1.さんぼんゆびの大地 ―降ってきた女―
世界の果てに逃げ出したい――
いくら言い訳してみたって、きっと本音はそんなものだろう。
だから私は、その世界から逃げ出した。
1.さんぼんゆびの大地
それは、突然に降ってきた。何の前触れもなく、いきなり、何にもない空から。
「――久々に失敗した。」
ぼそり、と呟かれた言葉に、誰よりも早く、俺の背後で陣取っていたチビが、真っ先に反応した。
――――赫、そして白が明滅する。
鋭い痛みは背後から脇腹を刺し貫いたそれで、目の前で剣を結んでいた男共々俺は刺し貫かれていた。
そうしてできた穴を、小さな影がさっと通り抜けていく気配を感じた。慌てて追いかける怒声、目の前の男に駆け寄る連中、――しかし俺は一人。
「――待て、まだ剣を抜くな。止血が先だ。」
かろうじて聞こえた声の直後、布を割く音がしたと思えば、傷に染みるようにして外気が触れる。そして一気に腹と腿の付け根が圧迫される。
「よしいいぞ、一気に抜け。」
……呻き声が漏れる。ちくしょうめ、どこの藪医者だ!
「元気だな。そっちもこれで傷を洗い流せ。」
かろうじて視界に入った黒いローブは、先ほど突然に降ってきたそれだった。どこのどいつか知らねえが、生きて帰れたら殴りつけてやる!
「毒だな……。おいお前、中和剤持ってないのか?」
返事も構わず俺の服をあちこちまさぐる野郎に、俺はかろうじて首を振った。……“藍の暗殺集団”の毒なんざ、知ってる方が驚きだ。
「しょうがないな……。」
呟いたが早いが、何かが傷口に触れる。叫び出す。いってえな、この野郎!
「そんだけ元気がありゃ大丈夫だ。」
俺のと別の叫び声も聞こえる。
「おい、そこのお前とお前、こいつを押さえつけてろ。麻酔切らしてるからな。暴れられたらかなわん。」
そこで、ひと悶着あったのは覚えている。もう一人を先に治療しろだの、お前は何者だ、だの……ちくしょうめ、俺が死んだらてめえらんとこぜってえ化けて出てやるからな。
それを最後に、俺の意識はぷっつり途絶えたのだった。