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勉強の神様は人見知り  作者: 京夜
神様と天使の二人三脚
121/123

合格発表


 合格発表の朝。

 まどかは緊張のあまり、いつもより早く目が覚めてしまった。

 もう一度寝ようかとも思ったが、横になっても眠れそうにない。

 まどかはそのまま、身支度を整えることにした。


 カーテンを開けると、ようやく白んできた空は凛と澄んでいて、深い青色がどこまでも広がっていた。


 とうとう今日、決まってしまう。


 医学部の入学は医師になる途中経過でしかないことは解っている。

 でも、ここを合格しないことには医師になれないことも確かだ。

 

 まどかは胸にそっと手をあてて祈った。


「どうか、合格していますように」


 誠と一緒に。



 しばらくの静かな祈りの後、まどかは着替え始めた。



 

 合格発表の場である大学内の敷地は、すでに人で賑わっていた。


 まどかは芳子と、誠は真穂とやってきて、正門で待ち合わせると一緒に発表会場へ向かった。

 まどかと誠が並び、その後ろに芳子と真帆が並んだ形で4人で歩く。



 今日は晴天で、何となく春の暖かさを感じる。

 発表日でなければ、気分が浮き立っていただろう。



 まどかはいつの間にか握りしめた手の平に、汗をかいているのを感じていた。

 手の平を広げ、かるく手を振ってみる。


 緊張をしている。


 まどかははっきりとそう自覚していた。

 いつもは感じない動悸も、今は感じる。



 早く結果が解ってすっきりしたい気持ちと、結果を見ることの怖さとが、心のなかで半分ずつ占めていて、悩めるまどかの歩みはどうしても重くなってしまっていた。



 そんなまどかの思いが伝わったのか、誠が手を取って握ってくれた。

 誠の目を見ると、落ち着いた視線を向けてくれていて、まどかはいくらか落ち着くことができた。


 ふたりで、ゆっくりと歩を進める。



 そしてとうとう、ふたりは掲示板の前にたどり着いた。




「確認しましょう」

「はい」

「番号を私にも見せて下さい」


 まどかの受験票をふたりで確認して、受験番号を憶える。

 医学部の掲示板を見つけ、数字を探し始めた。


 ひとつ、ひとつ、数字をたどる。


 あるか、ないか。



 数字は……。





「ありましたよ」

「え?」

「ありました。おめでとう」


 誠が静かに伝えてくれた。

 まどかも数字を追うと、確かに同じ番号があった。


 受験票と同じ番号。


「あった……」

「うん」

「師匠! ありました!」


 まどかは、思わず誠に抱きついた。

 もう嬉しくて、嬉しくて、力のかぎり誠のことを抱きしめてしまった。


 そこでまどかは、はっと気付いた。


 そうだ、誠は?


「師匠は? 番号ありました?」


 当然合格しているだろうと思って、忘れかけていた。

 誠はくすっと笑って、うなずいた。


「ありましたよ。僕も合格していました」

「やったぁ!!」


 まどかはまた、ぎゅっと誠を抱きしめた。

 嬉しかった。

 本当に、嬉しくて、嬉しくて。

 もう他の言葉でいい表せないくらい嬉しくて。


 緊張がとけて安心したのか、まどかの目に涙が滲んだ。


「師匠もおめでとうございます。そして、有り難うございました」

「こちらこそ、有り難う。それで、その……ひとつお願いがあるのですが」

「……? なんですか?」


 思いもよらないタイミングだったので、誠からのお願いの検討もつかないまどかは首をかしげた。

 ちょっと恥ずかしそうに、誠はつぶやいた。


「もう、今日から師匠ではないですので、その……誠……って呼んでくれませんか?」

「あっ……」


 そうだ。

 今までは勉強を教えてくれる先生であり、師匠だった。

 でもそれも、今日まで。


 今日からは……。



 まどかは頬を赤くして、うなずいた。


「はい………誠さん!」

「うん」


 ふたりは抱き合ったまま、ふふっと笑う。


 そうしたら、相手のことが愛しくて、愛しくて。


 ついついまどかも誠も、お互いに顔を近づけてしまった。


 そして




 ちゅっ……




 ちょっとだけ長いキス。






「あっ」


 誠が不意に唇を離し、何かを思い出したかのように声を上げたので、まどかも「え?」とびっくりした声を上げてしまった。



 そしてまどかも思い出した。


 母親と一緒に来ていたことを。



「…………」



 恐る恐るふたりが後ろを振り向くと、そこには、苦笑いをする芳子と真穂の姿があった。



 すべて見られていたことに気づいて、 恥ずかしくなったふたりは母親の顔を見ることもできず、顔を真っ赤にして視線をそらした。

 



 芳子と真穂は互いに視線をかわして微笑み合う。


 いつの間にか、ふたりの子供達はたくましく成長し、教えるでもなく夢を見つけ、そのための階段も登ってしまった。

 そして、心配していた恋の相手も見つけ、知らぬ間にふたりの愛をしっかり育んでいたようだ。


 芳子と真穂の心は驚きの気持ちよりも、ふたりの成長を微笑ましく思う温かな気持ちで満たされていた。



 その一方で、誠とまどかはますます顔を赤くして、まだ春先だというのに額に汗をかき始めていた。

 でもよく見ると、無意識にふたりは互いの手を握りしてめている。



 真穂はそんなふたりを見て、くすりと笑った。



 そして、真穂は静かにこう言ったのだった。





「もう、ふたりとも。結婚しちゃいなさいよ」










〈 勉強の神様は人見知り 終わり 〉



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