#16【その 素敵な刀の錆にしてくれる】
雄々しく空を駆るパイターン3。その姿は金銀派手な装飾を身に纏い、しかも夕日を然るべく存分に浴びたような、なんとも奇妙奇天烈、眉目秀麗な“傾奇者”の鎧武者を見ているようである。
「ワハハハハハ! ボクちゃんたち【オーラ・ムンド】が臥薪嘗胆の念、ついぞ晴らす時がやって来たのよ。祐天寺、いやジャンガラ戦隊ドナイダー軍団。そのあんた達の偽りの正義感などをぶっ潰してやるんだからぁ! 覚悟して頂戴!! 行くぞ、パイターン・スウォォド!」
松戸博士――パイターン3は、腰の辺りから「これは見事な!」光輝く長刀を抜いた。
これぞ『パイターンソード』。
その硬度はダイヤモンドの127.3倍。そして軟度も非常に優れ、叩いても砕けない性質を備えている。そう、いかに硬い性質を持ったダイヤモンドでも、衝撃には非常に脆い。しかしこのパイターンソードは、それまでの金属の欠点を克服した、前人未到の究極の“刀”なのである。して、その美しく反り返ったフォルムは、柳生十兵衛三厳が愛刀『三池典太』をモチーフにしたマニアック且つ、この世界にたった一つしかない天下無双なものなのである。
マッド軍曹は、それをざっくばらんな大上段の構えで振りかぶって見せ、
「この思い、戦闘員の純真な御魂と共に敵を斬り裂けぇ!」
と、寸分のぶれも無い振りで空を斬ってみせた。
「――やあ!」
それは、毎度毎度の特攻のみを想定とした、怒涛の如きうねりを伴った攻撃ではない。刀を振り下ろした後の、何ともいさぎよい心地よさがパイターン3の辺りをうかがう。高度300メートルの上空に聳え立つパイターン3を取り巻く《氣》が、一縷の乱れもなく、ただ、ただ、佇んでいた。
しかし、しかしだった!!
「ゆ、祐天寺博士! 大変です。こちらに何のエネルギー反応もなく、凄まじい攻撃がやって来ます!」
祐天寺博士が愛用の母艦『羞花閉月』は、混乱した。索敵オペレーターのその慌てぶりと言ったら、それはもうただ事ではない。
「ええい! 落ち着かんか、このブァカ者がぁ!! ぬしの日本語はまるでなっておらぬぞ!」
漢は腕を組み、凛とした構えで遠くを見つめたまま部下に一喝する。
そう、この男こそ、自らが世紀の大天才と自称する『祐天寺秋嗣』、その人である。
「ええい! 総員構え――来るぞ!」
その祐天寺博士の掛け声と共に、一瞬であった。
音もない、揺れもない、微かに響く超音波の類いもない。そんな波動が彼らの艦を襲った。それは正に“キレ”としか言いようのない凄まじい攻撃であった。
――『羞花閉月』の左舷の翼が瞬く間に本体と決別し、一筋の間をおいて、艦橋まで轟く爆発音が鳴り響いた。
「うああああ――!!」
断末魔の如き嘆きの声が、艦橋一杯に広がった。各種配置に就いたジャンガラ軍団の兵たちは皆、初めて出会う恐怖に『三途の河岸』で戸惑う陶酔感を禁じえなかった。
しかし祐天寺博士のみ、天変地異の如き揺れの艦橋にも屈せず、腕を組んだまま――あの《パイターン3》方向を睨み返していた。
「ええい! やってくれたな、松戸の愚連隊。否、マッド軍曹。敵ながらやるではないか! まぁ良い、それもまた然り!――こうでなくては英雄譚の最終話を華々しく飾れんというもの。――大人しくその償いを全うするのなら、それも善し! そちらがあくまで徹底抗戦を気取るなら、それもまた善し!――ならぶぁ、我らが義をもって介錯つかまつる。行けぃ! ジャンガラ戦隊ドナイダー。ドナイダーロボ発進!!」