学問の神様
翌日は、一日自由時間。
まどか、誠、曜子、悠太の4人で京都市内を歩いて回ることになった。
最初の目的地は、北野天満宮。
行きたいと希望したのは誠だった。
「どうして北野天満宮に行きたいのですか?」
まどかが誠に尋ねる。
「学問の神様といえば、誰だと思いますか?」
「えーっと、菅原道真?」
まどかの答えに、誠は笑顔でうなずく。
「ここはその菅原道真公が奉られているのです。」
「あっ、なるほど」
まどかも納得して笑顔になった。
「ちょっと早いですが、合格祈願をしましょう」
「はい!」
電車を乗り継ぎ、4人は北野天満宮にたどり着いた。
荘厳な木造の門をくぐり、境内の石畳を歩いていく。
まだいくらか時間が早いせいか人もまばらで、ゆっくりとあたりの様子を見ながら歩くことができた。
「そもそも、なんで菅原道真公が学問の神様と呼ばれるようになったか」
「はい」
まどかは誠の隣にいたが、曜子と悠太も誠の声が聞こえる位置で歩いていた。
「道真公は学者の家に産まれ育ち、5歳で和歌を詠み、11歳で漢詩を作ったと言われています。いわゆる神童ですね。その後も、その才能からどんどんと出世していき、天皇に次ぐほどの地位を手に入れます」
4人は中門をくぐり、大きな社殿へと向かって歩き続けた。
かたわらには、梅の木が立っていた。
「ところが、彼をよく思わない藤原家と新しい天皇が、彼に罪をきせて太宰府に流してしまいます。そしてその二年後、道真公は息を引きとってしまいます。才能がありながら、最期は恵まれない境遇にあってしまったのです」
社殿にたどり着き、それぞれにお参りをする。
願いは口にしなかったが、心の中に秘めた願いをこめたようだ。
「お守りを買って、絵馬を書きましょう」
社務所によって、合格祈願のお守りを購入して、またもとの道を戻り始めた。
「道真公の死後、敵対していた藤原家や天皇家の人間たちが、たちまち病死したり、落雷により亡くなったりしたのです。そこで、道真公の祟りを鎮めるために建てられたのが、この北野天満宮と言われています」
「そうなんですか。太宰府の天満宮は知っていけれど、北野天満宮は知りませんでした」
「太宰府は亡くなったところですね。鎮魂のためなのでしょう。……あと道真公のお父さんは、今でいう塾の先生をされていて、たくさんの優秀な人材を送り出していたそうです」
「そうなんだ」
曜子も思わず感心して、そう言った。
「バスガイドがいらないな」
誠のことを感心した悠太が、そうつぶやく。
誠は恥ずかしそうに頭をかいた。
「こんな話しか出来ませんが」
誠が自嘲気味につぶやくと、まどかが励ますように手を握ってくれた。
「勉強になりました。有り難うございます」
そんなまどかの心遣いが嬉しくて、誠は「はい」と言って笑顔になった。
4人は絵馬所で絵馬を書い、それぞれに願い事を書いて吊るした。
まどかは、医師になれますように。
誠は、人の役に立てる人になりたい。
曜子は、いい出会いがありますように。
悠太は、恋愛成就。
願いを込めて。
そして、4人は次の目的地に向かった。
今度は悠太の希望で早めのお昼を取ることになった。
京野菜と漬物を美味しく食べさせてくれるお店で、狭い店内だったが多くの人で賑わっていた。
旬の野菜を、京都らしい落ち着く味付けで料理されていて、漬物とご飯と合わせると、とても美味しい。
女性陣にもカロリーの少ない野菜づくしの料理に好評の様子だった。
「ほんとうに美味しいね」
まどかは京野菜の滋味を、舌の上で確認するようにゆっくりと食べていた。
「何杯でも、ご飯がいけそう」
やや量に走りがちな曜子がつぶやいた。
「喜んでくれて良かった」
まどかが喜んでくれて悠太は嬉しそうだったが、感情はやや抑えている様子。
「そうか、こうして料理をするといいんだ……」
誠はブツブツ言いながら、ノートにレシピを書き込んでいた。
家に帰ったら、早速試してみようと考えている様子だった。
そして、次の目的地は曜子の希望。
八坂神社近くの一つのお店に入る。
「これも、ひとつのコスプレよね」
曜子が嬉しそうにそう言ったのは、ここが舞妓姿になることができるお店だったからだ。
着物の着付けと化粧をしてもらい、即席の舞妓姿を堪能できる。
写真撮影まで入り、やや値段は高いが、曜子をこれを絶対にやってみたいと希望していた。
もちろん、まどかも一緒にやることになっている。
「少しお金を足すと、外の散策もできるんだ」
悠太が料金表を見て、そうつぶやいた。
「そうみたいね。でもけっこうするから」
曜子がすこし残念そうに答える。
悠太はしばらく考えていたが、まどかと曜子に聞いてみることにした。
「その分は俺が出すから、一緒に外を歩かないか?」
「えっ?」
「本当?」
「俺が一緒に歩きたいんだ。出させてくれ」
「…………」
まどかは戸惑ったが、曜子は悠太の気持ちを理解して、申し出を受けることにした。
「有り難う。そうさせてもらう」
「曜子……」
「まどかも、一緒に。記念だから」
「……うん。有り難う」
「どういたしまして」
悠太は口元だけで笑った。




