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勉強の神様は人見知り  作者: 京夜
神様の弟子は天使
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中間試験とボーリング

 ある晩、勉強の合間に、まどかは真穂にメールを打っていた。


『師匠、さっそく中間試験があるのですが、どうすればいいでしょうか まどか』


 いよいよ、高校入学して初めての難関、中間試験が目の前に控えていた。

 ここのところ、得意な科目は授業、帰ってからの復習、週末の復習と重ねることができて、今までにない自信のようなものを感じることができた。

 ただ、他の科目はまったく手を付けていない。

 それに試験前日にはどうしたら良いのか、不安がつのった。

 しばらくして返信があった。


『試験範囲と日程を間違えないこと。いつもの生活リズムを変えないこと。新たなことには手をつけず、復習を繰り返すこと。試験と同じように、45分程度を集中して勉強して15分休み、別の教科にして45分集中して勉強することをおすすめします。だらだらとやらないこと。 誠』


 真穂さんの携帯なのに、末尾のサインは誠だけだった。


『はい、師匠。苦手な教科はほとんど勉強していないのですが、いいのでしょうか。 まどか』


 恥ずかしいながら、まどかは素直に聞いてみた。この返答は少し時間がかかった。

 ……予想していなかったのかな……とまどかは少し心配になった。


『今回は仕方がないけれど、基本的な方法は同じなので、頑張って! 真穂』


 ……どうやら誠は答えられなかったようだった。まどかは見えぬ相手に謝った。

 こんな弟子でごめんなさい。

 しばらくして、追加のメールが届いた。


『試験で解らない問題に時間を取られないように、できる問題を確実にとって。それからゆっくり解らない問題にとりかかって下さい。頭の中にある知識で解けるはずと、自信を持ってください。見直して簡単なミスをしてないかのチェックも大切です。頑張りましょう。 誠』


 誠の言葉がすこし変わってきたように、まどかに感じられた。相手のことを考えたり、精神的なこと、思いを気遣ってくれた言葉が出てきているように感じた。


「師匠……ありがとう……頑張ります!」


 まどかは再び勉強に向かった。



 中間試験は数日にかけて行われた。

 まどかは誠や真穂の教えをなるべく忠実に守ることを心がけて、試験の数日を過ごした。

 多分、今までよりはできたはず。そんな感触と、今までにはない集中した疲れを感じながら、試験は終了した。

 最後の試験が終わると、周囲からは安堵の溜息や、喜びの声が上がっていた。

 ざわめいた教室の中、曜子が近づいて、まどかに声をかけてきた。


「どうだった?」


「うん、今までよりは少しいいと思う」


「勉強、頑張っていたもんね。えらい。私はまあいつも通りかな」


「そう言いながら、曜子もけっこう成績がいいのよね」


 そんな会話をしながら、二人で帰り仕度をしていた。


「ねえ、せっかくだから久しぶりにどこか寄って行かない?」


「あっ、行く行く。何かぱぁっと遊びたい」


 隣の席の桜井宗志が、そんな二人に声をかけてきた。


「それなら、他にも声をかけてカラオケかボーリングでも行く?」


「うん、いいよ。だれ誘う?」


 まどかの返事に宗志がうなずくと、宗志は周囲に大きな声で叫んだ。


「カラオケかボーリング行くけど、みんな行かないか?!」


 宗志の声に教室みんなが振り向くと、驚くほどに反応が良かった。


「あっ、いいね」

「行く行く」

「僕もいいかな」

「私も!」


 ぞろぞろと人が集まってきた。

 それなら、と人が人を呼び、ほぼ教室全員が参加する状況になってしまった。

 仲間はずれを怖がっているのか、それとも思った以上に教室に一体感があるのか。

 まどかがびっくりしている視界の端に、誠がひとり教室を出ようとしている姿が見えた。


(あっ、師匠……)


 まどかは声をかけようとしたが、それよりも先に誠は教室を出てしまった。


「どうしたの? まどか」


「あっ、うん……ちょっと」


「?」


 戸惑っているまどかに宗志が声をかけてきた。


「何かすごい人数になっちゃったけど、いいよな」


「えっ、うん。多いほうが楽しいし」


「よし、じゃあみんな行こうか。これだけの人数だと駅前のオールラウンドかな」


 宗志は教室の中でも、まとめ役、ムードメイカー的な存在でもあるようだ。

 うまくみんなを集めて、導いてくれていた。

 まどかも曜子も、宗志に任せることにした。



 結局、カラオケでばらばらになるよりは、とボーリングでチームを組んで対抗戦となった。優勝したチームは、他のチームに食事をおごってもらうこととして、ボーリングの後にファミレスに行くことになった。


