---Newbie<新入り>---(5)
さて、ACHという職に求められる第一の素質として晶石を扱う才能があげられる。
これは晶石からどれだけ力を取り出せるか。その力をどれだけ精密に操作できるかを測る要素だ。俺なんかはこの才能一つで採用されたことからもわかるとおりACHという職において最重要視されるものなのは間違いない。
しかしそれ以外の要素が軽視されているというわけでは決してない。実際問題ACHの業務は体力的、精神的にハードなものなのだ。いくら晶石に関して才能があってもある程度丈夫な人間でなくては務まらない仕事なのは間違いない。
少なくとも。
今俺達の目の前にいる背の丈160センチにも満たない小さな女の子が務まる仕事ではないという認識は間違っていないと思う。
「え、えっと……よろしくお願いします……宝生いるかです」
そう言いぺこりとこちらへと頭を下げる……いるかちゃん。なんというか自然とちゃん付けで呼んでしまうなよやかなオーラを纏った女の子だった。
服装もACHとしてはかなり異端だ。ACHの制服である黒いジャケットを着ているのは良いのだが、その下に来ているのが……コートとロングスカートを足して2で割ったような運動にはとても不向きな服装のように思える。
長く伸ばした髪と繊細な……いや正直に言うとか弱そうな顔も手伝い、とても戦えるような人間には見えない。
梶原さんに案内された校長室のカーペットの上で俺とフェイは思わずまじまじと彼女の姿を凝視してしまう。彼女の名乗りから十数秒、呆ける俺達二人とにこやかに沈黙する梶原さん。緊張した面持ちのいるかちゃん。この四人の沈黙を破ったのは鋼哉さんだった。
「単刀直入に言いますよ。梶原さん」
「あら? 何かしら?」
「今回の仕事。俺は断るためにここに来ました」
「何故?」
「何故!? 何故と聞きたいのはこっちです!」
拳で黒檀のデスクを叩きつけ、梶原さんに対し鋼哉さんは声を荒げる。
「バカじゃないんですか!? 訓練生をいきなり実戦……それも到底新人がかかわるべきでない危険な任務に、しかも試験目的で同行させるなんてふざけてるとしか思えない!」
「そうねぇ、確かに鋼哉君には少し迷惑をかけてしまうことになったわね。でも昔のよしみということでお願いできないかしら」
「……ダメです。責任が持てません。ましてや俺は今『蒼穹』が使えないんです。使えたなら百歩譲って遠距離から撃ってそれだけで終わる可能性もありますが、今回は間違いなく危険にさらされる」
「晒してもらって構わないわ。そうでないと試験にならないもの」
にこやかに言った梶原さんのその言葉に鋼哉さんの目がさらに尋常ならざるモノへと変わる。
「……わかりました。そこまで言いますか」
「ええ、ここまで言うわね。この子は必ず役に立つわ。なんなら試してもらって構わない」
「いいでしょう、じゃあ試験の試験って形で試させてもらいます」
そう言い鋭い目線をいるかちゃんへと向ける鋼哉さん。
「嫌だと思うならハッキリと言え。お前が拒絶するならこの話はなかったことになる。俺は相当な無茶を要求するぞ」
「……やります」
「声が小さい! 聞こえるように言え!」
「やります! やらせてください!」
鋼哉さんの恫喝に対しすくみながらもはっきりとYESと答えるいるかちゃん。その姿に軽くため息をつき鋼哉さんは今度はこちらへと向き直る。
「試験の試験っていうのはお前らも含んでる。だらしない姿見せれば今回の話は流れるぞ。……20分後に晶石兵装持って第3模擬戦場に集合しろ」
それだけを言い残し鋼哉さんは校長室から出て行く。嵐のように決まった様々な事柄に俺たちは多少茫然としてしまう。
「さて、たった20分だけどこれから新たなチームメンバーとなるのだし先輩として引張って行ってくれないかしら?」
「……わかりました。えっと行こうか……いるかちゃん。第3模擬戦場ってどこか案内してくれない?」
「は、はい! こっちです!」
そう言い校長室の扉を開き先導していくいるかちゃん。
「えっと、あの人が現役最強だっていう……」
「ええ、そうよ。第一印象はどうかしら?」
「その……怖い人だな……と」
「大丈夫大丈夫、あの人何気に人間臭いしその内慣れるって。あ、名乗り遅れたけど俺、竜ヶ崎 鮫。これからよろしくー」
「フェイルク・ヤストレブ・ソーヴァよ。こんな見た目だけど日本語はちゃんと喋れるから」
「は、はい。よろしくお願いします! 師匠から最強候補の方と凄い努力家だって聞きました。不束者ですがよろしくお願いします!」
そう少しズレた返答を返すいるかちゃんを見、この子は本当に戦えるのかなぁ……と再び思ってしまった。
◇◇◇
鋼哉さんに指定された第3模擬戦場。そこはだだっ広いグラウンドだった。晶石による防護措置さえなくただ砂が舞っているだけの四方1000メートルほどの平面。
