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グリッター!  作者: ちけっつ
Sky Blue
12/45

---New Stage〈新天地〉---(1)

 青空を見つめる。最後ここ以外で仕事をしたのは一年ほど前の海外遠征だろうか。デスクワークでももう少しは足を動かすだろう。

 だが俺の仕事はデスクワークではない。治安を脅かす怪物を倒すというむしろこれ以上ないほどの荒々しい仕事だ。

 それにもかかわらず、俺はここ、絶海の孤島の一つの建造物の屋上以外ではあまり仕事をしない。

 別に仕事を干されているわけでもないし、サボタージュを行ってここで休んでいるわけでもない。ただ、俺にとってここが一番仕事がしやすいというだけなのだ。

 気分的に、というわけではなく、俺の技能の問題として。

 柵が取り払われた少し足を滑らせれば十メートルほど落下するであろう屋上の縁に腰かけ、俺は背負った商売道具を外し、準備を始める。

 銃、一般的な分類に乗っ取ればそうカテゴライズするべき武器が俺の相棒だ。

 黒い無骨な銃身バレルに透き通った青い石が一直線に六つ装着されており、普通の武器ならば弾丸を装填すべき銃の根本の部分には卵サイズの大きい青い石が装着されている。

 もっとも、サイズにして成人男性である俺の伸長と同じ程の銃を果たして一般的な銃と呼べるかははなはだ疑問ではあるが。コレは一般的には砲と呼ばれるモノではないかと俺は常々考えている。

 とにもかくにもその銃(砲?)を屋上から見える大いなる海へと向け、俺は注意して目を凝らす。

 眼下では後輩の怪物退治屋共が今か今かと怪物ども(メシの種)を待っている。何人かは慢心からか、油断からか、隙が多い。後輩の援護射撃も仕事の内だ。そいつらには要注意で援護を行うとしよう。

「っと来やがったなっと……」

 スコープの中から海面を覗き見、僅かな波を見つける。

 下の後輩共はまだ敵の接近に気づいていない。波の違和感からターゲットの位置を大体割り出せるようになるまで普通ならば六年はかかるので、まぁ仕方のないことなのだが。

「ボケッとしてると、まぁたメシの種をおれに奪われることになるぞー後輩共よ」

 誰に聞かせるわけでもない独り言をつぶやき、俺はコンクリの床へとうつぶせに寝そべり、銃のグリップへと手をかける。

 このクソ重い銃とももう長い付き合いだ。七年は付き合っているだろうか。コアの石から力を取り出す感覚が意識を狙撃する際の張り詰めたものへと変えていく。

 そして、タイミングを見計らい、引き金を引く。

 瞬間、蒼いマズルファイアがほんの一瞬スコープの視界を遮る。波間の影はいないが、もしも当たったのならばその近辺の海が血で赤く染まっているはずだ。命中していない。

 俺の波の揺らめきとわずかな影のみを頼りに狙撃する際の命中率はおおよそ七割。お世辞にも百発百中とは言えない精度だ。

 このまま俺が撃った事で敵がいると気づいた下の後輩共に任せてもいいのだが、それならばなるべく援護はしたい。

 敵はどこに……

 心の中にほんのわずかな焦りの種があったことは間違いない。次に起こった現象で俺はその種から一気に焦りを吹き出してしまったのだから。

 濁音と、何かを掻き毟るような音をごちゃまぜにしたような悲鳴。

 それが俺の狙撃への集中をかき消した。

「……ウソだろ……!?」

 俺が凝視したのは、浜辺。そこには今まさに巨大なシャチに海へと引きずり込まれる後輩の姿があった。

 急ぎ銃を構え、照準を合わせたとき、そこには……

「……畜生が……」

 わずかな波紋と、赤い血を漂わせた海しか、そこには存在しなかった。

 死人を出した。その苦渋を噛みしめ、俺、鋼哉こうや 士狼しろうはその海面を見つめ続けた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ACH。二二世紀の今、世界中に点在しているクリスタルホルダーを狩るその集団が初めて現れたのは四十年ほど前の日本だ。

 それまで自衛隊が行っていたクリスタルホルダーへの対策を独立した国の専門機関が一手に引き受け、研究するという試みを世界で初めて行い、入手できる晶石の豊富さとその量の多さ(もっともこれは危険度の高さに比例するわけだが)から晶石の研究を着実に進め、現在世界一の晶石大国と呼ばれているのが日本だ。

