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勉強の神様は人見知り  作者: 京夜
神様と天使の祝福
57/123

女性の仕草


 しかしよく見ると、まどかを初めとして、どの子もかわいい。


 麻友は印象的なぱっちりとした目が可愛い子だし、凛も控えめでおとなしい印象だが顔立ちがとても整っている。

 桜と美緒は、華やかでオトナっぽい。

 薫子はストレートな長い髪が特徴的な、和風美人。


 そして、まどかは少し短めの髪を緩やかになびかせ、柔らかな顔立ちに優しげな瞳。

 笑顔を浮かべると、薄い唇がなんとも魅力的にうつる。


 あらためて、こんな可愛い子たちに囲まれている今の状況に、誠は緊張し始めた…………今の格好でなければ……。


 まどか達も、どうも同性として誠を見ているフシがある。

 肌が触れ合うほど近くにいるのに、まったく気にする様子でもなく、お互いに楽しげに会話をしている。


「はい、じゃあ静かにして。さっき配った紙に書いてある言葉を、順にやっていきます」


 楓が手をたたき、皆んなの意識をこちらに向けると、端的に指示を出す。


「じゃあ、桜から。お願いします」

「はい」


 桜は、手元に持っていた紙を胸元に抱え、可愛らしく机に歩み寄ると、そこにお客さんがいるかのように一礼する。


「いらっしゃいませ。こちらがメニューです。どれになさいますか?」


 それを見ながら、楓が合いの手を入れる。


「それじゃあ、焼きそばと烏龍茶をお願いします」

「はい、焼きそばと烏龍茶ですね。ご注文、有り難うございました。しばらくお待ちください」


 何かノートに書く真似をした後、一礼をして元の場所に戻る。

 バイトでもしていたかのようなスムーズな動作だった。


「オッケー。だいたいいいね。なるべくお客さんと顔を近づけて、目を見るように心がけてね」

「はぁい」

「じゃあ、次は美緒」


 それぞれ順番に接客の練習をこなしていく。

 少し恥ずかしがる様子はあるが、その子らしい可愛らしさがあって好感が持てる。

 誠はひとつひとつ感心しながら、その様子を見ていた。


「はい、じゃあ最後はまーちゃん」

「はっ、はい!」


 名前を呼ばれて思わず声が上ずる。


「といっても、いきなり出来るとは思っていないから」


 楓はそう言いながら、近寄ってくる。


「いい、よく聞いて。十何年も女をやっていた人達がうまいのは当たり前。最初はどこか男っぽくなってしまう」

「…………」

「でも、忘れないで、心のどこかで男だと思っているあいだは、やっている方も見ている方も恥ずかしい」


 そう。楓はここまでずっと真剣に付き合ってくれている。

 一度だって笑ったり、茶化したりしていない。

 きっと今も見かけは、女の子に見えるように最大限、頑張ってくれたのだろう…………それは、それで悲しいが。


「演技だと割りきって、自分は女だと思いなさい。誠だとバレないぐらいに」

「…………はい」


 楓の真剣さが伝わり、誠はしっかりとうなずいた。


「桜の演技が、背格好からも一番合うかな。ちょっと桜、悪いけれど歩くところからもう一度お願いしていい?」

「いいわよ」


 確かに、この中で一番背が高いのは桜で、お手本としても動作が綺麗だった。

 桜は嫌がることなく笑顔で答えて、一歩前に出る。

 つられて、誠も前に出て横に並んだ。


 楓の指導は、予想以上に厳しい。

 いきなり立ち姿からのダメ出しに始まり、歩き出しさえままならない。

 足を気にしていたら、手が駄目とか、表情が硬いとか、全身に気を回さないといけない。

 自分が女の格好をしているとか、人から見られているとか、考えている余裕もないほどだった。


 時間がかかりそうと判断した楓は、仕事が残っている人達は仕事を再開するよう指示し、接客係の女の子達には簡単な打ち合わせをして、家に帰るように話した。

 桜やまどかも帰ることになり、楓が1対1で指導することになる。


 指導は夕食をはさみ、深夜まで及んだ。

 途中、使い慣れない筋肉を使ったせいか、足がつったりして中断することもあったが、楓が納得するまで繰り返し練習は続いた。


「まあ、いいでしょう」


 楓の許しが出たときは、すでに深夜2時になっていた。

 誠はそのまま床に座り込んでしまうほどに疲れきってしまった。


「夜更かしをすると肌に影響が出るから、今日はここまでね。 睡眠時間をなるべく取って欲しいから、 ここで泊まっていって」

「……はい」


 誠も帰る体力も気力も尽きかけていた。

 楓に手伝ってもらって化粧を落とすと、誠は倒れこむように用意してもらった布団で眠る。

 自分の家以外での初めての宿泊だったが、そのことを気にすることすら出来ず、誠は深い眠りについていた。




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