ファーストキス (R-15 ?)
キスシーンがあります。ぎりぎりR-15ではないと思うのですが、年齢的に、あるいは苦手な方は飛ばして下さい。
まどかは部屋に入り、カチッと鍵を閉めた。
中はすでに明るく、誠はもう先にお風呂をすませて帰ってきているようだ。
「お帰りなさい」
何かノートに書いていた誠が笑顔で迎えてくれて、まどかの緊張はいくらか和らいだ。
「ただいま帰りました。……みんなに万歳三唱されてしまいました」
まどかが顔を赤くして言うと、事情を理解した誠も顔を赤くした。
まどかはベッドにすとん、と腰をおろした。
まどかも誠も、ホテルに用意されていた浴衣を着ていた。
そのままで眠ることもできる柔らかい生地のもので、夏用なのか着ていて心地良い。
まどかは半乾きだった髪の毛を、持ってきたドライヤーで乾かすことにした。
歯磨きも終わっているし、これが終われば、あとは眠るだけだ。
互いに意識してしまい、無言のままドライヤーの音だけが部屋に響く。
「…………」
まどかも誠も、ゆっくりとした、でも強い自分の心臓の拍動を感じていた。
観覧車の時よりは落ち着いているが、どうしたらいいか解らない不安もある。
まどかはドライヤーを切ると、電源を抜いてバッグにしまった。
「あの……お待たせしました」
「はい……寝ましょうか」
まどかはうなずき、布団の端に恥ずかしそうにもぐりこんだ。
誠は部屋の電気をひとつずつ消していき、真っ暗になったのを確認して、反対の布団の端にもぐりこんだ。
窓から月の光が薄く差しこんでいて、お互いの顔はよく見える。
誠もメガネを取って脇に置いているが、これだけ近ければ、メガネは無くても相手のことはよく見えた。
横になって互いに顔を向かい合わせ、視線を合わせたまま、時が流れる。
誠は緊張しながらも、まどかの綺麗な瞳に見惚れていた。
透き通るような、まっすぐに見つめる瞳から視線が外せない。
言葉もないまま、互いの思いを瞳で確認しあい、ゆっくりと身体を近づけていく。
それほど広くないベッドで、すぐにふたりの距離は詰まった。
鼻と鼻が触れる。
それだけの触れ合いなのに、ふたりの全身に相手の体が触れた感触と、快感が溢れる。
鼻と鼻が触れただけなのに、こんなに気持ちがいいなんて……ふたりは戸惑いながらも、喜びに心が震えるのを感じていた。
キスしたい。
唇と唇で触れてみたい。
強い衝動が、心と体を動かす。
ほんの少し顔を傾けて鼻をずらし、唇を近づける。
ゆっくりと近づき、そしてふたりは、
キスをした。
唇が触れた瞬間に、体全身にじんっとした電気の走るような快感が駆け巡る。
しっかりと唇が合わさると、幸せな気持ちが心から溢れ出すのを感じた。
柔らかくて、あたたかい。
こんなに気持ちがいいなんて。
名残惜しさを残して、そっと唇が離れた。
呼吸をするのも忘れていて、互いにゆっくりと深呼吸をした。
今になって心臓がドキドキしてくる。
ようやくキスが出来てほっとできるかと思っていたが、それ以上に相手を求める気持ちが心臓の鼓動を早める。
もう一度、キスしたい。
もっと触れたい。
誠はもう一度、唇を近づけた。
まどかもそれに応えた。
今度はもっと強いキス。
深く押し付けるような。
相手のことをもっと感じるようなキス。
頭の中が、肌の触れる気持よさに満たされ、ゆっくりと溶けていく。
好き。
大好き。
まどかは誠を思う気持ちがどんどん高まっていくのを感じていた。
涙がこぼれるほどに。
唇の感触が消え、まどかが目を開けると、誠の不安そうな瞳があった。
「涙……」
誠はどうやら、涙を不安や怖さのせいと勘違いをしたみたいだ。
まどかは頭を横に振って、それを否定した。
「嬉しいんです」
「…………」
「好きです。大好きです」
まどかの瞳から、また一粒涙がこぼれた。
「僕も大好きです」
もう一度、ふたりは唇を重ねた。
ゆっくりと、何度も。
その度に、快感と満足感が身体を満たしていく。
何度キスしても、尽きないように。