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グリッター!  作者: ちけっつ
Sky Blue
13/45

---New Stage〈新天地〉---(2)

すいません、文章のつなぎのところを間違っていました


 コンクリートで形作られた非常に簡素な船着き場の地面を踏む。

 間近で見た榎国島は人工島というだけあって、俺が知っている自然な形の島とはかなり違った形状をしていた。

 まず抱いた印象は平たい。ということだ。

 自然にできた島ならば必ずあるはずの地形の高低がほとんどなく、コンクリで固められた地面は飛行機の滑走路のように非常に平たい。

 島の外周部はほぼその平たい地面で形作られており、海との境に柵のような物はない。

 ただ、平たいとはいってもそこら中には破壊痕のようなものが点在しており、補修等はほとんどされていない。俺と同じACHの制服を着ている人間がある程度の間隔をあけて常駐しているところを見ると、どうやら島の外周部こそがACHの戦う主戦場らしい。

 円形の島の中心部には背の高い建物がそびえたっており、その周辺にのみ分厚い鋼鉄の壁が建設してある。どうやらあそこが研究所やACHが寝食を行うスペースらしい。

「随分と個性的な形の島ですね……」

「軍事拠点としての機能が主の島だからね、正直つまらないと言ってしまえばとことんつまらないところだと思うよ。まぁだからこそ金儲けに専念できるってのはあるけどね」

 そう言い、一緒に来た尾道さんはクックッと笑う。

 何故だか上機嫌な尾道さんとは対照的に、俺は居心地の悪さを感じていた。なぜならば……

「それとなんか俺、見られてる気がするんですけど気のせいですかね?」

 そう、外周部にたたずむ老若男女のACH。チラリとみるだけでも数十人はいるその同僚から時折視線を向けられるのだ。

 中にはあからさまに俺を凝視し、品定めでもしているような目線を向けている人間もいる。

「そりゃそうさ……今までは本土の待機所で落ち着いた子たちとしか接触しなかっただろうけど、ここは最前線だよ? 黒のアンセスターなんて言うレア中のレア能力を自分のチームに組み込みたいなんて子はいくらでもいるだろうし、自分の利益を取られやしないかとヒヤヒヤしてる子だっているだろうさ。第一、君とフェイ君と猫被君の事件は大事件と言っていいレベルのモノだし知ってる子はいくらでもいる。そんないろいろな事があって注目されないとでも思ってたのかい?」

 その言葉に気が重くなる。つまり今後俺を巡った青田買いの勧誘合戦や身に覚えのないイヤガラセを受ける可能性もあるということだ。先行するフェイの顔をチラリとみると口を押えている。がその隙間から笑っているのがチラリと見える。この女……。

 そんな会話を交わしていると、俺達が目指している中心部の塔。そこから二人の人間が歩いてくる。

 歩くにつれ姿をはっきりと視認すると俺はその姿に驚いた。

 別に服装や姿が変というわけではない。俺達と全く同じ、黒いACHの制服であるジャケットにカーゴパンツだ。だが問題は近づくにつれ男女だと分かった二人の男の方が背負っているブツである。

 おおよそ普通の人間が扱うには余るであろう長大な銃。

 全体の長さはおおよそ二メートル、口径はおそらく十センチ近くあり銃身から薬室にかかるデザインは流麗ではあるが重厚感たっぷりの鋼鉄で形作られている。

 あの大きさからして重量はおそらく五十キロは下らないだろう。

 そして薬室の中央に添えられたかなり大粒な青い晶石と銃身に並べられた6つの晶石がその銃がオーバードライブ兵装であるということを示している。

 どちらかといえば戦車の副兵装として扱うほうが適切ではないかと言えるほどの大仰な銃ではあるがその銃を見て、ああなるほど、とある種の納得も俺の頭には浮かんでいた。

 確かにあのふざけた銃ならば八キロ超の超遠距離狙撃も出来るだろう。というある意味での説得力がその銃にはあった。

 つまり目の前にいるこの人こそが現役最強のACH。

「鋼哉君。久しぶりだね。相変わらず変わらぬ銃の腕前、来る途中に見せてもらったよ」

「そりゃどうも。そっちが噂の将来有望なルーキーですか?」

 尾道さんの挨拶にそう答えながらこちらに顔を向けたのは、それこそどこぞの軍隊に入り戦争を経験してきた、といわれても全く違和感のない堂々とした態度の若い男だ。

 背は俺より少し高い一八○センチ程度 髪の毛はオールバックにしており、腕などからは流石に背負った巨大な銃を扱うだけあるのか、欠かさず鍛錬を行っていることがうかがえる。

