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藤と女と蜂

作者: さゆみ

 

 今まさに滴り落ちようとする藤に気付きもせず、其方は何をしていたのか。


 

 気付かなかった訳ではございません。己の精進の日々に明け暮れていたのでございます。


 

 では、其方のまなこの中には、あの藤の薄紫が、映らなかったのか。


 

 はい。私に藤を見惚れる余裕などは一切ございませんでした。寧ろ藤は不得手にございます。


 

 それでは其方は蜂ではないと申すのか。


 

 私は、私は、スズメバチの雄でございます。それは紛れも無い事実であります。然し乍ら、藤よりも柔らかく肉厚であたたかく高貴で美しいものに、惹かれてしまうのでございます。


 

 ふふ、其方は私を殺すと。


 

 いいえ、滅相もございません。貴女の艶やかさに咽び、ただ貴女のまわりを回り続けていたいのでございます。






 

 私は貴女を刺してしまわなかったことが無念でなりません。


 その時、藤のツルが伸びて貴女の首に巻き付いたのです。そして藤の薄紫が貴女の唇の色になり、色素が抜けた藤は貴女の躰に滴り落ちて、貴女に覆い被さり貴女を奪ったのです。


 私は知っていたのです。貴女が藤棚に吊るされることを。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 蜂が刺さなかったところが、もどかしさが残って良かったと思います。藤の妖しさを感じます。藤の下で土となるひと。その上で咲き誇る藤の花。桜とはまた違う魅力を詩にして頂いてありがとうございます。…
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