悪役令嬢は断罪されるべきと言われたので、妹を差し出しました
残業を終え、深夜の帰宅途中。
乗車したタクシーで事故にあった私は享年27歳、社畜&独身のまま逝く。
事故の直前まで読んでいたWebサイトのネット小説。関係あるかはわからないけど、どうやら私はそこに転生したっぽい。
もちろん最初は驚いたし、公爵家令嬢ってことで舞い上がりもしたけど、16年経った今では薄れきったリアクションで淡々と説明できてしまうこの感じ。
原因はこれ。
「オルガ・ハーデルハイド、君との婚約を破棄する」
せっかく初めて結婚できると思ったのに、お決まりみたいなテンプレじゃ、そりゃ萎えるって話。
もっと甘々展開のやつもあるのに。まぁ王太子殿下との婚約って時点でちょっとは疑ったけどさ。
ただムカつくことに、今回の破談宣告はこっちが悪いんじゃなくて、あの殿下の隣にいるヤツのせい。
「オルガ。実の妹に対して、酷い仕打ちを繰り返していたそうだな」
嘘泣きの上手い妹ですこと。殿下の横で悲劇のヒロインまで演じてさ。
で、その妹にまんまと嵌められたって感じ。
これもよくあるやつよ。アホな王太子が愛人ポジの妹とか別の令嬢の話だけで婚約破棄したりする断罪系。
でも、実際には王太子との婚約って想像以上に大事で、普通はこんな簡単に婚約を破棄するなんて絶対できない。
それこそ当事者は二の次で王家全体の話だし、この国では王太子が自由に相手を選べるなんてこともなく、私が転生したハーデルハイド公爵家の者との結婚も、まだ私が赤ちゃんの時から決まってたから。
Web小説じゃあるまいし、そんなホイホイ婚約破棄があってたまりますかっての。でも、全部無視して実際に今宣言されるんだから笑える。
「何を一人でぶつぶつと笑っている。私の話を聞いているのか」
「聞いていますわ。しっかりと」
「では認めるのだな?」
「何を?」
「聞いてないじゃないか! もういい、これまでの悪事はすべて君の行いだということはすでにわかっている。証人もいる」
「悪事? あー……それでしたら」
「黙れ! 悪役令嬢は断罪されるべきなのだ」
「……二言はありませんか、ラース殿下」
「なに?」
「悪役令嬢は断罪されるべき、そうおっしゃいましたね?」
「無論だ。お前のような我が王家に損害を与えるような輩はーー」
「それではどうぞ。殿下の隣にいる悪役令嬢を好きに断罪してください」
言ってやった。
ラースは驚き、プラス、言いたいことが渋滞して喋れない感じで固まってる。
婚約破棄はいいのよ、別に。こんな王太子、最初から願い下げって感じだったし。
でも断罪はない。社畜のときもそうだったけど、なんで何もしてない私が責任取らなきゃいけないわけ?
あー...…思い出したらまたイライラしてきた。
「ど、どういう意味だ!」
あ、やっと喋った。
「言葉の通りです。悪役令嬢は断罪されるべきとおっしゃるのなら、どうぞご自由に断罪してください。そう申し上げました」
「メアリサが悪役令嬢だと!? 貴様、この期に及んでくだらんデタラメを並べーー」
「こちらが証拠です」
元社畜、舐めんな。言いたい気持ちを抑えて、まずは3枚の紙切れを取り出した。最後の1枚は、まだいっか。
「あ……あっ……」
たぶん、この距離からは文字までは見えてない。見えてないはずなのに、すでに妹のメアリサの顔は青ざめてあわあわしてる。
わかりやすすぎ。こんなリアクションしてくれるんだったらもはや証拠いらなかったレベルだよね。
「捏造だろ!! 貴様のーー」
「捏造? そうお思いになられるのでしたらそこから降りてきてよくご覧下さい。証拠となるこちらの一文には、メアリサ直筆のサインが記された証言もありますので」
「こ、これは……一体どういう状況だ?」
「なぜラース殿下は、オルガ様をーー」
「いや、そもそもメアリサ様はいつからラース様と……」
エスターナ王家の家臣たちがざわつき始めた。
状況は簡単にいうと、殿下との婚約を妬んだ妹が色々としちゃいけないことをやりまくって、それを全部私のせいにしたって感じ。
ラース殿下の弟、第二王子のルーシュ殿下曰く、とくに証拠もないままメアリサから聞いた証言のみで私の悪事と断定、婚約破棄を決めたんだって。
馬鹿でしょ?
