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グリッター!  作者: ちけっつ
Monochrome&Scarlet
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---Reverse〈裏返し〉---(2)

 一時間前


 


「えー君たち、昨日のこともあるだろうし、気まずいとは思うが今日も二人で仕事はしてもらう。未成年とはいえ君たちは社会人なのだからそこのあたりはキッチリしてもらうよ」

 初仕事の成功祝賀会の翌日、俺たちはあまりにも気まずい雰囲気の中一度も目を合わせずに尾道さんのオフィスへと来ていた。

「今回はメンタル面でも不安定だろうし危険性の少ない仕事を回しておいた。とはいえ仕事は仕事だ。気を抜かずにしっかりと遂行してくれ」

 そう言われ俺達の手に尾道さんから資料が渡された。

「晶石兵装の保管庫の護衛……?」

「そう、普段フェイ君が使っているような『晶石兵装』を一括管理しているところだ。使い手がいない晶石兵装や何らかの理由で保管しておかなければならない晶石兵装が保管されてある。そこに昨晩テロの予告があった」

「テロ!?」

 テロって……決して危険性が低くはないと思うのだが。

「ああ、心配しなくてもいい。本当に襲ってくるような確率は少ない。予告の文面があまりにも稚拙でね。本当にACHの待機所から人を回すか議論になったほどさ」

「稚拙?」

「うん、内部情報を知っていたことは確かなんだけどある程度晶石兵装に関しての知識があるならまず盗みはしない物を盗むって言ってきたのさ」

「何なんですか? それ」

「フェイ君の持っている二刀剣、赤陽と同じ、オーバードライブ機構搭載の晶石兵装さ」

 その言葉に俺は目を見開いた。

「確かにオーバードライブ機構のついた晶石兵装というのは兵器としてプレミアが高いのは事実さ。でもそれは扱える人間がいるという前提でだ。あんな扱いの難しい物、正統な指導を受けずに扱っても使いこなせやしない。それこそ考えなしのテロリストならなおさらね」

「つまり、そんな下調べもまともにできないような奴が来たところで危険はないと」

 ある程度は納得できる理屈ではあるが少し引っかかる。そう簡単に判断してしまってもいいのだろうか。

「そう言うことだ。まぁ何かするよりは待機の時間が長いような仕事だ。その時間を利用してメンタルを作り直してくれ」


 


 そして今、俺は港区にある晶石兵装の保管庫の薄暗い武器保管場所でフェイと一緒に座り込んで見張りをしていた。

 後ろには(くだん)のオーバードライブ兵装がマニピュレータのような物に掴まれ鎮座している。

 流石に昨日のこともあり、楽しく会話というわけにもいかず、俺の目は自然とフェイ以外に興味を引かれそうなもの、すなわち、背後にあるオーバードライブ兵装へと向いていた。

 形状はフェイのものと比べ比べようもなくデカく、ごつく、そして複雑だった。

 パッと見た感じは縦に伸びた六角形ヘキサゴン型の白いパネルだ。

 大きさは縦に約一メートル半、横に約一メートル。厚さは六センチほどで、そのパネルがマニピュレータに掴まれ総計六枚、俺たちの背後に存在している。

 そしてもう一つ、そのパネルとは別に兵装を構築するものがあった。

 それは兵装というよりはどちらかというと装飾品……髪飾りやブローチというのがふさわしい十センチほどの大きさのパーツだった。

 中心に収束しつつも外側に発散もされているような不思議な意匠のそれは六枚のパネルに囲まれ、中心に位置する場所へ置かれている。

 そして、置かれているオーバードライブ兵装の下に、まるで美術品のようにその兵装の名前が書かれた板が据えつけられていた。

白隔はっかくか」

 白い隔絶。名前から察するに防御用の兵装なのだろう。あの六枚の厚いパネルは恐らくシールドの類か。

「白隔、オーバードライブ機構の理論が完成して二番目に作られた兵装」

 ふと、俺のつぶやきに反応してかフェイがいきなりしゃべり始める。

「オーバードライブ機構の技術確立を目的に作成したはいいけど、適合条件の厳しさ……白属性への親和と高度な晶石使用技術という二条件を満たす人間が一人も現れず、開発後九年間お蔵入りになっている兵器よ」

