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勉強の神様は人見知り  作者: 京夜
神様との契約
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契約成立

「ねえねえ、学校の様子を聞かせてよ」

「あっ、はい。と言っても、私もまだ一ヶ月ですからそれほど話せることもないのですが……」

「まあ、そうよね」


 真穂もうなずいた。


「誠はどんな様子?」


 まどかはうーんと考えたが、心を決めて話し始めた。


「神様のようです」


「神様?」


「はい。今日の午後の授業。お昼ご飯の後だし、陽気も良くて、とてもクラスみんながとても眠たかったんです」


「わかる、わかる」


「一人、二人と眠ってしまう中、ただ一人背筋を伸ばして授業を受けていたんです」


 真穂が軽く吹き出して、笑った。


「想像できるわ」


「窓からの光に照らされて、何となく神様のように、私には見えたのです」


「神様ね……わからないでもないわ」


 真穂さんも含んだ笑いをしながら、ちらっと誠を見た。

 誠は戸惑った表情をしていた。


「なんて言うか、ガリ勉とかそう言うのではなく、勉強が好きというか、大切にしているというか、そんな真摯な気持ちが伝わってきたんです。……私も眠ってしまいましたが」


「あはは、そうね。私も眠りそう。ありがとう、息子のことをそう感じてくれて」


 真穂は自分の笑いがおさまるのを待って、言葉を続けた。


「誠、食後にいつもの勉強の様子を見せてあげなさい。多分、再現できるわ」


 誠は驚いていた。


「いつもの? それが何で神様に……?」

「あなたにとっては自然なことだからね」


 まどかも良くはわからなかったが,あとで見せてくれるのを待つことにした。


「そっ、それで一つお願いがあります」

「何?」


 意を決して話し始めたまどかに、真穂が聞き返した。


「私に、勉強を教えて欲しいんです!」


 言えた! まどかは再び動悸がするのを感じた。

 夢の一歩を踏み込んだような、そんな高揚感があった。

 しかし、誠の一言は冷たかった。


「僕が? 無理です。時間がないし」

「えっ……」


 まどかは明らかに残念そうな、戸惑った表情をした。


ばちんっ。


 あたりに、やや鈍い音が広がった。

 真穂さんが誠の頭をはたいていた。


「痛っ」

「やりなさい。誠。願ってもない話だわ。これよ、これなのよ」


 真穂さんはずいぶんと興奮していた。


「そうよ、この子は勉強しかないから、勉強を教えるのがいいわ。まどかちゃん、こちらこそよろしく。私はあなたが天使に見えてきたわ」


「えっ、ええ? 天使……ですか?」


「この子にも夢があるのよ。勉強もできるし、そのうち叶えていくのだろうけど、どんな夢だって一人では叶えられないものでしょ? 私はこの子に人と関わることの楽しさや大変をもっと経験して欲しいの」


 まどかは、なるほど、とうなずいた。

 誠は戸惑っていた。


「そのきっかけが、こんなかわいい女の子なんて、最高よ。もう二度と無いわよ。ほら誠からもお願いしなさい。よろしくお願いしますって」


「僕がお願いされていたような……」


「生意気なこと言わないの。あなたにとっても勉強よ。人に教えるって、意外に難しいのよ」


 まどかは申し訳ないかな、と思いつつ、もう一押しすることにした。


「お願い……駄目ですか?」


 誠はうーん、とつぶやきながら、あきらめたようにうなずいた。

 もともと母親の言うことには逆らえなかった。


「わかりました。やります」

「本当ですか? 嬉しい! 有り難うございます」

「よし、よく言った、誠。一度決めたんだから、責任もってやりなさいよ」


 真穂さんは誠の頭を、がしがしなでながら嬉しそうに言った。


「そう言えば、先ほど話していた誠さんの夢って何ですか?」

「この子の? この子の夢は、新薬を作り出す事よ」

「新薬?」

「ほら、自分で説明しなさいよ」


 誠はいきなり振られた話に、また困ったような顔をした。


「……新しい薬を研究して、たくさんの人の役に立ちたい……と思っています……」


 ぼつぼつって呟いた誠の言葉に、まどかはうなずいた。


「素敵な夢ですね」


 まどかも本気で感心したが、真穂はため息をついた。


「もっといろんな背景があるでしょ。本当に人と話すのが苦手ね。男の子ってこんなものかしら」

「ははっ、そうですね。あまり上手ではない人も多いと思います。でも、ちょっと無口かな」


 真穂は腕組みをして誠を見つめた。


「やっぱりね。これは特訓してもらわないと。……まどかちゃんは、何で勉強を教えて欲しいと思ったの?」

「それは……あの……」


 まどかはちょっと戸惑った。

 まだ今の状況で話すのは、恥ずかしかった。


「どうしよう……」

「話しづらかったらいいのよ。良ければ聞きたいと思ったの」


 まどかは誠と視線があった。静かな、落ち着いた視線を受け止めて、何となく決心がついた。


「私、医者になりたいんです」

「医者? それはまた……」

「はい、口にするのも恥ずかしいぐらいの成績なので、まだ誰にも言ったことがないのですが……」


 まどかはちょっと頬を赤くして呟いた。


「ご両親が医師とか?」

「いえ、食品関係で働いているサラリーマンです」

「じゃあ、なんで?」


 まどかは少し考えた後に、語り始めた。


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