その点、ルーシュは小さい頃から私に対してすごく優しくしてくれる人で、今回の一件でも馬鹿王太子にちゃんと意見してくれたんだって。
「兄上。婚約者を疑う前に、まずは何が起きたのかを調べ、確認するべきです」
「必要ない。メアリサがあれほど苦しんでいるのだ。原因がオルガであることは明らかだろう」
「明らかかどうかを調べる必要があると申しているのです。証拠もなく、人を罪人と決めつけるべきではありません」
「王太子は私だ。私に意見するな」
「貴方の婚約者は……オルガは、そんな女性ではない!!」
その場にいたらキュン死よね。
ただ、これはルーシュが優しいというか、ラースが単純に終わってるだけな気もするけど。
そこからルーシュは真相を解明しようと一人で動いてくれたんだって。私のためというより、たぶんメアリサの証言一つで私を断罪しようとしてる兄の、それが王太子の行いかってところが許せなかったんだと思う。
でも正直、私はその王子兄弟二人のやりとりよりもずっと前から、実はメアリサの悪事には気付いてた。
だって不自然に私の部屋を出入りしてるとこを何回も見たし、そのたびに重要な書類とか私の装飾品がなくなるし。
おまけに王家と繋がりを持つ近隣諸国の大名との重要な情報が漏洩しかけたときなんか、なくなった私の装飾品が情報室から見つかったっていうんだから。……いや、あんたじゃんって。
だけど、理由だけはわからなかった。
なんか嫌われるようなことしたかな?なんて考えたりもしたけど、ずっと仲もよかったし、それはないかって感じで。
それでこの頃から、ちょっとずつメアリサの証拠を集めるようになった。
理由も知りたかったけど、一番は、あの子に言い逃れさせないため。私と向かい合うしかない状況を作り、王家に損害を与えることの重大さをわかってもらった上で、ごめんなさいって、もう二度としないって約束してほしかった。
それなのにあの子。こっちが必死に証拠集めしてる最中に、とうとうやらかしてしまったわけよ。
このあいだの漏洩未遂なんかとは違う、王家へ直接損害を与えるという『いたずら』では済まされない一線を越えちゃった。
さすがに怒ったわ。
「メアリサ、どういうつもり?」
「どうしましたのお姉様。そんな怖い顔をして」
「あなた、自分がしたことの重大さがわかっていないの? もしこれが公になれば貴女だけの問題では済まされない。ハーデルハイド公爵家が王家から奪爵される可能性だってあるのよ?」
「うふふ!」
うふふ!ってなに。我が妹ながら馬鹿すぎる。
シラを切るわけでもない。反省もなし。むしろ自分がやったことってことを認めるような、うふふ!