「……」

 いきなりフェイが能弁に語り始める。

「わかってるわよ、私がどれだけみっともないことしてるかくらい。あの時は貴方のお姉さんにお酒を飲まされてて多少理性を失っていたかもしれないけど、言った言葉は全部本音よ」

 そう語るフェイの声は今までの人物像……冷静で、大人びていて自らの感情を制御した戦士、といったイメージとは違う、どこか拗ねたような子供っぽい響きがあった。

「まったく、初めて会った時から作ってたキャラが台無しよ」

「ホントにうまくいってたのにな、少なくとも俺はフェイの事、そう言うやつだと思い込んでたぜ」

 本当に……仮面の被り方はうまかったと思う。

「私は、貴方が嫌いよ。何かしたからとかそう言う問題じゃなくて、貴方という存在の性質そのものが嫌い」

「……そうかよ」

 改めて、そう言われると心のどこかが痛んだ。

「私はまだまだ強くなる。力をつけてあなたの背中なんて一生見ない。貴方の晶石を倒すことができたこの剣を持っているんだから」 

 そう言い、彼女はホルスターに収めてある剣を愛しげに撫でる。

 そこには余人が立ち入ることができない彼女の思いが込められているような気がした。

「そうかい」

 そのフェイの姿勢に、俺はそう返すことしかできなかった。

 今のやり取りでわかった事、それはフェイがACHの仕事に対して恐ろしいほど真剣だということだ。

 もちろん、今までとてその姿勢を疑ってきたわけではないが、フェイはACHという仕事をやるにあたって絶対的な精神的支柱があるように感じられた。

 俺は、違う。ACHという仕事をやる理由が適性があるから以外にあるわけではない。

「いつか見つけられればいいなァ……」

「……? 何か言った?」

「いや、別に」

 いつか俺も、フェイみたいな精神的支柱……信念とでも呼ぶものを見つけられればいい。そう、わずかに思った。

 もちろん、フェイの精神のひとかけらを見ただけで、昨日から抱いたフェイに対するムカツキが完全に収まったわけではない。

 フェイが俺を嫌いでいるなら、俺もフェイを嫌いでいてやる。そう言う反骨の思いが俺の中にはあった。

 そんな刺々しいけど、どことなく心地いい、先ほどの心の中に鉤が引っ掛かっているような感覚がなくなったその時。


 何らかの爆発音のような重低音が……部屋の外から聞こえた。


「「!?」」

 一気に俺とフェイの緊張感の糸がピンと張る。

 まさか……テロリスト!?

「二人ともここを離れるのはまずいわね……万が一がある。機動力はあなたの方があるわ。外を見てきて!」

「わかった!」

 そう言い、俺は足を強化し保管庫の扉を開いたところで足を強化し音が聞こえた方向へと疾駆する。

「ったくなんだあの音……爆弾でも作って外壁のコンクリをふっ飛ばしたのか?」

 廊下を走り、保管庫のあった三階から一階へと階段を下りる。

 そして、エントランスまで来たところで……俺が見たのは……

「……!? アンタは……あの時の……」

 フードとキャップで目元を隠したその服装。そして何より、俺の直線的な黒い光とも、フェイの揺らめきと刺々しさを併せ持つ赤い光とも違う、まるで蝶の鱗粉のように神秘的に周りを漂う白い燐光。

 その人物は間違いなく、俺があの蛇に叩きのめされた時に現れた白い髪の人物だった。

「……」

 その人物は無言で手をスッとこちらの方に差出し、その手に燐光をまとわりつかせる。

 間違いなく、白の晶石の力だ。

 俺は白の晶石の特性について知らないが、黒と同じ上位色なのだ、とんでもない物が飛び出てくる可能性もある。

 かざした手を、その人物は少しずつ体勢を低くし、地面につけ……

 そして次の瞬間、俺の左右から何かが来た。

 瞬間、肩から手首辺りを強化、トラバサミのように左右から来た攻撃を両腕で受け止める。

 俺の晶石の力は体の強度や筋力を上げるものだ。逆に言えば今現在局所的にしか強化ができない状態では、このトラバサミのような攻撃を腕のみの力で押しのけることができない。

