がどうしてもとお願いされるので結ばれた政略結婚ですけれど、わたくしも殿下のことはなんとも思っておりません。

だって、殿下の取り柄と言えば、お顔と剣の腕くらいしかないんですもの。

お顔は王妃様に似て、黄金の御髪に澄み渡る青空の瞳、最近は精悍さも出てきて、年頃のご令嬢は皆様夢中だとか。

剣の腕前も、近衛団長が認めるほどと聞いております。

まぁ、殿下が陛下の跡を継ぐとなれば、家臣として支えるのもやぶさかではないくらいには考えておりましたが。


あら、公爵であるお父様が大変恐ろしい形相になっていますわ。


「ユディに酷い嫌がらせをしていただろう!」


「…ユディ様ですか?お会いしたことないので、どなたなのか存じ上げませんが?」


自慢ではないですが、ここ最近忙しくて、社交界にも学園にも顔を出すことができておりませんの。


「白々しい。お前がユディに酷いことをしていると告発があったのだぞ」


ご自慢の顔をしかめては台無しですわよ。


「でしたら、ちゃんと調査をなされたのでしょう?」


「そうだな。当事者に問いただしたら、泣きながらお前に虐められたと答えたぞ」


殿下がそう仰ると、後ろにいる少女が怯えた様子でこちらを窺っていました。


「わたくしには何も聞き取り調査を受けておりませんが?」


「そんなことをすれば、証拠隠滅しかねないだろう?」


「では、その証拠を出してくださいな」


あるわけないですけど。


「物的証拠は上手く隠したようだが、目撃者は多数出ているぞ」


「まぁ!不思議なこともあるものですね。わたくし、つい先日までサイベーダ王国にお邪魔しておりましたの」


我が国は小さいので、他の国との繋がりがかかせません。

ですから、わたくしは公務として近隣の国におもむくことが多いのです。


「嘘です!!私、アイデリーナ様に殿下に近づくなと脅迫されました!」


「ユディはこう言っている。アイデリーナ、お前、嘘をついているのだろう?」


あぁ、彼女がユディ嬢ですか。

可愛らしい方ですわね。

明るい琥珀色の長い髪は毛先をふわりと軽く巻いて、黄緑色の瞳はまるでシーウィ(ひまわり)のよう。まさに(ユディ)という名がぴったりの可憐な少女です。


「殿下はわたくしが何を言ったところで、信用なさってはくださらないのでしょう?」


「お前の行いのどこが信用できると?俺の妃には心優しいユディが相応しい」


「それは他の皆様も納得していらっしゃるのかしら?」


俺の妃にという言葉の辺りで、殿下の取り巻きたちの顔付きが変わりましたわね。

殿下は気づいておられませんが。

皆様、ユディ嬢に気がおありなのかしら?


「アイデリーナ・ガノス、お前を国外追放とする!」


殿下が宣言すると、陛下は頭を抱え、王妃様は青ざめたまま気絶してしまいました。

殿下の様子から、こうなることはわかっていたでしょうに。

それとも、わざとなのでしょうか?

他の皆様も、貴族には相応しくない野次を飛ばす者もおり、招待客の方からは歓声が上がりました。


「ユディ嬢、何が可笑しいのかしら?」


「私は何も…」


そう言って殿下の後ろに隠れるユディ嬢。

ですが、彼女は確かに口角を上げて笑っていました。


「これ以上、ユディに酷いことをしてみろ。そのドレスが血に染まることになるぞ」


殿下の取り巻きである一人が剣に手をかけたのを確認しました。


ーグルルルルゥ!!!


そのとき、突如として現れた獣がいたのです。

悲鳴と歓声が建物自体を揺るがした気がします。


「なっ!!」


銀灰色に黒の縞が美しい大きな獣。

わたくしを魅了してやまないのは黄金よりも輝く瞳。

わたくしの愛おしい愛おしい伴侶です。


「カイディーテ」


神代語(しんだいご)で美しいという意味。この美しい獣に相応しい名でしょう?


