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勉強の神様は人見知り  作者: 京夜
神様の戸惑い
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計測とアドレス

 接客係の仕事は当日だけの約束だったが、衣装を作るためには計測をしないといけない。

 授業が終わった夕方、コスチューム作成担当の女の子達からの指示のもと、ひとりずつ身体の計測が行われていた。


「はい、まずは桜井宗志からね。上着脱いで、そこに立って」


 作成担当リーダーは美術部の美丘楓(みおかかえで)で、美術部のためか男の服を脱がせる口調にためらいがない。

 宗志はしぶしぶ指示に従い、学生服を脱いで女の子達の前に立った。

 細めだが、しっかりとした筋肉がついている。

 脱いでもさまになるのは、さすが宗志だった。


 女の子達は上肢を計測する人、下肢を計測する人、写真を撮る人に分かれて迅速にデータが取られていた。

 ただそうは言っても、異性を身近にして行う作業に、互いに意識せずにはいられない。

 どちらからともなく、声をかけあい始めた。


「桜井君、けっこうお腹まわりあるんじゃない?」

「うるさい。筋肉だっつーの」

「本当? じゃあ見せてよ」

「お前になんか見せないよ」


 そう言って互いにからかいながら、恥ずかしさを誤魔化しているようだった。


 誠はどきどきしていた。

 宗志のように女の子と気軽に会話する自信が、誠には全くない。

 互いに黙々と計測する姿を想像して、気まずさに誠は気持ちが悪くなりそうだった。


 涼も玲も手慣れたもので、恥ずかしがる様子もない。

 体育会系は、肉体に自信があるからだろうか。

 むしろ見せつけるかのような行動に、女子は笑いながら文句を言っていた。


 賢治、洋介は落ち着いていて、自然に計測を受けていく。

 顔立ちが整っているふたりは、女の子との触れ合いに緊張はありません、と言わんばかりの様子で、女の子への気遣いも忘れない。

 女の子達はすこし恥ずかしそうにしながらも、笑顔で計測していった。


 そして最後に、誠の番になった。


「はい、一柳くん。前に来て」

「はっ、はい……」


 誠は慌てて、前に出た。

 恥ずかしいと思いながらも、同じように上の制服を脱ぐ。


 誠の身長は178cmとやや高い。

 筋肉質ではないが、脱いでみるとしっかりと筋肉はあり、男らしい体つきだった。

 姿勢も良く、足もまっすぐきれいに伸びている。

 顔は凛々しいがどこか可愛らしく、男の子なのだが中性的な魅力もある。

 頬を赤くする様子は、何か妙な色気が感じられた。


 誠の緊張が女の子達にも伝わって、無言の緊張した計測が始まった。

 胸囲を計られる時に、抱きしめられるように手を回される。

 当たり前の動作でさえ、誠は恥ずかしさのあまり逃げたくなっていた。

 女の子も、緊張して頬が赤くなっている。

 手も足も触られ、何かくすぐったいような、なんとも言えない感情になる。

 これだけでも限界に近いのに、当日は大丈夫だろうか……誠は自分のことながら心配になってきた。


「ふーむ」


 誠の立っている姿を見ながら、楓はなにか考え込んでいる。

 ぶつぶつとつぶやく声は聞こえないが、どうやら衣装の内容を考えているようだ。

 誠はあえて聞かないことにした。


「うん。ご協力ありがとう。前日に最終的な調整をするので、その時はまたよろしく頼みます。楽しみにね、ふふっ」


 最後の笑いが怖い。

 男子一同、やや引きつった笑いをした。



 計測業務が終わると、誠は身支度を整え教室を出た。

 他の生徒達は部活へ行ったり、まだ教室に残って話をしたりしていて、誠は「さよなら」と挨拶をしながらひとり下駄箱へ向かった。

 中途半端な時間帯だったせいか、下駄箱には誰もいない。

 誠は靴を替えて、駐輪場へ向かおうとしたが、突然後ろから声をかけられた。


「誠くん!」


 振り返ってみると、麻友が立っていた。

 偶然なのか待っていたのかは解らないが、鞄を手に持っていて、帰るところのようだった。


「私も帰るところなの、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いい?」

「……はい」


 一瞬、まどかの笑顔と曜子の怒った顔が浮かんだが、誠には断る言葉が思いつかなかった。

 麻友も靴を履き替え、誠の横に並んで歩き始める。


「ねえ、誠くんって携帯持ってる?」

「えっ……あっ…………はい……」


 誠は嘘もつけず、ためらいながら返事をした。

 麻友ははっきりと嬉しそうな笑顔を浮かべる。

 可愛らしい顔立ちで、ぱあっと花が開いたような明るさを、誠も感じた。


「ねえ、携帯の番号とアドレス、教えて!」

「えっ……」


 誠は慣れないながらも、曜子の指導に従って、頭の中で一生懸命に言い訳を探した。


「あの……メールとか電話とか、ほとんどしていないから……教えてもあまり役に立たないと思う……」


 まあまあ気の効いたことを返事ができた、と誠は胸をなでおろす。

 これであきらめてくれるかな、と誠は淡い期待を抱いたが、麻友はそんな誠の言い訳などものともしなかった。


「如月さんとは電話もメールもしているのに?」


 麻友の言葉に誠はびっくりして、思わず麻友の顔を見て質問をした。


「どうしてそれを……?」


 麻友はにっこりと笑う。


「やっぱり、そうなんだ。カマをかけてみたけれど、当たったね」

「…………」


 誠は呆然として、麻友の横顔を見続ける。


「ねっ、誠くん。如月さんには教えて、私には教えてくれない、なんて言わないよね?」


 麻友は笑顔で、誠の顔を見上げてくる。

 目を見ると、吸い込まれそうな瞳をしていた。


「ねっ、いいでしょ?」


 天使のような、悪魔のような笑顔だった。

 誠は最後の抵抗を試みた。


「あの僕……自分の携帯の番号やアドレスの出し方が解らないけれど」


 本当は取扱説明書を読み込んでいるので、誠に出来ないことはなかった。

 懸命に考えた抵抗だったが、やはり麻友には全く効かなかった。


「私がわかるから大丈夫。携帯貸して?」


 新たな言い訳を見つけることも出来ず、誠は小さなため息をついて鞄から携帯を取り出した。


「もう、かわいい女の子が、アドレス交換しよ、って言ってるのに、ため息なんかしないで。電話もメールも楽しいよ。勉強の邪魔はしないから」

 

 そう言いながら、麻友は手慣れた手つきで赤外線を用いて、相互にアドレスの交換を行う。

 誠はそれを黙って見ているしか無かった。


「はい、ありがとう。文化祭のこともあるし、連絡とかに使わせてね。じゃあね!」


 目的をあっさりと果たした麻友は、満足してその場を離れた。

 笑顔で手を振り、歩いていく麻友のことを、誠は力なく見ていることしか出来なかった。


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