「あ、はい、竜ヶ崎 鮫って言います。よろしくお願いします」

「ああ、鋼哉 士狼だ。よろしく、とはいっても今この島は新人を歓迎できるほどぬるい状況じゃねーから気だけは引き締めといてくれ」

 そう自己紹介する鋼哉さんの横から鋼哉さんと一緒に中央部の島から出てきた柔らかそうな茶髪の女の子が俺の前に出て鋼哉さんと同じように名乗る。

「はいはーい! 私は宝生ほうしょう 阜羊ふようっていいまーす! 鋼哉さんの弟子やってるんで今後ともよろしくー!」

 何とも明るい声が張り詰めていた緊張感を少し緩和してくれる。

「まぁ弟子っつってもたまに実戦形式でアラを指摘してやってるだけだけどな、フェイにもやってやったことだし時間があれば鮫君もやってみるか?」

「あ、はい! よろしくおねがいします!」

 実戦形式というと、つまりあの銃で撃ちまくられるということか。そしてそんなことを当たり前のようにフェイやこの宝生さんはやっているのか。

 まぁ確かに戦闘技能の向上には役立つのかもしれないけど。

「話を戻すけど今この島はかなりの問題を抱えてる。正直言って新人育成にふさわしい場所とは言えないぜ、尾道さん」

「ふむ? どういうことかな? 鋼哉君」

 そこで鋼哉さんはため息をつき、どこか暗い感情を含めてこう言った。

「高知能型のクリスタルホルダーが統率する群れが、最近近辺に出没してる。この一週間でもう五人死んだぜ」

 

   ◇◇◇


 

「高知能型っていうのは読んで字のごとく、知能が高いタイプのクリスタルホルダーだよ」

 中央塔内部のミーティングルーム。そこで俺とフェイ(とはいっても主に俺だが)は今回の事態の説明を尾道さんと鋼哉さんから受けていた。ちなみに宝生さんも部屋の隅でぐでーっと伸びている。

「とはいっても言葉が通じるとか算数ができるとかそう言う意味での知能が高いっていう意味じゃない。まぁそう言う意味もあるかもしれないがそんなの確かめようもないしね。重要視すべきなのはクリスタルホルダーがこちらを攻撃してくる際に様々な知能的手段を講じてくるということさ」

「仲間を囮に使ってその隙にこっちの弱い奴から攻撃したり、重要な施設を破壊してそっちにかかりきりになってるうちに手薄になったところから襲ったりな」

 その例えに俺は背筋が寒くなる思いだった。謀略というのはもはや人間の専売特許ではないらしい。

「しかも今回は群れの規模が大きい、つまり多様な能力を持った群れが知能的なボスに使われている。相当に厄介な状況なんだ」

 そんな状況の中に役立たずのニュービーが来たわけか。イラついて怒鳴り散らされなかっただけマシだと思うべきかもしれない。

「さすがに多対一の水中戦ができるようなACHはこの榎国島にはいない。末端の個体を何匹か始末はしたが、問題の高知能型が海底に潜んでいる以上根本解決には至っていない」

 泥沼というわけか。

「一番簡単なのは末端の個体だけでも何とかして大部分をツブしてボスに尻尾巻いて逃げかえってもらう。ってことなんだがどちらにしろ根本解決にはならないし時間がかかる。榎国島は東京近海の防衛の要だ。俺たちの威信にかけて今回の件はキッチリとした決着。つまり高知能型のクリスタルホルダーを仕留める。という形で終結させたいんだ」