 ミシ……ミシ……とまるで万力のように締め付けられながら俺はこのトラバサミから脱出する方法を考える。

 強化を攻撃型の右手に切り替えて破壊する、速度型の足に切り替えて脱出する、その二つのどちらかしか俺のできることはない。

 前者は右からの圧力を破壊する瞬間反対方向からの圧力をかわせない、後者は加速する瞬間完全に身体が無防備になる。

 逡巡(しゅんじゅん)は一瞬、判断も一瞬。

 俺が選んだのは前者だった。

 右手を強化し、右の圧力を破壊、その際感触で今のが床板であることがわかる。

 そしてその瞬間無防備になった左からの圧力が防御していた腕を襲う。

 左腕全体に重い物をしたたかに打ち付けられた痛みが走るが、それを無視。

 攻撃を受けた一瞬で強化部位を右腕から足に変更、壁に押し付けられる前に床板の圧力から抜け出し高速で白い髪の人物へと襲いかかる。

 流石に相手は人間だ。右腕を強化して叩きつけるというわけにはいかない。ショルダータックルでふっ飛ばし一時的に無力化するつもりで白い髪の人物へと突撃する、が。

 突如、俺の視界が上に持ちあがりながら反転した。

 回転する視界に混乱しながらも俺は今の攻撃が俺が踏んでいた床板をひっくり返し空中に打ち上げた物だと直感する。

 今までの床板を使った攻撃からして白の属性はおそらく念動力のような特性があるのだろう。

 だが、俺の体に直接その力を作用させない辺り何らかの制限があることは間違いない。

 空中で猫のように体勢を立て直し、俺は強化部位を右手に再変更。着地した瞬間足のバネに力をため、強化した右手を床に埋まらせる。

 そして

「おらぁ!」

 そのまま、床を削りながら白い髪の人物へと接近していく。

 先ほど、俺が左右から圧力をかけられそのさい右手で床板を破壊した際、右の床板は俺の方に対する運動エネルギーを失っていた。

 晶石の力同士が相殺したのか、それとも動かしている物質は破壊されると操作できないのかは知らないが、この方法ならばそのどちらでも、床板の攻撃を食らうことはない。

 突撃する先で白い髪の人物が床板を立ちあがらせ箱のように展開し身を守るが無駄だ。

 その薄っぺらい盾を引き裂くために床へと向けていた右手を振り上げ、跳躍。

 距離も速度も足を強化している時とは比べるべくもなく低いが構うものか、右手の力を極限まで高めて俺はその盾に向けて右手を一切の躊躇なく振り下ろした。

 その瞬間、まるで爆薬が目の前で破裂したかのような轟音が響いた。

 その衝撃は明らかにあの床板を破壊するだけにとどまっていない。というかその後ろの壁まで貫通しているのではないだろうか……

「や……やりすぎちまったか……?」

 盾に守られているようだから大丈夫と思って思わず力加減なしに晶石の力を使ってしまったが、下手すれば大怪我をしているのではないだろうか……

 だが、俺のそんな心配は杞憂に終わった。

 俺の攻撃で舞い上がった砂ぼこりの向こうに白い光が脈動しているのが見えたからだ。

 そして、その砂ぼこりの向こうから声が聞こえてくる。

「へぇ」

 そのよく響く声は、どこか俺の脳内に引っかかる声だった。

「まさかこんな短期間で祖の晶石をそこまで使いこなせるなんて、本当にビックリしたよ。お父さんでも手に入れた直後は持て余してたって聞いたのに」

 砂ぼこりが徐々に晴れ、白い髪の人物がパーカーのフードを外し、キャップを投げ捨てるのがおぼろげに見える。

 そして、その姿のシルエットが見えたとき、俺……は……

「でもうれしいよ。鮫がそこまで強く晶石に認められているっていうのはね」

 そこに……いたのは……

「言いたいことが山ほどあるのは分かるけど、説明はまた今度にするよ、鮫」

「なんで……こんなことしてんだよ……猫」

 何よりも日常の象徴だったはずの、猫だった。


 

 

   ◇◇◇


 

 

