#13【その 優雅なひとときは……】
それは長細く、円筒に出来ている。長さ8と1/2インチ、直径3インチ。周りは博士特注のブルーのコンブ製ラバー樹脂で包まれており、その中は何層にも及ぶ特殊コーティングされたレアメタルの鎧がコアを包む。
そのコアは、博士念願の最高傑作! 神をも超える芸術品。その名も『ミニ原子炉』。
なんとも、なんとも捻りのないその名前である。しかーし! その『ミニ原子炉』とやら……、かなりの優れものである。
――ミニ原子炉。
そのパワーは、通常の原子炉の127.3倍。分かりやすく言えば、通常の原子炉が127.3個あるのと同じ……?
(聞かないでください……)
あ、うん……、や、その、もっと分かり易く言えば、東○ドーム三万個分? えっ? 違う? う○い棒五千三十二億本分? 何それ、数字合ってんの? ていうかそれホントなの?
……なに、ん? うんうん。どうせ、こんな馬鹿げたもの読んでいる人なんて、ロクにそんな細かい数字期待しちゃいないだろうから、適当に、おっきな事言っておけば、雰囲気ぐらい、掴んでくれるだろうって?
……そ、そりゃそうだけどさ――うわっ! まずいよ、今のみんな読まれちゃったよ……
……というわけで、大体そんな感じです。
えっ? 何が?
あ、ああ……そうそう、博士の造った《ハイパーアトミックモーター》の動力部分の話ですよ。
とにかく、その『ミニ原子炉』とやらは優れものです。
第一に小さい――持ち運びは勿論、収納にだって便利。ほら、付属のアダプターを装着して、こうやって折りたたむと、なんと! フカフカのベッドに早変わり。
そして、こうやって専用のタイヤを付けると、お買い物に便利なご機嫌な買い物袋にもなっちゃう! これならいつだって買い物も可能です。時代は今や、リサイクル。レジ袋だってタダではありませんからんね。
そしてここからが本題! 待ってました!
皆さんは、核分裂に困った事、御座いませんか?
「ウランが近くのスーパーに売っていない!」
「濃縮ウランは、お値段が高いわ……」
「使い終わった放射性物質を埋めるのに、場所がねえ……」
そんな御嘆きの御貴兄に朗報!!
もう、ウランなんて使わなくったっていいんです! 高価な核分裂をしなくてっていいんです! 235だろうが236だろうがなんだろうが、もう時代はそんな事、厭いません。これさえあれば、もういつだって、どこだって、お構い無しに核分裂が出来ちゃうんです。
その名も、夢のハイパーテクノロジー燃料。『どら焼き!』
これならもう安心。
せっかく植えた、茗荷の絨毯畑を、あのにっくきジャンガラ戦隊に荒らされる心配なんてもうありません。
せっかく駒沢公園の一帯を、芳しい茗荷の楽園にしても、ドナイダーロボに踏みつけられる心配はありません。
この『ミニ原子炉』を携えた《ハイパーアトミックモーター》さえあれば、あの忌々しい『念仏スピリチュアル因果サイクロンシステム』なんかの嘘っぽいパワーの前に、敗れる事なんてありません。
操作は簡単!
和菓子屋は勿論、コンビニで購入可能などら焼きを《これ》に挿入するだけ。
すると、あら簡単。『ミニ原子炉』は、一番核反応し易いどら焼きを超膨大なエネルギーに変換してくれます。ボタンなどの使用は一切無し!
金属粒子並みに埋め込まれた制御装置が自動的に運転を始動。後は口笛を吹いて3秒待っているだけで、ほら! 貴方の目の前に素敵な未来が待っている事でしょう。
昼夜問わず、くだらない事を考えている貴方に。
最近、お腹まわりを気にしだした貴方に。
行楽のお供に。
夜のお供に……。
「素晴しいわ! ボクちゃんの発明ったら」
博士は腕を鞭のようにしならせ、自らを抱きしめる格好で独り、自画自賛を勤しんでいた。
「あら、アンタ? ボクちゃんの発明が凄いと思わないの?」
えっ? いや、凄いことは凄いですけど……
「なによ」
え、いや、それって……パクリなんじゃ……?
「あらなによーっ! ボクちゃんの発明のどこがパクリなのよーっ! ボクちゃんはマッド軍曹よ!そんな事するわけないじゃないのよーっ! もう、最近の日本男児は、すぐイチャモンつけるのよね……」
……博士は顔を真っ赤にして作者を怒鳴りつけてきました。非常識ですね。
そして、ホッと後ろにあった本棚に寄りかかると……、一冊の分厚い文庫本程度の書物が落ちてきました。
「あっ……」
博士はその書物をみるや、一瞬氷ついたような冷や汗を吹き出し、布団が猫を覆い被さるように、ワッと倒れこみました。
――や、やっぱり。
その書物。博士が覆い隠したその書物とは、
『大分析! ぼくらのド○○もん百科――それがどうしたひみつの章――』
「なによーっ! アンタだってこの話、パクリばっか使ってるじゃない!」
な、逆ギレですか?……大体、その主人公のあなたがそれを言っては……
「なによーっ! こっちはアンタの体たらくな文章のお陰で、もうテンヤワンヤなんだから!」
な、体たらく……ですか。解かりました。松戸博士。体たらくは認めましょう。ですが、腐ってもこの作品の“創造主”であるこの作者に、牙を向けましたね。それはあなたの大いなるミスです。
「……な、なによ。脅し?」
フフフ。
それは次回のお楽しみって事で。
「い、い、いいいいやぁー!!」