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文才無くても小説を書くスレ参加作品

うらみの滝

 文才無くても小説を書くスレで、お題を貰って書きました。 お題:滝の水(お題把握ミス)

 一人で歩く夏の山道の途上で、懐かしい声が耳を打った。

 それは幻聴だったのだろうか。


  ――うらみ葛の葉のお話はね、終わってないの。


 そういった、いつかの彼女の声が聴こえた気がした。

 彼女がそう語っていたのはいつのことだったか。

 情の深い女だった。

 楚々とした佇まいに似合う服を脱ぎ捨てて、山岳服に身を包む。さほど身体が強くもなかったのに、ついていくと決めたらもう離れようとしない。

 慣れるまではよく息絶え絶えになりながらも、お上品で情念の深い言い回しはその頃から健在だった。

 確か、裏見の滝を恨みを抱きと詠んで微笑んでいたのもその頃のことだったか。


  ――葛の葉は保名(やすな)に焦がれていたのよ。


 それは何と何の対比だったか。


  恋しくば 尋ね来て見よ 和泉なる 信太の森の うらみ葛の葉


 後に安倍晴明と呼ばれる童子の為にその詩を残したとは思えない。確か、そういう風なことを語っていた。

 物語の為に既存の詩を組み合わせて作られた短歌だとか、蘆屋道満大内鑑で主人公の安倍晴明の為に盛られた話が今では主流だとか、そういうことは問題ではないのだと語っていた。


  ――死ぬところを助けてくれたのは保名。人として寄り添い続けたのも保名。


 だったら。その呟きで継いだ彼女の言葉は山の木々のざわめきより深く静かな声音で、そのせいか続く次の言葉もより深くこの心に刻み付けられていた。

 共にあることが生きることなのだと語っていた。

 だからあまり得意ではなかった登山にもこうしてついて歩きたいのだと。

 無邪気だと思っていた。

 いや、邪気と言うには憚られるが、当時の俺ではそういう言い様にあまりピンときていなかった。

 だから純粋に、傍にいるのが好きなのだという意味くらいに捉えていた。

 文意は間違ってないのだろう。だが、明確に篭められた気持ちは違う。

 深く静かな続きの文言が鮮明に耳に蘇る。


  ――保名の傍にいる日々を奪われたのなら、それは殺されたも同然なのよ。


 そういうことなのだろう。

 喪ってやっと向けられていた思いに気付けた、俺の不甲斐なさよ。

 そういう気持ちで詠むならば、恋しくばで始まる上の句は誰に向けられたものだったのか、深く考えずとも分かることだ。

 もう生きていないというのは斬新な発想だと今の知識では思えるが、もう死んだ(信太)のならば、そこに来て貰えるだけで恋しさの証拠になるのだろうと、そう解説していた彼女の気持ちがやっと分かるようになった。