「ふむ、じゃあ竜ヶ崎君の面倒は見れないと?」

「いや修羅場の一つや二つ、一流になるなら必要でしょう、別にかまいませんよ。ただお客さん扱いはしません。キッチリしごくのでそこらへんは了承してもらいます」

 そう尾道さんに言い、鋼哉さんは俺の方へと向き直る。

「というわけだ。数週間の間鍛えてやる。骨の髄までしごいてやるから覚悟しとけ、二十分後に島の南方の外周部で早速鍛錬だ」

「は、はい!」

 最強のACHが鍛えてくれるというのだ。断るわけにはいかない。

「それとフェイ。お前もしばらく本土にいただろう。一緒に鍛えてやる。宝生とはお前も初めてだったろうし一度模擬戦でもしてみな。強ぇぞ宝生は」

「え、マジッスか!? 師匠! それマジで言ってくれてるんスか!?」

 何気ない鋼哉さんの一言だったが少しオーバーアクションとさえ取れる反応を返す宝生さん。

 どうやら鋼哉さんは滅多に後輩を褒めてくれるような人間ではないらしい。

「あ、はい! わかりました!」

 流石にいつも無愛想なフェイも新人時代の先輩及び最高の技量をもつ先人に対しては敬意を払うらしい。

 尾道さんにすら敬語を使ってこそいるものの根元からの敬意は払っていない気がするコイツがここまで素直になるのも珍しい。

 そう思いながらフェイの方へと振り向きその顔を見て、俺は……なんというか怖気というモノを感じた。

 別にフェイが気持ち悪い行動をしていたとか鬼神も真っ青の凄絶な表情をしていたというかそう言うわけではない。ただ、なんというか俺の知っているフェイとは全く違う表情を浮かべていた。

 脳の中から何とかその表情に見合う単語を見つけ出そうとボキャブラリを総動員して、ようやく出た言葉は…………恋する乙女?

 その言葉が思い浮かんだ瞬間、俺は横目に見ていたフェイから一瞬で顔をそらし思わず下品な音で息を吐き出してしまう。

 いやいやいやねーだろ、この焼きゴテみたいな武器ででっかい動物を殺すのが趣味の陰湿女が恋する乙女って、まさかバレンタインに『センパーイ私のチョコ受け取ってください!』みたいな青春的一場面を鋼哉さん相手に繰り広げているとでも?

 そんな場面に直撃したらこの先半年は笑いの種に事欠かない自信がある。

「さて、じゃあ俺らも少し用事があるから先に南の外周部に行ってろ。俺らは後で行くから」

 そう言い、鋼哉さんと宝生さん、そしてなぜか尾道さんは部屋を出て行ってしまう。

 残された俺とフェイ。よしカマかけてみるか。

「なぁフェイ」

「何?」

「まさかとは思うけどお前鋼哉さんの事好きなの?」

 ダメだ。俺はなんて口が下手なんだ。こんなもんたとえ本当に好きだったとしてもボロなんて出すわけないだろう。

「はぁ……貴方何を言っているの?」

「うんいつも通りの返答。それはいいんだけどさ……なんでお前そっぽ向いてんの?」

 わかりやすっ! コイツパッと見精神年齢高そうだけど実は滅茶苦茶ガキだろ!

 もし間違っているなら今の言葉の後に俺をからかう言葉が幾つかくっつくはずだ。

「そっかぁ……フェイは鋼哉さんの事好きなのかぁ……」

 妙に俺の言葉が間延びしたものになる。自分の表情は鏡を見ないでもわかる。

 おそらく、この世で一番人をバカにした顔だ。

「クッ……」

 憎々しげにこちらを睨むフェイ。おお、ここまでこの女に対して優位に立ったことが今までにあろうか。

「白のアンセスターに育てられた龍少女とグレーゾーンな恋愛してる人間が……」

「あっはっは、いやーいいネタもらっちゃったなー、まさか仕事一筋のフェイルクさんがこんなに乙女だったとは」

「殺す! 剣の錆にしてやる!」

 南方外周部までかなり本気で鬼ごっこをしたことは言うまでもない。

 

 

  ◇◇◇

 

 

「よし、今からとりあえず竜ヶ崎とフェイの力を見せてもらう。ついでに宝生や俺の力も見て大体どんなもんか理解しといてくれ」

 南方の外周部、わずかに人が少ないその場所で俺たちは鋼哉さんの指導を受けていた。

「やり方は簡単だ。三対一で俺相手に本気でかかってきてもらう。こちらからも当然攻撃するから油断してたら大怪我するぞ、殺す気で来い。俺に一発でも食らわせられたなら好きなモンなんだっておごってやるよ」

 ちなみに今までこの条件達成したのは三人くらいだ。と鋼哉さんは付け加える。

「まぁ即席チームのお前らにチームワークなんてさほど期待しちゃいねーが、足の引っ張り合いだけはするなよ」

 そう言い、鋼哉さんは背負った長大な銃を構える。決して軽々と。というわけではないが想像できる重量から考えればそれを振り回せるというだけで鋼哉さんの腕力がうかがえる。

