ふたりの戸惑い
途中の休憩は、ふたりずつ交互にとることになった。
意図してかどうか、まどかと誠は一緒に休憩を取ることができ、30分という短い時間だが、他のクラスの様子をちらっと見ることにした。
演劇、お化け屋敷、バザー、飲食店……あたりはお祭りの活気と笑顔が溢れていた。
ゆっくりと周りたいところだが、時間があまり無い。
結局、運動場で開いていたクレープの店で、ふたりはチョコバナナのクレープを買って、近くの花壇の縁に座って食べることにした。
「外で食べるのは、美味しいですね。……こんな格好でなければ」
誠は当然、そのままの格好でいる。休憩が終わったら、また仕事が待っていた。
まどかは、くすっ、と笑いながら、誠を慰める。
「でも、外を歩いていても、誰も気づいていないみたいですね。師匠のことを見つめる男性もいましたよ」
「やめて欲しい……。バレた時が怖い……」
「今日は文化祭ですから。いいんですよ、バレてもバレなくても。ご苦労様です」
まどかの笑顔を向けてくれる。それだけでも、疲れが癒されるようだ。
本当にいい子だな、と改めて感じる。
「まどかさんは、恥ずかしく無いですか?」
「私も恥ずかしいですよ。スカートも短いですし」
そう言って、まどかがちらっとスカートめくると、白いきれいな足があらわになり、誠は思わず顔を赤くした。
まどかも慌てて、スカートを元に戻した。
「ごめんなさい、変なものをお見せして」
「いや、変なものじゃないですから……」
ふたりは赤くなって、しばらく黙ってしまった。
「その……師匠と知り合ってから、私も女の子なんだな、と思うことが多くて」
「まどかさんは十分女の子ですよ」
「いえ、その、今まで女の子の自覚があまりなくて、さっきみたいな行動を平気でしていたんです。どうせこんな足なんて、誰も色気を感じていないだろう、と思って……」
それは、とてもまずいような。
「でも、師匠といると、私も女の子なんだって、感じることが多くなってきて。……その、師匠のことも男の人なんだな……って思うことが多くなってきてもいて……」
今は女装していますが……。
「私も初めてのことで、いろいろ戸惑っています」
彼女もそうだったんだ。
彼女のほうがずっと進んでいると思っていたけれど、戸惑っているのは一緒だった。
誠は何となく、気持ちが軽くなるのを感じる。
「僕も、女性を好きになるのも初めてで……クラスの人と仲良くするのも初めてだから、戸惑いっぱなしです」
「ですよね。でも師匠は本当によく頑張っています。たぶんもう、この文化祭でクラスのみんな、師匠のことを友達だと思っていますよ」
「僕はまだみんなの名前、覚えていません……」
「師匠も一躍有名人ですからね」
まどかはそう言って笑った。
まどかも有名人じゃないかな……と誠は考えていたが。
「師匠ならすぐに憶えられますよ。と言っても、もう二学期ももうすぐ終わりですね。三学期は短いから……少し寂しいな。私も良いクラスだったな、と思います」
「僕もそう思います。忘れ難い一年になりそうです」
「そうですね」
年度のはじめには、ほとんどが知らない人たちだったなんて、想像できない。
まどかと誠も、知り合ってまだ半年ほど。多分、お互いにまだ知らないことのほうが多いはず。
それなのにお互いに好きになって、今こうしている。
不思議な出会いだった。
「まだ期末試験に、お互いの誕生日。年越しに、バレンタイン。いろいろありそうです。楽しみですね」
「本当だ。楽しみがたくさんだ」
どんな毎日がやってくるのだろう。
ひとりで歩くのとは、またまったく別のワクワクした楽しさだ。
ふたりというだけで、こんなに違うものなんて、本当に知らなかった。
「そろそろ時間ですね。もうひと踏ん張り、頑張りましょう」
「そうですね。でも、こんな短い時間でも、まどかさんとだと楽しかったです」
「ふふ、嬉しいです。……私もですよ、師匠」
周りから見ると女の子同士で頬を赤くしている、ちょっと不思議な光景ではあったが、ふたりにとっては久しぶりの時間で、何となく胸が熱くなるのを感じる大切なひとときだった。
ふたりは早足で、教室へと戻って行った。