表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勉強の神様は人見知り  作者: 京夜
神様の作戦
11/123

神様のお見送り

「確認ですが、黒板を写すとき、見てすぐにノートに写していますね?」

「はい」

「それは禁止します」

「駄目なんですか?!」

「その方法は短期記憶なので、頭に残りません。一度憶える作業を間に入れてください」

「短期記憶……」


 またもや、誠から難しい言葉が出てきた。


「短期記憶というのは例えば、電話番号を一瞬だけ憶えるときに使われるものです。口の中で繰り返してつぶやいている間は覚えていますが、電話をかけた直後にはもう忘れています。これは、頭の中に電気信号は通すが、突起が伸びない状況です。電気の流れが無くなると、まったく元の状態に戻ってします」

「……つまり板書するだけでは、まったく記憶に残らないと……」

「まあ、そうです」


 がーーん……。

 今までの苦労は何だったのだろう……そういえば、授業が終わるとほとんど忘れていたような気がする。

 くすん。


「理解出来ないところは、どうしたらよいでしょうか」

「? ……ちゃんと聞いていれば、それほど難しくはないと思うけど……昼休みの時間、図書室にいますので、聞いてください」

「はい」


 やっぱり昼は図書室にいたんだ。

 縁のない場所だったから、見かけなかったのね。


「なぜ授業の受け方から始まるかというと」


 真穂さんが説明を加えてくれた。


「帰ってから1時間勉強をしようとすると大変だけど、学校の授業は1日6時限もある。これをしっかりやらない手はないのよ。先生の教え方の上手下手はあるかも知れないけれど、本当にちゃんと受けている人も多くない。熱心な生徒には先生も熱心に教えてくれたり、面倒をみてくれたりするものよ」

「わかります」


 確かに、いきなり学校から帰ってから毎日勉強と言われたら、かなりつらかったかも知れない。それに、あんな誠のように授業を聞いてくれたら、先生だって教えがいがあるというものだろう。

 ……あの境地までは、とっても到達できそうにないけれど。



 軽い確認事項の後、本日の作戦会議は終了した。

 先程のノートの切れ端を渡され、また一週間後に報告・確認することになった。

 勉強しようとしていた誠さんの首根っこをつかまえて、真穂さんはまどかを送るように言った。

 誠は戸惑ったような顔をした。


「誠、帰りが遅くなった女性を家まで送り届けるのは、男性の大切な義務の一つよ。これも勉強。実技のね」


 不平がありそうだが、誠は受け入れた。


「……解りました」

「門の前で帰らず、ちゃんとご両親に挨拶してから帰ってらっしゃいよ」


 誠は頷いて、玄関へ向かった。


「あの、ごめんなさい。迷惑ばかりで……」

「いや……あの……いいから……」


 誠はちょっと困ったように、視線をおよがせた。

 勉強を教えるときは、落ち着いていたが、今はどこか戸惑っているようだった。


 二人は駐輪場へ向かうと、それぞれの自転車に乗った。

 

「それじゃあ、ついてきてもらっていいですか?」


 誠は頷いて答えた。

 道中、会話はなかった。

 まどかも話しかけようかと思ったが、誠が緊張しているのが解って、何となく声をかけづらかった。


 家に着くと、まどかは自転車を中に入れた。


「ただいま!」


 声をかけると、母親が出てきた。


「お帰りなさい。……あら今日は男の子?」

「うん、前に話した一柳誠さん。送ってもらったの」

「あら、有り難うございます」


 母親が頭を下げると、上ずった声で応えた。


「いっ、一柳です……あっ、あの……えっと、帰ります。すみません」


 少し顔を赤くしていたようだった。

 すぐに自転車にまたがると、そのまま走りだしてしまった。

 あっという間に角を曲がり、姿は見えなくなった。


 母親はくすっと笑った。


「絵に描いたように真面目で、素朴な子ね」


「勉強の時は、すごく堂々としているんだけど……」


「そうなんでしょうね。まどかと反対」


「……はい。その通りです」


 二人で少し笑った。

 もうあたりは夜の闇に覆われていたが、ここだけは明るさと暖かな空気で包まれているようだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