こっちが笑いそうになった。
「証拠はあるの? わたくしが行ったという確たる証拠が」
そうくるよね。妹だもん。こう言ってくるってわかってたから集めてたの。
この時点でもあるにはあったんだけど、全部揃ってたわけじゃなかったから。
(はぁー……)
本当、昔は可愛い妹だったのにな。
いたずら好きなところはあんまり変わってないけど、いつも最後は「ごめんなさい」して頭を撫でてあげたりしてさ。
ま、そんなことを思い出しても今は仕方ないんだけどね。
どうしよう……そう悩んだ一瞬の隙だった。
「すべてわたくしが行ったことのように言っているけれど、わたくし、知っているのよ? すべてはお姉様の仕業ってこと」
「え?」
「このことをラース様が知ったらどうなるのかしらね。お二人の婚約……」
ここでようやく理解した。妹が私を陥れようとした理由。
あんな王太子との婚約なんてどうでもいいけど、今回ばかりは昔のように許す気になれなかった。その陰湿なやり方も、ありふれた悪役令嬢みたいな笑い方も、今回のあんたはなにもかもが全部嫌い。
もう言い逃れなんてさせない。
その場をあとにしてから、その思い一点で残りの証拠集めに奔走した。
ルーシュから呼び出されたのはその2日後だった。
ルーシュは信頼のある家臣や従者と連携して、私が求めていた最後の証拠、そして今回の一連の真相に辿りついてた。
「ルーシュ殿下、申し訳ありません」
「君が謝ることじゃない。むしろ君のほうがショックだと思う……まさかメアリサがこんなーー」
「いいえ全く」
「え、え……?」
「私、今回ばかりは妹を許す気になれません。王家に損害を与えた罪、ハーデルハイド公爵家の顔に泥を塗ったその行いは、しっかりと償ってもらいます」
かなりイライラしてたと思う。
ルーシュに何度ももう一度二人を説得しようって諭されたけど、なんでか、頑なだった。
それでもルーシュは最後まで私の気持ちに寄り添いつつ、二人を説得しようって言い続けた。俯いた私に、「ね?」って。
なんかちょっとだけ、昔の自分とメアリサを思い出しちゃったじゃん……。
その晩、ルーシュは兄のラースに。私は妹のメアリサに。それぞれの思いをぶつけた。転生したって、前世の記憶があるからって、そんなこと今は関係ない。
メアリサは私の妹で、私の家族だ。
「あーっははは!! 証拠?もう遅いのです! このままお姉様を悪役にして、国外追放にしてみせますわ! そうすれば、わたしがラース殿下のお側にいられますもの!」
切れた。ルーシュのお陰でなんとか繋ぎ止めてた最後の糸が、今この瞬間、プツンと音を立てた。
悪役令嬢ものでよく妹に対してざまぁ展開とかは見てきたけど、所詮、誰かが作ったフィクションで、実際に妹をざまぁするなんて、そんなやついるわけない。そう思ってたけど、本当にあるんだね、こういうの。
もう、許さないから。
「何が証拠だ。我が愛しのメアリサがあいつに虐げられ、苦しんでいるのだ。私にしか救えない。私が彼女を救ってみせる!」
「ですから、それが嘘だと申しているのです! こちらが証拠です! 貴方はオルガの婚約者として、そして我が国の王太子として! それで良いのですか兄上!」
「誰に向かってものを言っている。婚約者だと? 我が王家に損害を与え、実の妹まで虐げる女に王太子妃となる資格はない! あの女との婚約は破棄だ!」
あー、思い出したらまたイライラしてきた。
「ど、どういう意味だ!」
あ、やっと喋った。
「言葉の通りです。悪役令嬢は断罪されるべきとおっしゃるのなら、どうぞご自由に断罪してください。そう申し上げました」
「メアリサが悪役令嬢だと!? 貴様、この期に及んでくだらんデタラメを並べーー」
「こちらが証拠です」
3枚の紙切れを取り出して、ラース殿下に突き出した。
王家に損害を与えた事件。メアリサが裏で手を回していた動かぬ証拠。そして私を悪役令嬢に仕立てるために、メアリサ自身が悲劇の妹を演じていた証拠。
「そんなものは捏造だ!!」
「捏造? そうお思いになられるのでしたらそこから降りてきてよくご覧下さい。証拠となるこちらの一文には、メアリサ直筆のサインが記された証言もありますので」
「兄上、捏造ではありません。先日もお見せしたはずです」
ルーシュは本当に格好いい。自分のお兄さんで、立場だってあるのに、それでも冷静に、こんな状況でもしっかりと割って入れるんだから。
そのあと、ルーシュからも証拠の提示があった。私がまだ出していなかった4枚目の紙切れと一緒に。
真相を知った周囲は、収拾がつかなくなるくらいざわざわしてた。
