女性の仕草
しかしよく見ると、まどかを初めとして、どの子もかわいい。
麻友は印象的なぱっちりとした目が可愛い子だし、凛も控えめでおとなしい印象だが顔立ちがとても整っている。
桜と美緒は、華やかでオトナっぽい。
薫子はストレートな長い髪が特徴的な、和風美人。
そして、まどかは少し短めの髪を緩やかになびかせ、柔らかな顔立ちに優しげな瞳。
笑顔を浮かべると、薄い唇がなんとも魅力的にうつる。
あらためて、こんな可愛い子たちに囲まれている今の状況に、誠は緊張し始めた…………今の格好でなければ……。
まどか達も、どうも同性として誠を見ているフシがある。
肌が触れ合うほど近くにいるのに、まったく気にする様子でもなく、お互いに楽しげに会話をしている。
「はい、じゃあ静かにして。さっき配った紙に書いてある言葉を、順にやっていきます」
楓が手をたたき、皆んなの意識をこちらに向けると、端的に指示を出す。
「じゃあ、桜から。お願いします」
「はい」
桜は、手元に持っていた紙を胸元に抱え、可愛らしく机に歩み寄ると、そこにお客さんがいるかのように一礼する。
「いらっしゃいませ。こちらがメニューです。どれになさいますか?」
それを見ながら、楓が合いの手を入れる。
「それじゃあ、焼きそばと烏龍茶をお願いします」
「はい、焼きそばと烏龍茶ですね。ご注文、有り難うございました。しばらくお待ちください」
何かノートに書く真似をした後、一礼をして元の場所に戻る。
バイトでもしていたかのようなスムーズな動作だった。
「オッケー。だいたいいいね。なるべくお客さんと顔を近づけて、目を見るように心がけてね」
「はぁい」
「じゃあ、次は美緒」
それぞれ順番に接客の練習をこなしていく。
少し恥ずかしがる様子はあるが、その子らしい可愛らしさがあって好感が持てる。
誠はひとつひとつ感心しながら、その様子を見ていた。
「はい、じゃあ最後はまーちゃん」
「はっ、はい!」
名前を呼ばれて思わず声が上ずる。
「といっても、いきなり出来るとは思っていないから」
楓はそう言いながら、近寄ってくる。
「いい、よく聞いて。十何年も女をやっていた人達がうまいのは当たり前。最初はどこか男っぽくなってしまう」
「…………」
「でも、忘れないで、心のどこかで男だと思っているあいだは、やっている方も見ている方も恥ずかしい」
そう。楓はここまでずっと真剣に付き合ってくれている。
一度だって笑ったり、茶化したりしていない。
きっと今も見かけは、女の子に見えるように最大限、頑張ってくれたのだろう…………それは、それで悲しいが。
「演技だと割りきって、自分は女だと思いなさい。誠だとバレないぐらいに」
「…………はい」
楓の真剣さが伝わり、誠はしっかりとうなずいた。
「桜の演技が、背格好からも一番合うかな。ちょっと桜、悪いけれど歩くところからもう一度お願いしていい?」
「いいわよ」
確かに、この中で一番背が高いのは桜で、お手本としても動作が綺麗だった。
桜は嫌がることなく笑顔で答えて、一歩前に出る。
つられて、誠も前に出て横に並んだ。
楓の指導は、予想以上に厳しい。
いきなり立ち姿からのダメ出しに始まり、歩き出しさえままならない。
足を気にしていたら、手が駄目とか、表情が硬いとか、全身に気を回さないといけない。
自分が女の格好をしているとか、人から見られているとか、考えている余裕もないほどだった。
時間がかかりそうと判断した楓は、仕事が残っている人達は仕事を再開するよう指示し、接客係の女の子達には簡単な打ち合わせをして、家に帰るように話した。
桜やまどかも帰ることになり、楓が1対1で指導することになる。
指導は夕食をはさみ、深夜まで及んだ。
途中、使い慣れない筋肉を使ったせいか、足がつったりして中断することもあったが、楓が納得するまで繰り返し練習は続いた。
「まあ、いいでしょう」
楓の許しが出たときは、すでに深夜2時になっていた。
誠はそのまま床に座り込んでしまうほどに疲れきってしまった。
「夜更かしをすると肌に影響が出るから、今日はここまでね。 睡眠時間をなるべく取って欲しいから、 ここで泊まっていって」
「……はい」
誠も帰る体力も気力も尽きかけていた。
楓に手伝ってもらって化粧を落とすと、誠は倒れこむように用意してもらった布団で眠る。
自分の家以外での初めての宿泊だったが、そのことを気にすることすら出来ず、誠は深い眠りについていた。