#5【その 素敵な思い出の箱は……】
それは突然過去から帰ってきたようなテンションであった。
「いぶりがっこのはじめてって、感動的だったわ……」
と博士は言っているが、この話とは関係ないので省略。
それより何より、とても嬉しそうなのは巨大フランス野郎のオゲル君なのです。
「OH! OH! OH! 王者の風よ! ヨカッタ、ホントウニヨカッタ! コレデマタハカセト勝負デキマース!」
その涙は、宇宙の果てのどこまでも流れて行くような気がします。まるで天使の歌声と共に一本足打法で金色のバットを振りまわすミカエルが、ホームランを打って、まばゆい光のコントラストを描きながら地上の私たちに幸福と安らぎのカクテル光線を見せてくれているかのよう……ウフフ。(←だ、誰が話しているの?)
そう、ここネオ・ジャポンでは、毎年恒例のイベントが開かれています。なんだか摩訶不思議。(←だから、一体誰が話しているの?)
それは国民の皆さんが待ちに待った『天下一発明工夫武闘会』なのです。ネオ・ジャポン中の発明家の方々や他の国々から集まったマッドサイエンティストさん達が、一斉に腕によりをかけた作品を見せびらかして力量を自慢しあう、それはもう素敵な素敵な大会なのです。(←誰か知らんが、進行を奪われてしまった……)
松戸博士はその大会の第756回大会の優勝者だなんて、何て素敵なのでしょう!
今年はその会場がこの御平家支払町だから、二人はすごーく気合十分なのです。
「oh! ハカセ。気ガツキマシタカ? コンドノ『天下一発明工夫武闘会』ノマエニ、クタバッチマイヤガッタラ、サミシイカギリナノデース!」
オゲル君はとっても嬉しそうです。博士もちょっぴり顔を赤くして、照れ笑いを見せています。
「あ、あんたがボクちゃんを助けてくれたの? フ、フンだ!お礼なんか言わないんだからね! 助けてくれだなんて一言も言ってないんだからね! で、でもしょうがないわ。三途の川から呼び戻されてしまったから、とことん生きてやるしかないわね!」
その七十七才の博士の表情ったら、まるで溶鉱炉でドロドロに溶けた鉄の色みたい。ううん、1300度の高温で焼かれてゆくセラミックの表面みたい。そのでっかい夕暮れに似た色は、どこか諸行無常で、どこか儚げ。兎に角でっかい素敵なのです。
博士は気を取り直してオゲル君に質問をしました。
「あ、あんた。さっき発明が完成したなんて言ってなかった? こんな夜中にボクちゃんの部屋の扉をぶち破って入って来たんだから、それ相当の発明品が完成したんでしょうね?」
「oh! ソレ、モットモナ話デアリマース! イトオカシナ、素晴シイモノガデキアガリマシータ!」
オゲル君はそのエーゲ海のような瞳を輝かせて、少年のように上腕二頭筋をブルブルと震わせました。素敵です。
「なら見せてみなさいよ。ボクちゃんのお眼鏡に適うようなものでなかったら、ただじゃおかないんだから!」
「oh! ワカリモウシタ。ソレデハコノ箱ヲアケテクダサーイ!」
オゲル君は、太陽のコロナのように大きくて温かな手で博士に発明品の入った箱を差し出しました。その箱は檜の香りがする素朴な箱です。
だけどなんだか手作りのいい感じがして、とても心が込められているような気がします。まるで作り手の優しい温もりまでもがこっちに伝わって来るみたいで……いっぱいいっぱい素敵が詰まった箱なのです。
「オゲルちゃん、この箱が発明なの? 檜で出来ているの? 不思議と人間の安らぎを感じるとは?!」
「oh! ソレ違イマース! ソレハタダノイレモノデース。ソノヘンニアッタ木材を圧縮してツクリマシータ!」
「その辺にあった木材を圧縮?」
博士はとても怪訝な顔をしました。だっていらない木材なんてないんですもの。あんまりお金持ちじゃないから、部屋のドアだってベニヤ板で出来ているし……。木材の中でもとても高価な檜の木材がその辺に転がっているなんて……。
博士の頭の中は、沢山のはてなマークで満たされてゆきます。でも一つだけ思い当たる節があります。うーん、でもそんなのあり得ない。だってそんな事あるわけがない。信じたくない。でも社交辞令的に聞いてみようかしら……。なんて思ったわけです。
だからアメリカンジョークさながらに博士はオゲル君に聞いてみました。
「ちょ、ちょ、ちょこっと質問なんだけど。そのネバーランドみたいないかした箱の材料、何処で手に入れたの?」
「oh! モチのロンデ、コノ家ノナカニキマッテイマース!」
「あは……。そ、そう、じゃ何処の部屋にあったのかしら?」
「oh! ソレハ今ツカッテイナイ部屋デース!」
「つ、使っていない部屋? それって畳が敷いてある部屋のことでは……?」
「oh! マサニソレデショウ!! 老ケタ地球人ノフォトグラフガ飾ッテアル線香クサイ部屋デース!!」
「ギャァァァァァァッ!!」
博士は卒倒しました。カイゼル髭が逞しい口元から、沢山の泡を吹き出しました。素敵です。
だってその檜の香りのする素敵な箱は、二十年前に亡くなられた博士の奥様の絹子さんの大事な形見のタンスだったからです。
博士は泣けてきました。それは博士の大切な大切な思い出が詰まったタンスだったからです。
これを読んでいるそこのあなた!
こんなヘンテコな読みものを、よく読んでくれていますね。
でっかい素敵です……