その隅に鋼哉さんは佇んでいた。
流石に最強のACHともなれば話題性があるのかグラウンドの隅に設けられた保護フェンスの前にはいるかちゃんと同じ年頃の子たちが押し合いへし合いでたむろしている。
「フェイルク・ヤストレブ・ソーヴァ二級晶石戦闘官、ただいま到着しました!」
「竜ヶ崎鮫三級晶石戦闘官、到着しました」
「宝生いるか訓練生、ただいま到着しました!」
「よし……と言いたいところだが宝生……」
「は、はい」
「何だそれは」
「しょ、晶石兵装……です」
その答えに鋼哉さんが頭を抱える。その反応に無理もないよなぁ、と俺は内面で鋼哉さんの反応に同意の念を示した。
姉である宝生さんの武器は青属性のブーメランだったため、俺もいるかちゃんは青系の晶石兵装の使い手だと考えていた。だが、彼女の晶石兵装はおおよそ俺たちの誰も予想が出来ない代物だったのだ。
棒の先端に紫色の晶石がついている形だけを見れば杖に近いだろう。それももはや普通の武器とは言えないが、前例を榎国島で見たことがあるのでそれならばまだ納得はできる。
だが彼女のそれは先端が膨らみ、そこから刃とも安定化装置ともつかない流線型のパーツがいくつも飛び出している。いや俺はそれの正式名称を知っている……知っているがそれは本来もっと柔らかい物のはずなのだ。
いや、恐れずに言おう。ここで誰も言わない以上俺が言うしかあるまい……
「箒……だよね。それ」
「は、掃いたりはしませんよ!?」
そう。白銀色で形作られたその形状は元の機能を持っていなくても箒というのが一番しっくりくる形状をしていた。というか腰かけるであろうところに円盤状のパーツがついて体重をかけられるようになっているあたりマジで飛ぶのか。それ。
いるかちゃん自身のかなり変わった服装とマッチし、その姿はまさに魔女の少女だ。うん可愛い、可愛いのだが、可愛さ要らないのである。ACHの業務に。
ふとその晶石兵装の先端……晶石がついている部分を見、違和感を覚える……それは
「あれ? この晶石兵装……三つ晶石がついてる」
そう。箒の毛の付け根部分にある紫色の晶石。普通の晶石兵装なら一つだけしかないはずのその部分には一直線に三つ晶石がついていたのだ。
もしやオーバードライブ兵装か、と他に晶石がついていないかと見るが、ついているのはその三つだけである。
「えっと、これ師匠が手配してくれた晶石兵装なんですけど……何か、特別製らしいです」
「……第二世代、か」
ふと、鋼哉さんがぽつりとそうつぶやく。
「え?」
「こりゃ第二世代のオーバードライブ兵装だな。一応晶石エネルギーの増幅機能も入ってる……というか使えるのか? お前」
「は、はい! 一応使えます!」
その言葉にその場にいる全員が程度の差はあれ驚きを表明する。
「……なるほど、梶原さんが入れ込むわけだ」
ほんの少し、得心が混じった声でそうつぶやく鋼哉さん。しかし俺にはそんなことよりも懸念することがあった。
フェイだ。
そっと視線を横に向け、彼女の顔色をうかがう。彼女がオーバードライブ兵装という物について抱く思いをはっきりと理解しているわけではないが、少なくとも安く扱われてどうとも思わない。ということはありえない。
内心戦々恐々としながら伺った彼女の顔は……少々予想外なものだった。
どこかさびしそうな、諦観しているような。彼女らしくない表情だったからだ。
「……さて、まぁ晶石兵装についての談義はこれくらいでいい。これからやることを説明するぞ」
その鋼哉さんの声でフェイの表情が即座に引き締まった物へと変化する。多少気になったが今はそれを問うような時間ではない。今から俺達の実力を試されるのだ。気を引き締めていかなければ。
そう想い、息を一つ鋭く吐き出し鋼哉さんへと向き直った。
まさかの一日2話投稿、イヤ本当に調子の上がり下がりが激しい自分に嫌気がさします。
さて、ようやく登場しました宝生さんの妹いるかちゃん! 魔女っ子です。リアリティという物に腹パン入れてブン投げているような存在です。
とはいえ実をいうとまともに描く初めての年下キャラだったりします。作者の好みとしては年下寄りなんですがなぜか年上がヘタレキャラというギャップ萌えを描いたり姉御キャラが多いんですよね……不思議だなぁ……
いるかちゃんですが実をいうとかなり前から絵も出来上がっております。なので早く出したい早く出したいと思ってはいたのですが筆が進まず……ようやく出せたなーと感無量であります。
ちなみに作者イメージはコレ↓
ロリ期待した人はすいません、なんというかロリというか後輩キャラって感じです。
さて深夜テンションで色々と書いたあとがきですが、ここら辺で一区切りさせていただきます。それでは読んでいただけた皆様には今一度感謝の言葉を。
本当にありがとうございました!
それでは