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勉強の神様は人見知り  作者: 京夜
神様の弟子は天使
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日曜日は図書館

 恒例の帰りの会話は、まどかからの質問から始まった。


「師匠。試験が終わった時、みんなでカラオケかボーリングに行こうという話になったのに帰ってしまったのは……」


 誠は苦笑いをしてうなずいた。


「僕には、ちょっと勇気がなかった……というか、楽しめる自信がなかった」


 まどかもうなずいた。

 誠の気持ちは理解できた。


「そうですよね。黙っているわけにはいかないし、あのノリについていく師匠の姿も想像できません」


「はは……」


 誠は笑ってうなずいた。

 まどかは少し間を置いて、誠に提案した。


「どうでしょう。師匠。挨拶の次は、私と二人で遊ぶことから始めませんか?」


 誠は思わず立ち止まった。


「えっ……?」


「私と二人で遊んでみることから慣らしてみませんか?」


「えーっと……遊ぶ?」


「遊ぶと言っても、鬼ごっこをしたりするのではなく、たとえば買い物に行ったり、食事をしたり、公園で話しをしたり」


 あれ、これってデートに誘っているみたい?……まどかが自分で話しながら気づいた。


「あっ、あのデートではなくて、複数の中に入る前に、まず私とで練習してみてはどうかな……と……その」


 まどかの方が顔が赤くなり、しだいに声が小さくなってしまった。

 戸惑っていた誠だったが、まどかが赤くなると逆に落ち着くことができた。

 まどかが、自分の為に頑張ってくれようとしていることが、心のなかにすとんと落ちた。


「ありがとう……迷惑をかけますが、お願いします」


 まどかは顔を上げた。


「本当ですか?」


「はい」


「やった! ……師匠、頑張りましょうね?」


 まどかが笑顔をむけると、誠の顔が赤くなり、視線を逸らした。

 ……破壊力ってこのこと……?

 まどかは言葉を続けた。


「えーっと、では何をしましょうか」


「わっ、解らないのでお願いします」


「そうですよね……あの、師匠はいつも日曜日はどうされているのですか?」


「日曜? 市立図書館です」


「あー……」


 以前に聞いた話を思い出した。

 誠は家か学校か図書館ばかりだと。休みの日は市立図書館なのか……。


「えっと、では私もご一緒させてください。お昼ごはんを外で食べませんか?」


「あの、いつもはお弁当なのですが」


「じゃあ私もお弁当を作って……」


 まどかの言葉が止まった。

 誠は首をかしげた後、ああっ、と気づいた。

 まどかはお弁当を作ったことがないようだ。


「お弁当、作りましょうか?」


「いや、そんな師匠にそこまで」


「いつも夕食も作っているし」


「……はい、いただいています」


「二つ作るのも、たいして変りないし」


「……はい、お世話になります」


 まどかは恥ずかしがった。本来、お弁当を作るのは女性の役目のはずだが、残念ながら現時点では明らかに誠のほうが料理は上手だった。


「これは、教えてもらうお礼ということで」


「……何が教えられるかわかりませんが、有り難うございます。いつか料理も教えてください」


「解りました」


 肩を落とすまどかを見て、まことは少し笑った。

 誠もすこしずつ、まどかと話をすることが楽しいと感じるようになってきていた。




 日曜日、二人は朝の9時半に待ち合わせて、自転車で図書館へ向かった。

 数駅分の距離はあったが、ゆっくりと時間をかけて開館の10時少し前にはつくことができた。

 朝の涼しさがあるとはいえ、 晴れていたので、二人の肌はやや汗ばんでしまった。

 吹きかける風が心地よかった。


「師匠はいつも図書館でどうされるのですか?」


「調べ物です。教科書や授業の内容は重要ですが浅いところまでしかやってくれません。本当に楽しいのは、そこから先なんです」


「……師匠、あらためて尊敬します」


「如月さんは、何をしますか?」


「あの……良ければ、まどかと呼んで下さい」


 誠の歩みがまた止まり、くるっと顔を向けてきた。


「えっ……」


「友達にはそう呼ばれていますので」


「えっと……まどかさん……」


「はい!」


 まどかが笑顔で返事をすると、またもや誠の顔が赤くなった。


「あの……では……僕のことは誠と……」


「師匠と呼ばせて下さい」


「……」


「お願いします」


「はい……」


師匠と弟子の関係の二人ではあったが、まどかには逆らいきれない誠だった。




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