 しかしその姿に疑問を覚える。

 いくらあの銃が強力とはいえ、鋼哉さんが熟練であれ、三対一であの小回りの利かない武器はいくらなんでもハンデが過ぎるのではないだろうか。

 フェイと宝生さんはそんな疑問は露ほども抱かず双方の武器を用意している。

 フェイはいつも通りの二刀剣。

 そして初めて見る宝生さんの武器を見て、へぇ、と感嘆の声を上げる

 四方に突き出した恐らくはカーボンナノチューブで作られた黒い羽、その羽の一枚のみに青い石が取り付けられており、中央には完全な円の穴が開いた武器。ブーメランだ。

「そんなもんも晶石兵装の中にはあるんですね」

「晶石は色々と特異な効果も持ってるからね。フツーの武器に出来ないようなコトもできるし、本来効率的じゃないようなことが思わぬ効率につながったりもするんだよ」

 そう言い宝生さんは羽の一枚を持ち、軽く体勢を低くし構える。

 どうやら通常の状態ではブーメランの羽は刃のように研ぎあげられている。というわけではなく晶石の力を発揮してこその武器らしい。

 宝生さんの向こうではフェイが二刀剣を足のホルスターから抜き去り交差させるような体勢で構えている。

 あれはオーバードライブ機構を使うための構えだ。

 つまり、三対一だろうが武器が多数を捉えるのに向いてなかろうが、鋼哉さんは決してなめてかかってはいけない相手だということだ。

 俺も心臓の晶石から力を取出し、即座にどこでも強化できるように神経を張り詰める。

「カウント始めるぞ、三、二、一」

 ゼロ。その瞬間青いマズルファイアが銃口から迸った。

「うおおおおおお!?」

 慌てて足を強化。左へと転がり込むように跳び回避する。

 チラリと後ろを振り返ると直径三メートルはありそうな極太の光線が俺がいた所と宝生さんが居た所を貫いていた。

「おらおらー、動かねえとどんどん狙い撃ちにすっぞー」

 そんな声と共に、再び銃撃。しかも今度はマシンガンのようなダラララという連射音が聞こえてくる。

「ちょ、まっ、うえ!?」

 まるで追い立てられるようにコンクリートの地面を蹴り、鋼哉さんから離れるように動こうとし、気づく。

 相手は八キロ先の船のそばにいる生物を正確に狙撃できる人間なのだ。そんな遠距離攻撃のスペシャリストに対し自分から距離を取るなんて愚の骨頂だ。

 果敢に前へ。それこそがあの人に対する唯一の対抗策なのだ。

 脚部の強化を解除し、両腕部と胸部を防護強化。ガードを固め、突っ込む覚悟を決める。

 それと同時に鋼哉さんの背後からフェイと宝生さんが武器を構え飛び掛かろうとする姿が見える。

 銃身は当然こちらを向いている。今ならば完全に不意打ちだ。

「隙アリ!」

「ねーよ」

 だがその直後の鋼哉さんの行動に俺は目を見開いた。

 先ほどまで鋼哉さんが弾丸として使っていた晶石の青い光。それが鋼哉さんと鋼哉さんが持つ銃全体を覆う。

 そして

「うえ!?」

「キャッ!?」

 後ろから飛び掛かる二人をその銃がサイズと重さに見合わないスピードで、しかも片手で振り回され、二人纏めて吹き飛ばされたのだ。

 あの銃はおそらく鋼鉄製だ。明らかに普通の人間が腕力で振り回せるレベルの物体ではない。

 それを片手で振り回すとはいったいどういうカラクリなのだろう。

 だが、その予想外の攻撃は確かに驚きだったが逆にチャンスでもある。今の攻撃で銃口はこちらからそれたのだ。今なら鋼哉さんは無ぼう……

「油断すんなボケ」

「のわあぁ!?」

 強化した右腕に刺すような灼熱感が走る。防護強化していた右手に被弾したのだ。

 発射されたのは。いつの間にやら鋼哉さんの左手に握られている拳銃ハンドガン。あ、あんな晶石兵装まで持ってんのかよ。

 流石に片手ではあの巨大な銃を扱えないのか巨大銃の方の銃口はフェイ達に向けられているものの射撃はされていない。

 ハンドガンを懐にしまい、再び鋼哉さんは巨大銃の晶石兵装を構える。

「こんのっ!」

 だが先ほども感じたとおり、離れていては一方的に撃たれるだけだ。いくらなんでもあの銃が打撃武器としても高機能ということはないだろう。

 先ほどのような振り回す攻撃はあくまで補助的な物、あのハンドガンの晶石兵装と一緒に気を付けて接近すれば十分組み伏せられる!