 先ほどから下で連続していた戦闘音が一際大きい轟音の後、終わった。

 竜ヶ崎が勝ったか、負けたか、そのどちらかだろう。

 竜ヶ崎の携帯に電話を掛ける。コール音が一回、二回、と続き、そして応答はなかった。

 携帯を懐にしまい、剣を抜き僅かに晶石を赤く光らせる。

 この晶石兵装の保管庫は兵装の暴発などに供えて模擬実践室と同じく青の晶石の力が働いている。多少暴れても大丈夫だろう。

 そして一分……二分と待ちそいつは現れた。

 癖っ毛ではあるが神々しい美しさを併せ持つ白い髪、そして見覚えのあるその容貌。

「……!? 貴方たしか竜ヶ崎の……」

「えっと名前はうろ覚えだけどフェイルクさん……だっけ?」

 私の驚嘆のつぶやきにそう返したのは、竜ヶ崎の友達だという女の子だった。

 確か名前は猫被(ねこかぶり) (かなめ)だったか、

「最初からここを襲うつもりで竜ヶ崎に取り入った……ってわけ?」

 その私の問いに、彼女は僅かに不快な物を表情に浮かばせる。

「失敬な、別にここを襲ったのと私と鮫の関係は何の関連性もないよ。ここを襲ったのは単にソレがほしかっただけ」

 そう言い私の後ろにある白隔を指差す。

「私なりにいろいろ情報集めてみたけど結局君たちにとっては宝の持ち腐れでしょ? まぁ宝そのものを生みだしたのはすごいと思うけどやっぱり使えなきゃ意味ないよ。だから私いただきに来ちゃいました」

「白隔のコア晶石は抜いてある。どちらにしろあなたには使えないわ」

「ああ、それは大丈夫、動力源は」

 そこまで言葉を紡いだ瞬間、バキン! という音が背後から聞こえ、何かが彼女の方へと高速で飛んでいく。それは……

「私だから」

 白隔のコアパーツ……装飾品として体に付ける部品だった。もちろん中心部にあるべき大粒の白い晶石は存在しない。

 それを彼女は自らの額に近づけ……まさか!?

「鮫の場合、力の核は心臓、私は……脳」

 瞬間、両手の剣の晶石のパワーを引き上げる。オーバードライブ機構はタメに時間がかかるしここでは使えない。

 左手の剣を後ろに向け一気に炎を噴出、ブースターの要領で加速する。

 電撃で意識を飛ばして、何とか奪われる前に気絶を……

 だが剣に電撃をまとわせ振り下ろそうとした瞬間、何かが私の斬撃を遮る。それは……

「うん、やっぱり適当なものを操るよりもスピードも上がるね、気に入ったなぁ、コレ」

 今の今まで後ろでマニピュレータに掴まれ、鎮座していたはずの白隔のシールドだった。

 シールドに守られている裏で彼女が髪につけている白隔のコアパーツには晶石が収まる部分に白い光が集積し、コアパーツ全体に白い模様が浮かび上がっている。

 周囲を素早く見回すと、残る五枚のシールドもマニピュレータから外され、宙に浮いている。

「キミはACHをやって長いみたいだし、知ってるでしょう? 白の力くらい」

「……他存在……支配……!」

 黒は自らをあらゆる面で強化することで他の全ての色を上回る。

 そして、白はあらゆる物を支配下に置くことで全ての色を上回る。

 それがたとえ、ほかの晶石の力であっても白は支配下に置くことができるのだ。

「そ、まぁキミの場合は使ってる晶石が私のと同級くらいだから君を直接支配して無力化。ってわけにはいかないけどね」

 それでも叩きのめしちゃえば全然カンケーないんだけど。とふざけた言葉を付け足し、彼女は笑う。

「舐めるなっ!」

 その言葉と共に私は赤陽の炎を実戦用の大きさへと変える。

 そして盾で守られている猫被へ向け、対化物(クリスタルホルダー)用の強さで剣を振るった。

 私にとっては聞きなれた、鼓膜を破く程の轟音が攻撃を受けた白隔のシールドから響き渡る。

 爆発を伴う斬撃の衝撃を足で滑りながら受け止め、猫被を部屋の外へとふっ飛ばす。それに伴い残りの五枚のシールドがすさまじい速さでふっ飛ばされた彼女を追っていく。どうやらまだ白隔を操作する余裕はあるらしい。

