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勉強の神様は人見知り  作者: 京夜
神様と天使の二人三脚
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それぞれの告白

 そんな中、悠太がまどかに声をかけてきた。


「まどか、ちょっといいかな」

「あっ、うん」

「誠、ちょっと借りるよ」

「……はい」


 悠太の存在はふたりにとっても特別なものだ。

 ある意味、曜子と同じように、近くにいることが不自然ではない存在というか。

 ただ、高校3年では互いに違う教室になり、悠太とも会う機会は少なくなっていたが。

 それでも、今なお女の子からの告白を断り続けているところを見ると、悠太のまどかへの思いは消えていないのだろう。


 悠太はちょっと離れた席に移動して、まどかと一緒に座った。

 騒がしかった話し声が少し遠くなり、近くであれば小さな声でも会話が通じるぐらいになる。

 まどかは悠太の向かい側に座り、悠太の顔を見る。

 いつもならまどかの目をじっと見つめる悠太だったが、今日はどこかうつむき加減で表情が硬い。


「どうしたの? 悠太」


 悠太が声をかけたくせに、まどかの問い掛けにも口を開こうとしただけで、悠太の口からは言葉が出なかった。

 何か話しづらいことなのだろうか。


 しばらくの沈黙の後、悠太が大きなため息をついて話しだした。


「俺、東京に行くことになった」

「え?」

「東京の大学に受かったんだ。そこに行こうと思う」

「…………」


 まどかにとって悠太は産まれてからずっと近所にいて、近くにいるのが当たり前の存在だった。

 それがいつまでも続くわけはないのだが、それでも家が近いからか、離れることはまだ先の事のように思っていた。


「だから、しばらく会えない。もう……守ってやることもできない……」

「悠太……」


 表情を変えぬまま、悠太の目から涙がひとつだけこぼれた。


「ずっと一緒にいたかった。いれるものだと思っていた」

「…………」

「まどかが悪いわけじゃない。誠が悪いわけでもない。ただ、縁がなかったんだ」


 悠太は独り言のように、しずかにつぶやく。


「俺は東京に行く。まどか、元気でな」

「悠太、私、悠太がいてくれて本当に嬉しかったし、楽しかった」


 本当に寂しい思いをしなかったのも、楽しい思い出も、悠太がいてくれたから、と言っても大げさではないほど、いつも傍らにいてくれた。


「解ってる」

「ずっと幼馴染でいてくれて有り難う」

「……もし、誠と別れることがあったら、真っ先に知らせろよ?」


 悠太が笑みを浮かべて冗談のようにつぶやくと、まどかも思わず笑ってしまった。


「わかった。その時は一番最初に知らせる」


 たぶん、無いとは思うが。

 そして、それは悠太も解っている。


「約束だぞ。でも、俺が新しい彼女を見つけていたらゴメンな」

「そうしたら、今度は私が怒るから」

「うん、怒って。いっぱい怒っていいから」

「グーで殴るよ」

「殴っていいよ」

「それで、お幸せに、て言うから」

「ああ」


 ふたりは、ちいさく笑いあう。

 それで十分だった。


「それじゃあな。元気で」

「悠太も。気をつけて」

「有り難う。困った時はいつでも連絡くれよ。どんな時でも俺はお前の味方だから」

「うん。解った。連絡する」


 まどかが手を上げると、悠太がそれに気づいてハイタッチをする。

 昔、遊んでいたときに、ふたりで良くやっていた。

 野球をしたり、サッカーをしたり。

 嬉しい気持ちを分かち合いたい時にやっていたハイタッチ。

 その瞬間だけは、昔に戻ったような気がした。


 互いにうなずいて、そして、ふたりはそれぞれの席に戻って行った。




 誠は麻友に呼ばれて話をしていた。

 部屋の隅の空間に座って、ふたりで向かい合う。


 当初は苦手意識のあった麻友だが、今では誠にとって気楽に話のできる数少ない女友達のひとりだった。

 いつのまにか、麻友はまどかとも仲良くなっているのだから、そのコミュニケーション能力は相変わらず尊敬するほど高い。


 今日もいつものように麻友の方から話し始めた。


「誠くん、本当にいろいろと有り難うね」

「何が?」

「私、誠くんのこと好きになってよかった」

「…………」


 麻友は自分のコップのウーロン茶をゆっくりと飲む。

 ひとつ小さな息を吐いてから、また話し始めた。


「最初は、なんで振り向いてくれないんだろう、ってイライラした。何でこんな奴、好きになっちゃったんだろ、って後悔した。こんな経験したことがなかったから、戸惑っちゃって」

「……うん」

「だけどね、そうやって本当に好きになる気持ちに気付いたり、好きになってもらえないことの辛さが解ったり。今までは気ままに付き合ったり、ふったりしていたから」


 麻友も誠とまどかの恋愛を見て、気づいてしまった。

 ひとりの人を強く愛すると、あんなに幸せそうに笑えるということに。

 そして、互いに離れられない絆ができることを。


 それを麻友も素敵だな、と思ってしまった。

 そう思ったら、もう今までの恋愛には戻れなくなっていた。

 今までは寂しさを紛らすように絶えず彼氏がいたが、今はいなくても構わない。

 だけど、付き合うなら本当に好きになりたい。


「ふたりを見ていて、いつの間にかふたりを見守る気持ちのほうが大きくなってきていたの。悔しいけど、憧れかな」

「麻友さん……」

「ふたりはお似合いよ。ちゃんと離さずに、結婚しちゃいなさい」


 麻友の言葉にちょっと戸惑いながらも、誠はうなずいた。

 できれば、そうありたいと思っているから。

 麻友は、ふふっ、と笑った。


「私も素敵な人を見つけて結婚するから。そうしたら、また夫婦でお付き合いしましょうね」

「はい。楽しみにしています」

「約束よ」

「約束します」


 麻友は優しい笑顔をして、そして手招きをする。


「ちょっと耳貸して」


 誠は海旅行の出来事を思い出して、眉をしかめた。


「大丈夫だから。信頼してよ」


 麻友は笑いながら手招きをする。

 誠はこわごわと麻友に近寄り、耳を向けた。

 麻友が手で口元を隠して、誠の耳元に近寄る。


「あのね……」


 麻友の小さな声と吐息が耳にあたってこそばゆい。

 誠は麻友の次の言葉を待った。



 かぷっ。


「…………!!!」


 みっ、耳をかまれたぁぁ!!


 誠はぱっと麻友から離れ、噛まれた耳を押さえて、顔を真っ赤にした。


「っ! ぁっ! ……!」


 驚きすぎて、言葉がでない。


 麻友は何事もなかったかのように、涼しげな笑顔を浮かべた。


「最後の愛の告白」


 嬉しそうにそう言うと、


「じゃあねぇ。またね!」


 と手をひらひらさせて、戻って行ってしまった。

 誠ははぁっと深い溜息をついた。


 最後まで、麻友には勝てなかった。




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