初デート
デート当日。
まどかは自室の鏡の前で、何を着ていこうかと悩んでいた。
動きやすい服がいいが、少しでも可愛く見えて欲しい。
今までこんなふうに考えたことがなかったので、なかなか合う服がない。
悠太、ごめんなさい……今なら気持ち、解ります。
以前に、悠太と行った遊園地の時、彼は格好良く決めていた。
あの時は遊園地で遊ぶのに何で……と思っていたが、今ならば解る。
少しでも相手に良く思って欲しいから。
あの時、あんなラフな格好して悪かったな……。
今日は天気こそ快晴で気持ちがいいが、2月14日でまだまだ肌寒い。
偶然にも、今日は日曜日でしかもバレンタインデー。
そんな日にデートをする自分が、何となく不思議だった。
チョコレートも事前に用意しておいた。
「よし。これでいこう」
やっぱりスカートにして、風や寒さ対策にダウンを着ることにした。
慣れない化粧も、不自然でない程度にやっていくことにする。
化粧の終わった自分の顔を、鏡で確認する。
少しは可愛らしくなったかな、と思うが、何となく文化祭の時の誠のほうが化粧が似合っていたような気がして、まどかはクスッと笑った。
本当に、あの時の誠はきれいだった。
せめて、あれよりは可愛くありたいな、と思っているが、さて今日はどうだろうか。
最後に、もう一度全身を鏡で確認する。
「うん。いいかな」
どうか、誠がこの姿を気に入ってくれますように。
まどかは、両親に「行ってきます!」と挨拶すると、靴を履いて玄関を出る。
駅で待ち合わせのため、自転車で駅まで向かった。
緊張して朝早くに起きてしまったので、まだ十分に時間はある。
髪や服が乱れないように、ゆっくりと駅へ向かうが、それでも待ち合わせの時間よりも30分も早く着いてしまった。
…………が、誠はもうすでに待ち合わせ場所で待っていた。
まどかは慌てて、駐輪場に自転車を止めると、誠のもとへ駆けて行った。
まだ朝早く、駅前と言っても、人はまばらにしかいない。
まどかが走っていくと、誠もすぐにまどかに気づいてくれた。
「お待たせしました」
「いえ、そんな。まだまだ早いですよ」
まどかは、はずむ息を整える。
「そうですよね。まだ30分前ですよね。師匠はいつからいらしてたんですか?」
「…………もう30分ほど前から」
「この寒い中、1時間も待つつもりだったんですか?」
「……目が醒めてしまって、勉強も手につかなくて……」
「……私もです」
ふたりは、互いに顔を見合わせて笑った。
楽しみで、緊張していたのはお互いに同じだった。
「早いですけど、行きましょうか」
「そうですね」
ふたりは並んで歩き始めた。
切符を買い、改札口を通り、ホームへ降りる。
ホームは寒い風が吹いていたが、さいわいすぐに電車がやってきて、ふたりは中に入った。
日曜日の朝早いためかお客も少なく、ふたりは並んで座ることができた。
「ふう」
「座れて良かったですね」
まどかは嬉しそうにうなずいた。
「楽しみで、今からどきどきしています」
「僕もです。遊園地は初めてなんです」
「そうなんですか?」
まどかは少しびっくりして、誠のことを見る。
「行く機会もなくて。だから楽しみです」
「それは良かったです」
「それと……」
誠が恥ずかしそうに頭をかく。
「実は、いろいろとどうしたら良いか解らなくて、神谷さんに聞きました」
「曜子に?」
「はい」
「何を?」
まどかが聞くと、誠はちらちらとまどかを見つめる。
まどかの足から顔まで、行ったり来たり。
そして、恥ずかしそうに顔を赤くする。
「その……まず会ったら、服を褒めるように……とか」
「あっ……」
まどかはそう言われて、ちょっと背筋を伸ばす。
「どっ、どうでしょう」
「はっ、はい。とても……可愛いです……」
「……有り難うございます。嬉しいです」
誠の言葉に、まどかまで頬を赤くした。
でも、良かった。
女の子らしい格好ができたか自信がなかったから、そう言ってもらえて、ほっとした。
「曜子は他にも何か言っていましたか?」
「はい、いろいろと教えてくれました」
「例えば?」
「その……ふたりとも鈍感だから、何をしたいか、何をして欲しいかは、はっきり言葉すること……とか」
まどかは、ああ、とつぶやきながら大きくうなずく。
「そうですね。確かに。それでいきましょう」
「はい、僕もその方が安心です」
「えーっと、じゃあ、私はジェットコースターとか好きです。師匠は好きですか?」
「乗ったことがないので解らないのです。乗ってみたいです」
「解りました。反対にお化け屋敷とかは苦手なんです」
「はい。では、そこはやめておきましょう」
「それと……」
まどかは恥ずかしそうに、もじもじする。
「はい?」
「歩くときは……手をつなぎたいな……って」
「えっ……?」
少し間を置いて、想像してしまった誠が一気に耳まで赤くなる。
てっ、手をつなぐ、って!
誠は慌て、挙動不審にあちこちを眺めた。
「あの……駄目ですか?」
「いや、その………僕も……つなぎたいです」
それだけ言って、誠はあまりにも恥ずかしくて顔を見られないように背けた。
そんな様子の誠を見て、まどかは嬉しそうに顔を覗き込もうとする。
「気持ちが一緒で嬉しいです。素直に伝えるっていいですね!」
「……はい。心臓が持つか心配です……」
その言葉に、まどかは笑ってしまった。