 さて、そんな日本のACHである俺、竜ヶ崎 鮫だが、今日でACHとなって三か月目になる。そんな俺に一つの話が舞い込んできた。

「最前線?」

「そう、この関東地方において若いACHが最もシノギを削っている場所。そこへと君には赴いてもらいたい。君自身のACHとしてのスキルアップのためにね」

 今俺は上司である尾道さんのオフィスに呼び出されている。仕事仲間のフェイルク・ソーヴァは居らず俺一人呼び出された状態だ。

「それってどこなんですか?」

「うん、榎国島えのくにじまと呼ばれる東京湾から出た沖にある島でね。東京湾と相模湾の防衛の中枢を担っている場所さ。金に飢えた狩人どもがウジャウジャひしめく激戦地だよ」

 うわー、殺伐としてそう……

「ACH専用の宿泊施設や簡単な晶石研究のベースともなっていてね、研究者やACHの貴重な人材や将来有望なルーキーが修行場所としているところなんだ。将来のチームメンバーを発掘しておくのもいいかもしれないよ?」

「え、チームメンバーって」

「僕としては一、二年で君に十人以下の少数編成チームなら任せられると踏んでるんでね」

 期待過剰にもほどがある。

「ま、それを差し置いても会っておいてほしい人はいるしね」

「会っておいてほしい人?」

「うん、現役で日本最強のACH。君の目指すべきレベルを実感してほしいってことさ」

 なるほど。つまり手本として参考にしろというわけか。

「まぁともかく正式な辞令は六日後だ。十月十七日東京港から出る船で榎国島へと向かってもらいたい。四週間ほどの長期日程になるからそのつもりでいてくれ」

「うえ……そんなに長いんですか……」

「食住に関してはある程度のクオリティが確保されてるし、何より景観は最高さ。何年もあそこに座り込んでいるような偏屈な人間じゃなければ見て見飽きるってことはないと思うよ。研究所の方もそこそこ興味深いものがあるしね」

 その口ぶりに引っかかりを覚える。それは誰か、特定の人物の事を指しているような響きがあった。 

「ま、本土を出たらしばらくは帰れないから恋しい味や見たい本とかがあるなら買いだめして持っていくことをオススメするよ」

 ごまかすようにそう付け加え、尾道さんは下がって良し、と俺に言い残し机の上の書類へと目を落とした。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 尾道さんからの辞令から六日後。俺は船上の人となっていた。

 ACH専用の無骨な軍用船のような船に乗り、一路、榎国島を目指しているのだ。

 甲板で地平線を見つめ、そして視線を下ろし……

「うげぇぇぇぇぇ」

 吐いた。せいぜい一時間ほどの航海だと思って船酔いをナメていた。ここまでキツイ物だとは……

「あら貴方乗り物に弱かったの? 随分意外な弱点ね」

 突如そんな声が後ろから聞こえる。振り向くとそこには、

「なんでお前は平然としてるんだよフェイ……」

「むしろ一時間も乗らない船で船酔いを起こしてる貴方の方が珍しい体質だと思うわよ。というより、貴方三半規管の機能が普通の人より高いはずなのになんでそんなに酔いやすいのかしらね」

 俺がクリスタルホルダーを狩る際のチームメイト、フェイルク・ソーヴァが居た。

「うるせぇ……船に乗るのなんて人生初なんだよ……自分の体質しってりゃ酔い止め持ってきたっつーの……」

「私持ってるわ。キッチリ頼むのならあげてもいいわよ」

「死んでも頼まん」

 この女……顔がニヤついてやがる……

 このまま話していてもあまり気分のいい話はできないだろう、話題を変えよう。

「尾道さんに聞いたんだけど、榎国島にいるっていう日本で一番強いACHの人ってどんな人なんだ?」

「鋼哉さんの事? 会えって言われたんだ」

 ん……? なんか声の調子が変わったような……まぁ気のせいか。

 俺の違和感をよそにフェイが言葉を続ける。

「どんな人……ね、まぁACHとはかくあるべし、を実践してる人かしら」

「かくあるべし?」

「強くて、後輩を育てることに熱心で、人格者。極論すればこの三つ以外にACHに求められる要素ってあるかしら」

 まぁ、その三つとも簡単に出来ることではないが。

「もう少し詳しく言うと、一年のほとんどを榎国島で過ごしている人で遠距離型ACH、武器は狙撃銃。後は私の指導を担当してくれたACHでもあるわ」

「へーフェイの指導を担当した人ね、もうちょっと性格とかも矯正できなかったんだろうか」

「殴るわよ」

 気分の悪さで柵に寄りかかっている俺を見下ろすフェイ。

「ま、運が良ければ島に着く前にあの人の力は見れるわよ」

「は?」

 島に着く前に?

