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勉強の神様は人見知り  作者: 京夜
神様と天使の祝福
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好きです

 ふたり並んで歩くのは、なんだかずいぶん久しぶりな気がする。

 ふたりの間に会話はないのに、何故かそれが苦痛ではなくて。

 やっと穏やかな時間を手にいれたような、そんな安堵感。


   なぜ 胸が熱くなるのか


   黙っていても

   二人にはわかるのであってほしい


 まどかは何となく祝婚歌の一文を思い出した。

 こうして黙っていても、歩くだけで何となく解るのに、何を気にしていたのだろう。

 人の目? 他人の思い?

 考えすぎていたのかな……。

 

「……愚かであるほうがいい……」


 まどかのつぶやきに、誠が振り向く。


「祝婚歌の一文かな?」


 ほらっ、伝わった。

 まどかは笑顔でうなずく。

 誠も一緒にうなずいてくれた。


「そうだね……睦まじくいるためには、ね……」

「うん……」


 ふたりの歩くすぐ先に、小さな公園があった。

 誰も遊んでいなくて、ブランコと鉄棒があるだけの小さな公園。


「ちょっと寄って行きませんか?」


 まどかが誠を誘うと、誠も「はい」と答えた。

 自転車を置いて、ふたりは公園のなかへ歩いて行った。

 どこからかカラスの鳴き声が聞こえる。

 空を見上げると、ゆっくりと夕暮れになろうとしている空が、静かにたたずんでいた。

 まどかがひとりブランコに座り、小さく揺れる。


「良かった、師匠とこうして歩けて」

「…………」

「御庄さんと仲良くしていて、もう一緒に歩けないかと思っていたから……」


 誠は胸が苦しくなって、言葉が出なかった。

 麻友の名前が出て、穏やかになっていた気持ちがぐっと重くなる。


「たまにでいいですから、また一緒に歩いてくださいね」


 まどかはそう言って、すこし悲しそうな笑顔を誠に向ける。

 その笑顔が、誠の胸をさらに苦しくする。

 胸がいっぱいで、泣きたいような、苦しいような。


 自分も一緒に歩きたかった。

 歩くだけで、こんなに幸せな気持ちになるなんて思っていなかった。


 嬉しくて、苦しくて。


 それを伝えたくて。


 胸の奥から、思いがあふれはじめてくる。


 誠の頬を、一筋の涙がこぼれた。


 そして、誠の口から、言葉があふれた。



「……好きです……」



 断られるとか、そんなことは考えていられない。

 もう、ただ、


「……まどかさんが、好きです……」


 涙がとめどなくあふれてくる。


「……好きです……………」


 勉強していても、こんな言葉しか出てこない。

 たくさんの思いを伝えたいのに、たったひとつの言葉しか浮かばない。


「好きです」


 男なのに、高校生なのに、泣いてしまって、まるでお母さんが恋しくて泣く幼稚園生のようだな……頭の片隅で、誠はそんな思いで自分を見ていた。

 でも、どうすることもできない。

 涙も言葉も、あふれてきて、とめることができない。



 ふわっとした感触を、頬と胸に感じる。

 まどかが誠の胸に手をあてて、寄り添ってきている。

 少し顔をうつむかせ、柔らかな髪が誠の頬をなでる。


「……私も……好きです……」


 まどかも泣いていた。


「……誠さんのこと……私も、好きです……」


 それだけつぶやいて、まどかは頭を、こつんっと寄せてきた。

 胸にあてた手のひらから、寄せる頭から髪からか温かな空気が流れてくるように感じる。

 張り詰めていた緊張が、苦しかった胸の痛みが、ゆっくりと溶かされていく。

 ゆっくり、ゆっくりと……。



 まどかも涙がこぼれながら、気持ちが落ち着いていくのを感じていた。

 重かった心が、気持ちが、すこしずつ和らいでいく。

 解ってあげられていなかった、自分の思いに気づいてあげられた。


 好きです。


 手から、頭から感じる温かさに、その気持を確かめるように。


 好きです……。


 ふたりはそうして、しばらく寄り添い続けた。



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