 隠り世の存在だからこそ、物語で語られるその宝物は命を左右すると。けれど隠り世の存在だからこそ、そのままでは生者である保名には逢えない。だから裏を見てくれと。

 白い側の保名に逢うには白い面をみせなくてはいけない。生者は生者の側に。

 探るまでもなく葛の葉の正体を見破った清明などにではなく、ただ保名に。

 そして恨みも羨みも、己と保名との間を引き裂いた清明に。

 だが、保名は息子たる清明を伴って、清明は父たる保名を伴って、信太の森にやってきた。

 奇しくも詩に詠んだ通りに、二つの思いが綯い交ぜになっていたことだろう。

 そして葛の葉は保名が望んだとおりに妻として、息子の将来を案じて、消えていく。

 保名に向けるべき慈愛を清明に、そして……。


  ――清明に抱いていたうらみは保名に。


 男は死んで添い遂げることを選ばず、生きて離別を選んだ。

 聞いたときには当然のことだよなあと考えていた。

 何を馬鹿なことを。

 だったらどうして、俺は今あの滝に向かっているというんだ。

 表で生きる者に裏を見よと。

 そう願った彼女の心は未だ果たされていない。

 保名はいずれ死んだのだろう。

 けれど彼女の下に赴いた時を終わりの時にしたわけでもない。

 物語によっては、彼女の宝によって再び生を得る描写すらある。

 生きると言う決断が彼女との離別だったのだろう。

 だからおそらく、彼女は今も待っている。

 裏見の滝はもうすぐだ。

 動くのが苦手だった彼女が、少しずつしっかりした足取りで歩けるようになっていく中で、特に好んでいたのがこの滝だった。

 滝の裏から森が透けて見えるのだ。


  ――暗いところから、光あるところをみるのってこんな感じなのね。きっと……。


 薄く白いヴェールの向こうから、樹の葉擦れの音や生き生きとした鳥や虫の音が、向こう側は生き物の世界なのだと教えてくれるようだと彼女は言っていた。

 彼女は正しく山を恐れた衣服のままで、それでも柔らかな物腰は奥ゆかしさをみせて、あちら側に連れ出してねと手を指し出すこともあった。

 連れ出したのは俺で、連れ出されたのも俺だった。

 山の歩き方を教えたのは俺で、山で詠う喜びを教えてくれたのは彼女だった。

 どちらがどうというのではなく、互いに影響を与え合って、二人で一つの存在に近づいていく喜びがあった。

 どちらかが知らないことならお互いに教えていったし、二人とも知らないことなら二人で知りにいった。

 こうして独りで土を踏みしだいていた頃のことなど思い出すのも億劫なくらい、二人でいる時間はとても濃かった。

 もう独りでの歩き方も忘れてしまったようなものだ。

 だからこれで悔いはない。

 足を止めずに滝の裏に行こう。

 頂上に続く道から少し離れて、土壁に沿って歩いていこう。

 この世とあの世を隔てるような、幻想的なあの場所に行こう。

 鍛えれば身体の弱さなどどうにでもなると、少し元気になったならほら自分が正しかったのだと、勘違いしていたことを詫びに行こう。

 去年の秋、走り出さんまでの勢いで、せっかく彼女が案内してくれた葛の葉ゆかりの神社の説明を、あまりよく覚えていないことも詫びに行こう。説明は覚えてなくても、彼女の振る舞いはよく覚えてるというのは言い訳になるだろうか。

 思い出の中の彼女に逢いに行こう。

 湿り気を含んだ地面をしっかり踏んで、濡れた小石で足をとられないように気をつけて。

 そうは思っても、一度思い浮かび始めた彼女との最後の旅行の思い出は、日陰の暗い中での視界よりはとても鮮やかで、思わず気を奪われそうになる。

 一歩ごとに滝が近づき、斜めからでもその白さがわかる。

 その清らかな白さに、旅行のときの彼女の声が蘇ってきた。


  ――本当に葉の裏は白なのね。


 葛の葉っぱを探しに捜してやっと見つけた葉を掴んで、安堵したかのように嬉しそうにその発見を伝えてきていた時の声だ。

 幸せな想いで胸が一杯になった時に、やっと滝の真裏にたどり着いた。

 透けて見える景色が、思い出の通り白く輝いていた。

 そして、視界はさらに歪んでより白く染まった。

 色とりどりの乱反射を含みながらも、とても真白く、とても輝かしく。

 彼女の言葉を記憶の中から揺さぶり起こされながらその輝きを見ていた。


  ――だったらきっと、本当は葛の葉も保名に生きてもらいたかったのよ。


 輝きのわけは、いつの間にか流れていた涙で。

 涙も輝きも、あふれればあふれただけ滝の水に混ざっていった。



 「」を用いずに声を表現しよう。

 そう思い至って、こういう感じで書いてみました。


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142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/26(金) 21:27:06.56 ID:QxVWVSlk0

何かお題を下さい

143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/26(金) 21:31:01.60 ID:某BNSKスレ民

>>142

滝の氷

144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/26(金) 21:34:18.18 ID:QxVWVSlk0

把握しました


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 見ての通り、貰ったお題は「滝の水」ではなく「滝の氷」でした。


 氷やん! 水ちゃうやん!!  とは思いましたが作品が出来たので投下を……。

 正しいお題の方もやってみようと思っています。

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