『俺の(あるじ)を侮辱したこ奴らこそ、血に染めてやろうぞ!』


わたくしにか聞こえない、ぞくぞくするほどの美声でカイディーテは怒りを(あらわ)にしてくれました。

わたくしのために怒っている姿も凛々しくて格好いいですわ!


地虎(ちこ)か…」


「はい。わたくしが契約している聖獣様ですわ」


この世界の創造神の使いとされる、聖なる獣。強大な魔力と神の力を持つ精霊を使役できるのが聖獣なのです。


地虎は地の精霊を使役するのに()け、普段は大地の中で生活しているのです。


「この国が豊かになったのも、カイディーテのおかげですわ」


カイディーテの力によって、我が国の農産物は質も量も段違いに良くなったのです。

おかげで、飢える民も減りました。

その代わり、わたくしは大変忙しくなったのですけれど。


「わたくし、殿下の婚約者として礼儀作法や帝王学など学び、殿下の名で孤児院の援助をし、特別外交で飢饉で困っている国に救済をしたりと忙しくしておりましたの。ですから、この水の季(夏にあたる3ヶ月ほどの期間)は一度も学園にも社交界にも顔を出しておりませんの」


本当に、お馬鹿さんな殿下が、彼女と遊んでいた間も、わたくしは忙しかったのですよ?

それこそ、両親とお茶を楽しむ時間もないほどに。

あら。ユディ嬢、顔色が悪いようですが大丈夫ですかね?


「それでは、ガノス公爵家は一族すべてライナス帝国へ移住しますわね」


我が家の方針はもちろん、カイディーテが気持ちよく過ごせる環境を整えることです。


以前、ライナス帝国に訪問した際、土壌の環境が良くてカイディーテが凄く喜んでいたの。


今度はわたくしが宣言すると、招待客の方から嘆きの声が上がりました。

それとは別に、一人の青年がわたくしの方へと向かってきました。


「我が帝国は喜んで地の聖獣様とガノス一族を迎えよう」


彼はライナス帝国の皇太子、バルガディーノ・ヴィ・ライナス。

紫紺の艶やかな髪に、蒼玉のように煌めく瞳。カイディーテのようなしなやかな身体つき。精悍や凛々しさの中に悪戯少年のような愛嬌も合わせ持った、人を惹きつけてやまない青年です。


「アイデリーナ、私と結婚してほしい」


突然の申し出に驚きが隠せません。

だって、少しは交流があったとしても、バルガディーノ様は大陸一の大国、ライナス帝国の皇太子です。

こんな小国の一貴族の娘が釣り合うとは思えませんわ!


「私たちには惹かれあうところがたくさんあると思わないか?君の綺麗な髪は私の瞳と同じ色だし、何より聖獣の(あるじ)同士だ」


そうでしたわ。

わたくしとしたことが、一番重要なことを忘れていたなんて。

ライナス帝国の皇帝は代々水の聖獣様に認められた者のみなのです。

幼少のころに水の聖獣様と契約なさったバルガディーノ様は、次の土の季(半年後の冬)に成人の儀と同時に帝位を継がれるのです。


「ふふっ。初めてお会いしたときも、サチェ様と同じ瑠璃色だと褒めてくださいましたわね」


バルガディーノ様の伴侶である水の聖獣サチェ様は美しい瑠璃色の青天馬(せいてんば)で、わたくしの髪の色が同じだとおっしゃったのです。自分の目の色も同じで、一番好きな色だと。


「サチェ様はわたくしをバルガディーノ様の人の伴侶として認めてくださっていますの?」


聖獣の(あるじ)は、聖獣が認めない人とは結婚できないのです。

聖獣様の力を悪用しようとする人を聖獣様は絶対に認めません。

ですので、殿下との婚約も仮のものだったのです。

カイディーテは殿下を認めようとはしませんでしたから。


「もちろんだ」


「では、カイディーテはどうかしら?わたくし、バルガディーノ様と夫婦になっても大丈夫?」


カイディーテはゴロゴロと喉を鳴らしながら、バルガディーノ様のお顔を舐め回しました。

あらあら、まるでリア(猫)のようですわね。


「バルガディーノ様、こんなわたくしでよろしければ生涯を貴方の隣で過ごしたいです」


「ありがとう、アイデリーナ」


バルガディーノ様は跪くと、恭しくわたくしの手に口づけをくださいました。

嫌ですわ。顔が赤くなっていないかしら?