 爆発の音の後にコンクリートを砕くような破砕音が聞こえたのでおそらく廊下の壁を突き破り屋外に吹っ飛んでいるだろう。

「屋外ならオーバードライブ機構も使えるわね……」

 相手は上位色、身体適合型、オーバードライブ機構付の晶石兵装装備というプレミアの塊のような人間だ。必要ならばオーバードライブ機構も使う必要があるだろう。 

 自分が開けた壁の大穴の淵から飛び降り晶石の力を発動。炎を下向きに発生させ重力による加速度を緩和する。

 晶石兵装保管庫は数十年前から企業が撤退し、さびれた倉庫街となった港区の一角に設けられている。

 コンクリートで固められた保管庫の敷地内の平らなグラウンドのようなところに、六枚のシールドを浮かせて猫被は立っていた。

 さすがにさっきの一撃を無傷で受けきるというわけにはいかなかったのか、来ている青いパーカーの肩から背中側がかなり大きく破けている。

 だが致命傷というわけでは全くないようだ。その証拠に、彼女の顔からは不敵な笑みが消えていない。

「どうしたの? こんなヌルい一撃じゃ私は倒せないよ?」

 そう長髪の言葉を吐きながらニヤニヤ笑い6枚の盾を自分の前方へと回す。

「使ってよ、オーバードライブ機構。せっかく鮫に正体バラしてまでここに来たんだからキミの実力くらいは確かめておきたいな」

「自信過剰ね、わざわざ使う時間を与えてくれるとでも?」

 その私の問いに彼女は六枚の盾を私の方に等間隔に六重で配置し、それぞれの盾の白い光を一層強くする。本当にオーバードライブ機構を使った私の一撃を真正面から受け止めるつもりらしい。

 何かの罠かとも思ったが、私は剣をクロスさせ体勢を沈みこませオーバードライブ機構を使うための構えを取る。

 陳腐な策を取ってくるような奴なら一回くらい騙されてもどうにかできる。という考えが浮かんだのだ。

 右刀のメインの晶石を強く光らせ、チリチリと周りの空気が焦げるのを匂いと肌で感じながら宣言する。

「オーバードライブ機構システム起動スタート

 その宣言と共に右手のメインの晶石のエネルギーを左手のサブの晶石へと移していく。

 そしてそこでエネルギーを加え右手の晶石へ戻し、右手の晶石でエネルギーをさらに加算する。

 制御しきれず漏れたエネルギーが私の周りにあふれ、夕焼けに照らされたように周囲を赤く染め上げる。

「この剣は、最強のクリスタルホルダーを倒した剣よ」

 その言葉と共にさらに構えを変える。雷火を二刀剣に纏わせ二つの剣が一本の直線状に並ぶように持つ、そして纏わせた雷火の形状フォルムを意図的に変え、一つの形を作り上げていく。