「竜ヶ崎君! 突っ込んで! 援護する!」

 吹き飛ばされた先で宝生さんが立ち上がっている。眼を凝らすとブーメランに着いた青い晶石が光っている。

 俺とそのブーメランで挟み撃ちをする気らしい。

 ブーメランの羽についた晶石の光はドンドン大きくなり青い光がブーメランの形そのままに巨大化する。

 俺はなるほど。とわずかに思う。あの青い光が鋼哉さんが使うビーム状の光と同質の物であるならば確かにブーメランという通常は破壊力の低いモノであっても実用性に欠けるという事はないのだろう。

 とはいってもそれならば鋼哉さんと同じ銃か、古典的なものから引張ってくるとしても弓矢でいいはずだ。ブーメランという武器にそういう機能を付けたす合理的な理由にはなっていない。

 恐らくもう一つ何か仕掛けがあるのだろう。

「どりゃぁ!」

 気合一閃。彼女が掛け声とともに直径一メートルほどに巨大化したブーメランを投げる。

 それと同時に俺もその反対側から鋼哉さんへと襲いかかろうと近づく。

 二つの銃を同時には使えない以上二方向同時には対応できないはず! だが。

「お前ら、バカだろ」

 その少々呆れが入ったような一言と共に鋼哉さんは身をひるがえし、ブーメランを避ける。

 そして、そのブーメランは当然直進し、

「ぬおおおおおお!?」

 スルーされたブーメランはその勢いの赴くまま俺の顔の三センチほど前を通過する。

 し、死ぬところだった。

 ブーメランが後方に抜けるのを確認し、鋼哉さんの方向を見直す。今度飛んでくるのはハンドガンによる銃撃か巨大銃による砲撃かどっちだ。

 だが俺の予想に反し俺に対しての銃撃は行われなかった。

 見直した先、鋼哉さんの傍にフェイが赤い大剣を振りかぶり鋼哉さんのすぐそばへと迫っていたからだ。

 あの剣の威力は並ではない。もしも晶石の力を使わずに受けようものなら傷どころか確実に致命傷をもたらす威力なのだ。

 それをためらいなく使うというのはある意味での鋼哉さんへの信頼があるからか。

 とはいえフェイが接近に成功したのなら今はフェイの対応で手いっぱいのはず。俺が接近するのも容易なはずだ。

 脚を強化し一足飛びに鋼哉さんへと接近する。

 だが鋼哉さんとフェイの打ち合いを数瞬見ただけで歯噛みする。

 フェイの斬撃は決してヌルいものではない。この数か月見た限りでは少なくともクマくらいのクリスタルホルダーならば真正面から切り伏せられるモノだ。

 それを鋼哉さんは至近距離ですべてかわし切っている。技能的には決して専門ではないはずの近接格闘戦でスペシャリストのフェイを体術だけで、しかも巨大銃という荷物をもったまま手玉に取っている。

 流石に反撃はできないようだがかわすその動きに一切危なっかしさがない。

 だが防戦一方なら俺が加わればあるいは痛撃を加えることも可能かもしれない。

 そう思い立ち距離を詰め、俺は鋼哉さんへ肉薄する。そして拳を握りしめ、鋼哉さんに一撃を加えようとし……

「十点だ、百点満点でな」

 突如、鋼哉さんの両手が巨大銃から離れ、そこに青い光が宿る。

 先ほど銃を振り回した時と同じだ。まるで俺と同じ身体適合型のように自分に肉体そのものに晶石の力が宿っているような感覚。

 そして右手はフェイに左手は俺に向けられ、そのまま俺達の攻撃を避けようともせず棒立ちになり、それぞれの手のひらがフェイの大剣と俺の身体に触れ……

 突如、俺の身体強化が『解けた』

「へ?」

 強制的に常人レベルにまで戻された体感覚に呆然としながら、気づくと俺はフェイと折り重なるように組み伏せられていた。

 そして仰向けに倒された体の胸をブーツで踏みつけられる。

「げぶっ!」

「ま、こんなもんだろ。少し期待外れだったがな」

 そしてカチャリという乾いた音と共にハンドガンの晶石兵装が宝生さんへと突きつけられる。

 チームワークもクソもないただの烏合の衆ではあるが三対一でこうも簡単に組み伏せられるとは……しかもこちらの専門分野のはずの接近戦で……

 そして数秒経ってから鋼哉さんがハンドガンをしまい、俺の背中から足を退ける。

「さっさと立て、とりあえず今のと同じの十本だ」

 死ぬ。

 

 


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