息を止める
誠は翌日になり、由香里の病室を訪れた。
昨日ほどの戸惑いはなく、扉を開けることはできたが、挨拶をしても母親が頭を下げてくれるだけで、由香里は顔を向けてもくれない。
結局その日は、一度だけ視線があっただけで、やっぱり由香里は苦しんだ後に眠ってしまった。
それは、次の日も、その次の日も同じだった。
あれから由香里とは一言も言葉を交わしていないが、追い出されることもない。
母親も説明してくれる様子もない。
戸惑いつつも、病院に行って側に座ることが誠の日課になった。
ある日、誠は何となく気づいた。
由香里は本当にただ、側にいて欲しいだけなのではないか、ということに。
それまでは誠も何かできないか、少ない医療知識やコミュニケーションを総動員して考えていた。
何か楽しい話をしようかとか、痛いところに手を当てようかとか、解らないなりに考えていた。
しかし、どれも由香里は望んでいないことが、何となく解る。
医学も無力で、人としても何も出来ない。
でも、側にいることが、わずかな救いになっているのであれば。
誠はそう思い、出来うる限り、毎日通い続けることにした。
由香里は起きている時間がだんだんと短くなってきていた。
ほとんど食べていない身体が、だんだんと痩せてきているのが解る。
誠にも嫌でも解る。
その日が近い。
それは、強い日差しが窓から入り込み、病室全体を明るく浮かび上がらせていた日だった。
静かな病室では、ただ由香里の荒い息遣いだけが響いていた。
由香里は昨日から意識がなかった。
そして、いつもは夜と休みにしか来ていない、父親もいた。
優しそうな顔立ちが、今日は疲れているのが解る。
きっと昨日は眠れなかったのだろう。
由香里の息が、ゆっくりと長くなっていく。
苦しげな表情が、しだいに緩んでいくのが解った。
看護師と医師が、静かに病室に入ってきた。
長くなっていた息が、途切れ途切れになる。
両親が、由香里の手をぎゅっと握りしめた。
みんなが見守る中、由香里は静かに息を止めた。