「簡単に受け止められると思うな!」

 二本の細く、鋭い細剣レイピアから一本の分厚く鈍重な大剣クレイモアへ。

 兄が使っていたころの固有名は『炎帝剣』。かつて最強の力を持つクリスタルホルダーを一刀の元に切り伏せた最強の晶石兵装だ。

 私の身長と同じほどのその圧縮した雷火の塊を大上段に構え、私は轟音と共に六枚重ねの白隔の防御壁へと炎帝剣を打ち込んだ。

 白い燐光が大剣を受け止めるように私の攻撃を包み込み、受け止めようとする。

 だが無駄だ。どんなに他存在支配で強化していようとこの剣はあのシールドを六枚纏めて切り裂くことが可能だ。

 あちらがオーバードライブ機構を使える。というのであれば話は別かもしれないがオーバードライブ機構は先ほどただ奪っただけの人間に使えるような甘い代物ではない。

 どれだけ硬くしようがこの剣で貫く。その断固たる意志を込め、私は剣に荷重を与え続ける。

 だが、

「バカ正直に受け止めてたら確かにかなわないよ、でも」

 突如、剣から伝わる感触が変わった。

 まるですさまじい硬さの岩に剣を叩きつけているような感触から硬いが薄い板の下にやわらかい綿のようなものが詰められている感触……

「力には、知恵。古代から人がやってきたことだよ」

 猫被が薄い笑みを顔に浮かべるのが自分の赤い光と彼女の白い光の向こうに見える。

 そして、私の剣の攻撃を白い盾は受け止めて、受け止めて、受け止めて……受け切った。

「…………」

 息が乱れる。理解ができない。力の総量では確実に私の方が勝っていたはずだ。

 なのに、破壊できたのは六枚中前面に在った盾二枚だけだ。

 残りの盾は傷一つなく猫被の周囲に再び展開している。

「種明かしをしてあげるよ。なんで力で勝っているはずの君が私の防御を貫けなかったのか」

 内心の混乱と動揺が表情に出ていたのか、猫被がにやにやと笑いながら私へと話しかける。

「私はね、六枚重ねで置いた盾のそれぞれの間に空気を圧縮して詰め込んでたんだよ。私の他存在支配の力でね」

 その種明かしに私は歯噛みする。

 つまり盾の間に空気のクッションを詰めることで単純に衝撃を受け止めるだけでなく、別のベクトルへと分散させたということか。

「……」

「そしてもう一つ。なんで私がキミの必殺技を大きい隙を見逃してまで使わせてあげたのか。教えてあげるよ」

 そう言い、彼女は割れた二枚を含めた六枚の盾を自らの周囲に集め……そして、ゆっくりと回転させる。

 その回転の速度は徐々に……徐々に上がっていき、纏った白い光が相まって、まるで繭のように見える。

 そして、最後に。私を驚愕の渦に叩き込む言葉を彼女は言い放った。

「オーバードライブ機構システム起動スタート


 

 

 

 

   ◇◇◇ 第三章 ---Reverse〈裏返し〉--- ◇◇◇ ------------end-------------


 

 

  

 

 プルルルルという素っ気ない着信音がポケットから聞こえるが電話を取る。という行動へと結びつかない。

 なんで。どうして。

 混乱する思考がまとまらない。

 フラ……とよろけ、めまいがして思わずその場にへたり込んでしまう。

 精神が混乱したまま何分経っただろうか。

 ただ何もできずに数分たった後、上階から何かが崩れたような重低音が聞こえる。

「……! フェイか?」

 今の音が示すところはただ一つだ。フェイと猫が戦いを始めた。それしかありえない。

「……くそ」

 とにかく、ここでフ抜けていても仕方がない。

 なんでもいい、とにかく蚊帳の外でなにかが流れていくのをボーッと眺めているという事態だけはダメだ。

 階段を上り、廊下を走り、先ほどまでフェイと話していた白隔の保管部屋の前に行くと、そこには恐らくフェイが空けたのであろう焦げ跡がところどころに付いた大穴が空いていた。

 開きっぱなしのドアから保管部屋の中をのぞくと、そこに白隔はない。猫があの勢いのまま奪ったのか。

 そして再び壁に開けられた大穴の方へ目を向けると同時に、凄まじく眩しい白い光が外から射し込んできた。

 それは先ほどまでの俺との戦闘とは比べ物にならない大きな力を猫が使ったという証拠だ。

 瞬間足を強化して壁の大穴から飛び降り、硬い地面からの衝撃を人外の柔軟さを付与され筋肉が吸収する。

 そして降り立った俺の視線の先にいたのは……

「ああ、鮫」

 凄まじい力を使った後である証拠のかけらのような白い光、数枚の盾を纏う猫と、その目の前に跪いたフェイだった。

 フェイのその眼は苦渋に満ちた……いや、それでは収まらない憎悪とすら言える感情を猫に向けていた。

「猫……どういうことだよ……」

「ゴメン! 説明したいのはやまやまなんだけど、ここでモタモタして面倒くさい事態になっても嫌だからさ……本当にゴメン!」

 猫はこちらに手を合わせ、その後右手に白い光を纏わせまるで何か合図をするようにその右手を振り上げる。

 そのアクションが何らかの指示だったかのように周囲の空気が地面の砂ごと渦巻き、俺とフェイへ突風となり、ぶつかる。

「……!」

 腕を盾にし突風から顔を保護する。

 そして収まった時には上空で操っている盾に座り、腕を振っている猫が僅かに見えるだけだった。

「……なんだよ……これ……」

 再び俺はしりもちを着きただ遠ざかっていくアイツを見ることしかできなかった。

「なんなんだよ……これ……」


 


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