王太子との婚姻を妬み、姉を悪者に仕立てて、悲劇のヒロインを演じながら悪事を重ねていた絵に描いたような悪役令嬢だ。無理もない。
そして最後には、とうとう私を国外追放へ追い込むとメアリサが口にした証言まで挙がった。あの日、ルーシュの従者が聞いてたんだって。
「ち、違うの!! わたくしの話を聞いて!!」
すっごい必死だけど、無理でしょ。ていうか、その言葉すらもう誰も聞いてないし。
「兄上!!」
ルーシュの一声が大広間を静めた。子供の頃とは全然違う、王子の顔だった。
「私は貴方に何度も進言した。まずは調べるべきであると。貴方はそれを怠り、婚約者をあらぬ疑いで一方的に婚約破棄し、断罪まで宣告した!」
「だ、だからそれは! メアリサがこいつに虐げられていたからであって……!」
「言い訳無用。今回の貴方の行い、そして決断は決して軽くない」
(ルーシュ、やるじゃん)
後日、事実確認が行われた。証言だけのメアリサと、その言葉を聞いて判断してしまったラース殿下。反対に、すべての証言・証拠を集めたルーシュと私。
信憑性は明らかだった。
ラースは婚約者の私を罪人って決めつけたこと、その上で身勝手な婚約破棄の判断、これらを突き付けられて、その責任を問われ、一月後には王太子の座を剥奪されちゃった。
メアリサもメアリサで、王家への損害と私を陥れようとした行為に相応の処分が下された。ハーデルハイド公爵家からも絶縁。そして私に望んだ国外追放を自分が言い渡された。
(よかった……)
安堵した理由は、別にあの子が憎かったからじゃない。絶縁も国外追放も、それは仕方ない。それよりも、王家に損害を与えるって普通に国家反逆罪だから。極刑も全然あり得たし、それが免れたってことに安心したの。
たぶんーー
「殿下がおっしゃってくれたのでしょ? メアリサの減刑のこと」
「ん? さて、なんのことだか」
「ルーシュ殿下、あとで非礼はお詫びいたします。ですからどうか、今だけは、昔のよしみとしてお許しください」
「非礼? どういうことーー」
「ルーシュ! ありがとう!!」
抱きついた。本当にあのときはキレてたけど、それでも妹だもん。極刑なんて当たり前に嫌だったし、私をこれ以上悲しませたくないからってルーシュが進言してくれたのが、本当に痛いくらい嬉しかった。
「オルガ」
「はい」
言い忘れてたけど、視察と交友関係の持続って名目で、国王様と王妃様は海外に渡航中だったんだけど、帰国されるや否やこの事態。国民への示し、不安を沈静化するために、速攻で次の王太子をルーシュに据えて、ラースには王太子剥奪以外にもキツい罰が与えられたんだって。
「我が兄上の軽率で早計な判断のもと、君には多大な迷惑をかけてしまった。本当にすまない」
「殿下が謝ることではありません。むしろわたくしは感謝しています。殿下がラース様のため、そしてわたくしのために真相を突き止めようとしてくださったこと」
「証拠もなく、断罪するなど断じてあってはならないからね。そして私は、貴女がそのようなことをする女性ではないとはじめから信じていた」
「……なぜ?」
「子供の頃からずっと君を見てきたんだ。本当に同世代とは思えないほど君は昔から大人びていて、私やラース、妹のメアリサがいたずらしたときも君は叱ってくれた」
まぁ……27歳、元社畜ですから。
「そしてこれまで、献身的に兄を支えてきた君だ。言うまでもなく、王太子妃としての資質は誰よりもある。こんなことがあったばかりだけど、君さえよかったら、今度は私を支えてほしいと思っている」
「もちろんです。私でよければ喜んで」
「ありがとう。でも私だって支えられるだけじゃない。私も、君を全力で支えていくことを誓う」
差し出されたその手を、両手で包むようにして受け取った。
今回の出来事を前世の私が見たとしたら、こういう終わり方がテンプレだよねって感じになったと思うけど、実際に16年間この世界で生きてきて、こういう出来事が起こってしまったあとに思うことは、やっぱりそんな簡単な一言感想なんかじゃない。
「愛している、オルガ」
ついこの前までは『断罪されるべき悪役令嬢』って言われてたけど、今度は自分を正しく見てくれる人とともに、自らの、第二のこの人生を歩みたいと思ってる。
「私もです。ルーシュ殿下」
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
面白かったと思ってもらえたら☆☆☆☆☆から評価してくれると大変嬉しいです。