 まどかは曜子や宗志と同じチームとなり、他にも伊藤涼や岸谷玲といった男子が二人加わった。


「ようし、優勝を狙うぞ」


 円陣を組んで、宗志が声をかけた。


「おーっ!」


 なかなかのりの良いチームだった。

 宗志は自分で声をかけるだけあって、なかなか上手だった。

 曜子は身体が細い分、投球は弱かったが、正確にまっすぐ投げる玉は確実にピンを倒していった。

 涼や玲は、それぞれサッカー部とバスケット部と体育会系。力強い球を投げてなかなかの点数を出していた。


 そしてまどかの番が来た。


「私、実はあまり経験がなくて……」


「あっ、じゃあ俺が教えるよ」


 宗志が立ち上がると、涼と玲も声を上げた。


「あっ、ずるいぞ、俺だって教えられるぞ」

「そうだ、そうだ」


 まどかがその展開に戸惑っていると、三人はかってにジャンケンをはじめ、結局宗志が教えてくれることになった。

 宗志の説明は分かりやすく、もともと運動神経のいいまどかは、きれいなフォームで投球できた。

 結果は7本、3本でスペアだった。


「やった!」

「おっ、凄い」

「さすが!」


 まどかが声援ににこやかな笑顔で応えると、男子たちはさらにやる気を出し始めた。


「ようし、ストライク行くぜ」


 宗志はそう叫んで、レーンへと向かった。

 まどかは曜子の隣に座ると、ふうっと息を吐いた。

 そんなまどかに曜子が声をかけてきた。


「あなたの笑顔は破壊力あるわね」


「はっ、破壊力……なにか壊した?」


「……あなたの天然、嫌いじゃないわよ」


 まどかは首をかしげた。

 曜子はちょっと笑って、まどかに近づいて耳打ちした。


「一柳くんと挨拶した後に、気になってあなたのことを見ていた男子がいたけれど……三人ともそうよ」


「えっと……それはつまり……」


「あなたに気があるんじゃないかな。三人とも。だからチームで一緒になろうとしたんじゃない?」


「…………」


 まどかは戸惑っていた。

 曜子の言葉は、いまだにまどかには実感がなく、それにどう対処すればいいか解らず、まどかを困惑させた。


「まあ、とはいえ告白されたわけでもなし。いつものように接したらいいんじゃない」


 曜子がまどかの表情から察してくれたのか、そう助言してくれた。

 まどかもうなずいた。


「どうしたの? 二人とも。次、神谷さんの番だよ」


「あっ、ありがとう」


 曜子が立ち上がると、その横にいま投げ終わった涼が座った。

 涼は髪の短い、見かけは細いが筋肉質で、いかにもサッカー部員といった容姿をしていた。


「何の話をしていたの?」


「えっ……いや……私の笑顔は破壊力があるとか、何とか……」


「あっ、確かに」


「破壊力って……どういう意味?」


「意味って……そのままだけど」


「私、なにか壊したの?」


 涼が吹き出した。


「そっ、そうだね……くくっ……壊したかもね。いいから気にしないで」


「……? うん」


 曜子の投球が終わり、まどかの順番が来た。


「よーし、頑張るぞ」


 男達からの声援を受けてボウリングを投げたまどかだったが、どうにも先程の曜子の言葉が気になって微妙なズレを生じてしまった。

 球は脇にそれ、ガーターだった。


「あれ?」


「ドンマイ、ドンマイ」

「いいよ、いいよ」


 まどかの元気のない顔に、みんなが励ましてくれた。



 結局、終わってみると、まどかが足をひっぱる形となってしまい、総合で惜しくも2位となった。


「ごめんなさい。私のせいで……」


「いいって、気にしないで」

「一緒にやれて、楽しかったよ。またやろうね」


 宗志や涼達がそうなぐさめてくれた。

 まどかはうなずいて、感謝の言葉を伝えた。



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