「さて、パスディータ国王。我が婚約者を不当に辱めた者たちを私は許しておけない。どう言う意味かおわかりか?」


「…もちろんです。恐らく、地の聖獣様も許してはいただけないでしょう」


陛下の仰る通り、カイディーテは許さないでしょう。

この国はこれから辛いときが続くことになりそうです。

我が一族は優秀な人材を国中に派遣しておりましたし、他国の皆様も聖獣様の怒りを買った国を助けることはしないでしょう。

カイディーテの加護がなくなれば、今までのように作物は育たないでしょうし、バルガディーノ様はサチェ様の力を使って雨を絶たれるおつもりでしょう。

どうにかして、民だけでも苦しまない方法をわたくしが見つけなければなりませんね。

あとで、カイディーテとサチェ様にこっそりとお願いしておきましょう。


「此度のことを起こしたレイレガード並びにユディは身分剥奪の上、テト農場での労役を命ずる。少しでも民が飢えぬよう、畑仕事に(いそ)しめ。レイレガードを諌めなければならない立場にありながらも、それを怠った側近の者たちも爵位継承権を剥奪の上、王都の地に立ち入ることを禁ずる!その後どうするかは、各家の当主の判断に任せる。これより、税を2割とし、いずれ来る飢饉に備えるよう民に勅令を出す」


「なぜです父上!!」


殿下が陛下に向かって叫びました。

まだ、わかっていらっしゃらないのでしょうか?


「お前を甘やかしたつけがこれだ。民に要らぬ苦しみを与えたのだ!地の聖獣様と契約してから、アイデリーナは並ならぬ努力をしてきた。ガノス公も他の一族の者皆が、聖獣様に恥じぬようにと我が国の民のために尽くしてきたのだ。その姿をこの国の貴族は誰も見ようとはせんかった。今度は我々が聖獣様やガノス一族の代わりに民に尽くさねばならぬ」


やはり、陛下は元より殿下を切り捨てるおつもりだったようですね。

しかし、腑に落ちませんわ。

どうして、カイディーテが怒る前に止めなかったのでしょうか?


「俺のことを見てもいないくせに、何が甘やかしただ!好きな人に安らぎを求めるのが、そんなに悪いことなのか!!」


「殿下は、民のために国政とは何かを学ばねばならなかったのです。第一に民のことを思いやらねばいけなかったのです。一人の少女よりも大勢の民を。それが王族に生まれた者の義務なのです。そのための身分なのですから」