「気になるなら島の方をずっと見てなさい」

 じゃぁね。と言い残し、フェイは踵を返し船内へと入って行ってしまう。

 何のことやらと思いながら、とりあえず船酔い対策も兼ね榎国島があるであろう船の向こう方向を見つめる。話しているうちに榎国島の影が薄っすらと見えるほどには近づいている。

 いつの間にやらフェイに言われたことより酔い止め対策が主な目的となった遠視を続けていると、ふとグラッと、船が大きく揺れる。

 くそっ、また吐き気が……

 吐こうと再び海へと顔を向けると……そこにはラッパのような口をした見覚えのある、しかしサイズは大きく異なった生物が居た。

 タツノオトシゴのクリスタルホルダーだ。

「え、うわっ!?」

 いきなり現れた珍奇な顔の敵を見、思わず後ずさる。

 それと同時に再度、船の揺れが今度は明らかな衝突音と共に起こる。

 恐らくあのクリスタルホルダーが船底にぶつかるか何かして船を攻撃しているのだ。

 この船に乗っているACHは俺とフェイだけだ。だが、俺は海上戦や海中戦の経験などない。

 そもそも俺の身体がいかに強靭といえど水中に入ってクリスタルホルダーと対等に戦えるかと言われると大いに疑問だ。ましてや剣士であるフェイに対水中戦の心得があるとはとても思えない。

「ど、どうすんだよこの状況!?」

 とにかくフェイに頼れない以上俺が何とかするしかない。

 両脚を強化し、甲板の中心に陣取る。視界にあのラッパ口が見えたら一瞬で飛び掛かり、急所である晶石の位置を特定して砕く。

 かなり難易度が高い上にそもそも上に上ってきてくれる保証などないが、絶望的な海中戦を行うよりはましだ。

 さぁいつでも来い、と神経を張り詰めさせた俺の肩を突如、ポン、と後ろから叩かれる。

 振り向くと、そこには先ほどとなんら変わらない表情を浮かべたフェイがいた。

「大丈夫だから、晶石使うの止めなさい」

「大丈夫って……この船そんなに頑丈なのかよ?」

 確かにクリスタルホルダーが跋扈する大海に乗り出す以上湖に浮かべるような船とはモノが違うとは分かっているのだが……

「それもあるけど、私たちが手を下すまでもないのよ。榎国島の方をずっと見てなさい。運がいいわね」

 そう言いフェイは榎国島の方を見る。俺も習ってそちらを向き……

 そして、目を疑った。

 見えた一瞬で認識できたのはそれが青い光だと言うことだけだ。

 それが俺たちの船を襲ってきたクリスタルホルダーを撃退するための攻撃だと分かったのが数秒後。

 青いビーム状の攻撃があの海獣型のクリスタルホルダーを貫いたということは理解できた。

 だが信じがたいのはその射程だ。

 俺たちの目的地。榎国島は今ようやく地平線の向こうに見え始めた所だ。距離にして八キロは離れている。

 フェイが言うには鋼哉さんとやらが扱う武器は狙撃銃らしい。

 確か普通の狙撃銃の狙撃の世界記録が三キロ少々、晶石兵装であるということの非常識さを加味しても異常な精度だ。

「どんな銃だよ……」

「あれが東京近郊の海域、空域の防衛を一手に担う最強のACH。≪守護者キーパー≫とか≪流星ミーティア≫とかいう異名まで持ってる人よ」

 流星……確かにあの銃撃は流れ星に似ているかもしれない。

「気を引き締めて引き締めすぎってことはない。あの島のACHは本土の連中とは違うわよ」

 その言葉に俺は生唾を飲み込んだ。どうやら俺がこれから向かっている場所はとんでもない場所だったらしい。

 

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