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勉強の神様は人見知り  作者: 京夜
神様の戸惑い
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苦しみ

 その夜、まどかは自室の机に突っ伏していた。

 勉強をする気がどうしても起きない。

 携帯をもてあそびながら、頭の中は何も考えられずにいた。


「…………」


 昼間は、麻友に何も言うことが出来なかった。

 確かに、今まで自分も誠との関係を、師匠と弟子と言っていたし、大切な友達だと思っていた。

 今もそうだと思っているはずなのに、なんとも言えない淋しさと無気力感が心に広がっている。

 その心の理由を、まどかも理解できずにいた。

 誠と会ったり、電話をしたり、メールすることが、いつしか当たり前の毎日になっていた。

 会おうと思ったらいつだって会えたし、話をしようとしたらメールだって電話だってできた。

 それが今は、その一歩が出ない。


「…………」


 携帯をじっと見た。

 まどかは、ぽつっぽつっ、とゆっくりとキーを押して、誠へメールを書いた。


「師匠は御庄さんのこと、気になりますか? 応援したほうがいいですか? まどか」


 ぽつっ、と送信ボタンを押す。

 はあっ……とため息をついて、携帯を置いた。

 こんなメールでよかったのか解らないけれど、聞いてみたかった。

 誠がどんな気持ちでいるのか、まどかにもよく解らなかったから。


 しかし、メールの返事はいつまでたっても来なかった。

 そんなことは初めてで、まどかは更に気持ちが沈んでいくのを感じる。

 もしかしたら、麻友とメールのやりとりをしていて、こちらまで気が回らなかったのかもしれない。

 それとも、もうメールも送りたくないとか。


 まどかはあきらめて電気を消して、布団にもぐりこんだ。

 あんなメール、送らない方が良かったのかな……と悔やみながら。



 その頃、誠はまどかのメールを見て、苦しんでいた。

 自分がしっかりしないから、曜子が心配したようになってしまった。

 そしてそれは、まどかが誠に気がない証拠でもある。

 まどかが自分に振り向いてくれないことなんて、解っていたことなのに……それでも、どこかで期待していたのか、胸が苦しい。

 期待するから、望んでしまうから、でも現実はそうじゃないと解るから、苦しくなる。

 こんなことなら、好きにならなければ良かったのかな。

 こんなに苦しいのなら。


 でも、と思う。

 今まで誰も好きになったことがなかった。

 自分はきっとこれからも、人を好きになることなんて無いのだろう、と思っていた。

 そんな自分が、人を好きになった。

 恋をすることができた。

 かなわないとしても、人を好きになる心があったことが嬉しかった。

 そして、そう思わせてくれたまどかに感謝の気持ちもある。


 でも、でも……苦しいな……。




 次の日も、麻友が誠に話しかける姿があった。


 そして、誠とまどかは一言も言葉を交わせずにいた。


 誠もまどかも落ち込んでいて、何かがおかしいことに、曜子は気がついた。

 昨日とはまた何か違う。何かがあったに違いない。

 曜子は昼休みに、まどかを中庭に連れ出した。


「なに……どうしたの……」


 まどかは昨日のことを思い出すこの場所に、何となく気持ちが苛立つ。

 落ち込んでいる気持ちと一緒に、表情と言葉にのって曜子へぶつけてしまう。

 感情をコントロールできずにいることを申し訳なく思うが、今はどうしようもなかった。


「昨日、何があったの」

「…………」

「誠もまどかも、昨日とは違う。何があったの?」


 まどかは、はあっ、とため息をついた。


「相変わらず、曜子はするどいね…………御庄さんに、師匠とうまくいくように応援して、って言われた」

「……それでまどかはなんて言ったの?」

「……うん……って」

「言ったの! うん、って言ったの!?」


 曜子がまどかの肩をつかんでくる。

 その勢いに、まどかがびっくりした。


「どっ、どうしたの?」

「なんで、うん、って言ったの?! それで本当にいいの?」

「だって、師匠も友達だって……」

「御庄の言葉なんか、まにうけちゃ駄目だって!」

「…………」

「どうして…………」

「…………泣いてるの?」


 曜子はにじむ涙を隠すように腕でぬぐう。


「悔しくないの? 私は悔しいよ……いっつも恥ずかしがって顔を赤くして、仲良くしているふたりの幸せそうな姿を見られなくなるなんて……あんな女の言葉ぐらいで……」


 曜子は涙を我慢するように目を閉じているのに、ぽとりぽとりと涙がこぼれる。

 まどかは呆然として、それを眺めていた。


「……まどか……お願い……気づいて……」


 曜子は耐え切れず、まどかから手を離す。

 後ろを向き、そのまま教室へ駆け出してしまった。

 まどかはひとり、その場で立ち尽くしていた。

 頭も心もいっぱいで、まだ、何も考えられずにいた。



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