わたくしたち貴族は一般の民よりも裕福な暮らしをしています。

でも、その代償に民を守り、民のために良い国づくりをしなければならないのです。

殿下はそのことを知ろうともしませんでした。

王族ともなれば、個人の感情すら押し込めなければならないときがあるのです。

国母として殿下の隣に立ちたいのであれば、知識を得、殿下を導かねばなりませんでした。

殿下のお側にあるなら、目を曇らせず、殿下を戒めねばなりませんでした。

なすべきことをなさなかった。

その代償がすべて民に向かうのです。

そして、民の怒りはすべて陛下に向かうのです。

殿下の身勝手な行いが、この国を斜陽の国へと追いやってしまうのです。


「…がう…ちがう…違う!!話と違うわ!!私はこの国の王妃としてみんなから愛される存在なのよ!!」


髪を振り乱し、恐ろしい形相でわたくしを睨みつけるユディ嬢。


「あんたのせいよ!あんたさえいなければ!!」


「それこそ違いますわ、ユディ嬢。貴女がわたくしを陥れなければ、このような結果にならなくてすんだのです。貴女はご自身で道を間違えたのですわ」


まさに自業自得ですわね。

ちゃんと手順を踏んでいたのならば、殿下との婚約も白紙に戻ったでしょう。

この国の国母となる覚悟を見せていただけたのなら、わたくしだって協力したと思います。

わたくしだって、生半可な覚悟で、殿下の婚約者を名乗っていたわけではありませんのよ。


「さて、バルガディーノ様、参りましょう。サチェ様にもお会いしたいわ」


陛下に礼をしてわたくしとバルガディーノ様、そしてわたくしの一族の者たちが会場を去りました。

カイディーテも意気揚々と尻尾を振りながらついてきます。

本当にわたくしの聖獣様は可愛らしくて格好良くて堪らないわ。




その後、サチェ様にもお会いして、パスディータ国のあちらこちらに、綺麗な水の溢れる湖や枯れない井戸を作ってもらい、雨が降らなくても水を手に入れることができるようにしてもらいました。

作物は育たなくても、豊かな森を維持するようカイディーテにお願いしました。森の中に入れば、何かしらの食べ物が手に入るようにです。多少苦労をかけてしまいますが、カイディーテとバルガディーノ様の怒りが消えれば、前のように戻りますし。

あとは、わたくしがライナス帝国を豊かにできれば、支援をして貰えるように交渉いたしますわ!

外交は得意ですのよ!!




♦︎♦︎♦︎

この後、国王は自分の息子を廃嫡にし、新たに甥を王太子として迎えた。

国王の死後、王位を継いだ甥は、国王の手記も一緒に引き継いだ。

そこには、父となった喜びや苦悩、国王としての重圧と葛藤が書かれていた。


『もし、アイデリーナがいなくなったら、この国はどうなるのだろうか。

あのとき、考えもなくアイデリーナを利用しようとした自分を悔やむしかない。

今なら間に合うかもしれないが、私が死んだあとが心配だ。

我が息子には、聖獣様がいなくなったあとの国を支えるなんてことはできない。

アイデリーナと聖獣様のおかげで、平穏が保たれていれば、あやつが王でもよかっただろう。

だが、国のために、私は息子を捨てる。

いや、自分の行いのつけを、息子に取らせる最低な父親だ。

そして、弟や甥にも、私の犠牲になれと言わねばならない。

聖獣様の力を、私利私欲に使った結果だ。

我が国には過剰なものであったのだ。

国民からの責めを私は受けなければならない。

だからどうか、レイレガード。

お前だけは幸せになって欲しい』


そして、新たな王は自らの手記にこう記した。


『馬鹿だと思っていた従兄弟は、真の馬鹿ではなかった。

あのあと、従兄弟は心を入れ替え、平民に混じり、畑仕事を始めた。

王族でいることは、彼の性格には合わなかったのだろう。

平民のときの方が生き生きとしていた。

嫁をもらい、子ができたと報告してきたときの彼は幸せそうだった。

そのとき思った。

私は、前国王から、従兄弟から、そしてアイデリーナ様から、この国の将来を託されたのだと』


新たな王に導かれ、聖獣の怒りが解かれる日まで努力を重ねたパスディータ国は、ラーシア大陸一の農業国家と呼ばれるようになる。


修正ついでに、もふなでのシリーズ作にしてみました。


アイデリーナは、ヴィの母方の祖母にあたります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 本編とは関係ないけど、とっても知りたかった面白いお話でした。もっともっと知りたいです。
[一言] はじめまして。 「もふもふ」が気になり、向日葵さんのトコロへ来ました(^^) ただ、まだ「もふもふ」を読んでません。 (基本、完結待ちタイプですので。。どうしても待ちきれないと読み始めてしま…
[一言] これ、もふなでと同じ世界観なのに、なんで、もふなでのシリーズ一覧に入ってないの? そこが気になるんだけど。
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