期末試験とカラオケ
期末試験は、大きな歓声と共に終わった。
何しろ、学生にとって期末試験の終了は、夏休みのはじまりを意識させる。
気分が浮き足立ってくるのは、仕方がない。
「なあ、また皆んなでどこかいくか?」
前回と同じように、宗志が全員に声をかけた。
反応はおおむね良かった。
前回のボーリング大会をきっかけにして、あの時のグループから仲が良くなった人たちが多数いた。試験の後の開放感もあって皆んなで何かをしたい気持ちがあったようだ。
少数でやりたい数グループ、帰る数人をのぞいて、また多くの人達が参加することになった。
「まどかちゃん達も参加するよね」
「あっ、うん。曜子はどう?」
「暇だし、いいよ」
宗志は嬉しそうにうなずいた。
「そうだなぁ……今回は前回行けなかったカラオケの方にしようか!」
宗志の声に大半が喜びの声を上げた。
不満げにつぶやいた人もいたが、周りに誘われるとほとんどの人が受けてくれた。
まどかは見渡して、誠を探した。
誠は身支度を整えて、ちょうど帰るところだった。
誠も気にしていたのか、まどかと視線が合うと苦笑いをして、ごめん、といったように頭を下げて歩き始めた。
まだ誠には壁が高いらしい。
声をかけようか、まどかも悩んだが、あまり無理には勧められなかった。
まどかも軽く頭を下げて、誠を見送った。
しょうがないとは思いつつ、何となくまどかは残念なような、寂しい気持ちになっていた。
その表情の変化を見ていた人が二人いた。
曜子と宗志だった。
カラオケでは、7人で一部屋に入った。
前回のまどか、曜子の他に、仲良くなった凜という女の子。
それに男は、宗志、涼、玲、それに明が加わった。
凛という女の子は、まどかのすぐ近くの席の女の子で、手芸部に入っている、大人しい印象の子だ。
ぱっちりとした目、肩のあたりで切りそろえたまっすぐの髪、言葉も少なめだが笑顔がとても素敵な子だった。
明は他の男三人と比べると、どちらかと言えば文化系で、眼鏡をかけていてやや痩せ気味。しかし意外に明るくて、三人と仲がいい。
この7名でカラオケが始まった。
元気な男性陣が、競って得意な歌を入れ始めた。
男性ボーカルの元気な歌が多いが、やや狂う音程ぐらいは気にしない元気さが良かった。
曜子は意外だがアニメソングを選んで熱唱しており、共感した男達から熱狂的な声援を受けていた。
「まどかちゃんは何歌う?」
宗志が声をかけてきた。
まどかはまだ何を歌うか考えていたが、好きな女性ボーカルがいたので、その人のレパートリーから一つ選んで入力した。
恋人への愛する気持ちを詩にした歌だった。
まどかが歌うと、男性陣は自分に向けて歌ってくれていると勘違いしたように、喜びをあらわにして声援を送った。
きれいなソプラノの声が部屋の中に響き渡り、それぞれが聞き惚れていた。
歌が終わったときには、大興奮と言っていい様相の男性陣に、まどかは笑顔でお礼を言った。
曜子と凛の間の席に座り、ふぅっ、とため息をついた。
「アイドルとファンクラブのようで、良かったわよ」
と曜子。
「まどかさん、上手ですね。とっても合っていました」
が凛の評価だった。
「アイドルとファンクラブって何よ」
「そのまんまだけどね。まあでも、男性陣は明るくて盛り上げてくれるから、楽しいわ」
凛は、「私は緊張します」と言いながら、順番となって席をたって歌い始めた。
しずかな可愛らしい歌で、これはこれで嬉しそうな男性陣だった。
空いたまどかの横の席に、宗志が座ってきた。
「まどかちゃん、はい飲み物。歌、上手だったよ」
「あっ、ありがとう」
まどかはそう言って、ちょうど喉が乾いていたので、冷たいお茶をゆっくりと飲んだ。
飲み終わって一息ついたのを見て、宗志がまどかに問いかけてきた。
「まどかちゃん、一つお願いがあるんだ」
「なに?」
まどかは宗志を見た。
宗志はにこやかな、しかし困ったような表情をしながら言った。
「実はちょっと服を買わないといけないんだけど、あまり俺センスに自信がなくて、一緒に行って選んで欲しいんだ。夏休みに半日ぐらい時間ないかな」
「えっ? 私が?」
「うん。まどかちゃんがいいんだ。女性から見て、いいと思うものを選びたいんだ。帰りにお昼ご馳走するから」
「うーん……私もそれほどセンスがいいとは言えないけれど……」
「お願い! 助けると思って」
悩んだまどかだったが、困っている姿を見せられると、断ることができない。
「うん、解った。私で良ければ」
「やった! ありがとう。じゃあ日程と場所はまたメールするね」
「うん」
宗志は嬉しそうにはしゃいでいた。
まどかは何がそんなに嬉しいのだろうと思いながら、「ちょっとトイレ……」と席を立った。
まどかが部屋を出たあと、開いた宗志の隣に曜子が移動してきた。
「桜井くん。あんた、まどかと誠の関係を見て、焦ったな」
曜子が宗志にそう呟くと、宗志は慌てた。
「そっ、そんなこと……」
言葉が続かず、やがてあきらめて息をつくと、曜子につぶやいた。
「そうだよ。その通りだよ」
「まどかの断れない性格を知っていてやるなんて、ちょっと強引だぞ」
「しょうがないだろう。1学期は何も進展できず、このまま夏休みに入ったら一ヶ月以上会えない。その間に何かあったら、と思ったら、居ても立ってもいられないんだ」
宗志はふてくれたようにつぶやいた。
さいわい二人の会話は、カラオケの音で二人以外には聞こえていないようだった。
今は、明がずいぶんと古い歌をうたっていた。
「あの子が受けたものを邪魔はしないけど、もしまどかが悲しむようなことをしたら覚悟しておいてよ」
きれいな顔立ちの曜子が、静かな声でつぶやくと凄みがあった。
宗志もすこしふてくれたようにしながら、うなずいた。
「当たり前だろ。嫌がるようなことなんかして、嫌われたくない。少なくとも仲の良い友達ではいたいんだ」
「まどかは桜井のことも信頼している。よろしく頼むよ」
「ああ」
ちょうど曲が終わり、二人は拍手をして話し合いも終りにした。
まどかが扉を開けて戻ってきて、曜子の隣に座った。
「他の部屋も盛り上がっていて、楽しそうだった。通路でも声をかけられちゃった」
まどかは嬉しそうに曜子に話しかけた。
「そう。それは良かった。楽しんでる?」
「もちろん!」
笑顔のまどかに、曜子は思わず頭をなでた。
「ん? どうしたの?」
「いや、まどかはかわいいなぁ、と思って」
素の顔で曜子に言われて、まどかは顔を赤くした。
「何か恥ずかしいけれど……嬉しいかな。頭なでられるのも好きだし」
曜子は調子にのって、まどかを引き寄せて抱きしめた。
「うーん、かわいい。いい匂い」
「ちょっ、ちょっと曜子!」
「そこ! 女同士で近づきすぎ! こっちにも分けてくれ!」
歌っていた宗志がマイク越しに文句を言った。
「やだよーだ。分けてやるもんか。凛ちゃんならいいよ」
そう言うと、嬉しそうに凛が近寄ってきて、反対側からまどかを抱きしめた。
まどかの顔がより一層赤くなった。
「まどかさん、かわいい! やわらかぁーい」
男性陣が文句の大合唱の中、曜子と凛に抱きしめられ、ちょっと嬉しい気分のまどかだった。




