婚約者を奪った聖女様のざまぁを見届けていたら、隠していた私の正体がバレました
「すまない、アネット。俺は真実の愛を見付けてしまったんだ」
「⋯⋯はあ?」
――お昼休み。
婚約者のザックから呼び出されたので、学園の校舎裏に来てみたら、彼は異世界から来た聖女様と手を繋いだ状態で、先ほどのセリフを言い放った。
「……え。急に何を言っているのですか?」
大事なお昼休みに人のことを呼び出しておいて、何を言っているんだと困惑する。
そんな私を見てザックは、大げさな溜め息を吐いた。
「……はあ。君みたいな、感情が希薄で居ても居なくても分からないような人間には、理解できないのかもしれないが⋯⋯」
急に人のこと貶めてくるな、この人。
「俺はね、今、真剣に恋をしているんだ。燃え上がるような恋心に身を焦がされているんだ!」
よくわからないけど、そのまま燃えカスになればいいのに。
「君に酷なことを言ってしまって、すまない。能面のような君だって、さすがに婚約者の俺がこんなことを言っては、怒り悲しむのは当然だと思う! ……けど、理解して欲しいんだ。俺たちのことを……どうか、許して欲しい……」
演技がかったような言い方にイライラするが、とりあえず我慢して聞いてみる。
「ごめんなさい、アネットさん。でも……私もザック様のことを愛してしまったの……!」
我慢していると、聖女様が入ってきた。この人も大概演技がかった喋り方してるな。
「ああ、泣かないで……俺のミティ。アネットは、きっと俺たちのことを分かってくれるよ。今は無理でも、いつか必ず……なぁ、アネット?」
ザックの問いかけに、私は乾いた笑いを落とす。
「だいたい、君のようなデビュタントにも出てないような令嬢と俺とでは、釣り合わなかったんだよ」
(あ~……はいはい)
「……えーっと……つまり婚約破棄ってことで、いいですか?」
私の言葉に、二人の顔がぱあぁと輝く。分かりやすいなぁ……。
「やった、アネットが分かってくれた!」
「ええ! 本当ね、ザック!」
「俺たちの愛が、アネットの荒んだ心を溶かしたんだ!」
この人達の頭の中、綿菓子で出来てるのかな? いや、もういい。関わらないでおこう。
「……じゃあ私、もう行くんで。両親には、今回のことを伝えておきますね」
さっさと、この場を離れたくて踵を返す私にザックが声を掛けてきた。
「――アネット。君も本気で恋してみればいい。いいものだよ……恋って」
大丈夫か、こいつ?
おっと、言葉が乱れてしまった。気を付けないと。
私は、彼の言葉を無視して学園のカフェテリアへと向かった。
◇
「……ふう」
無事に昼食を終えて、カフェラテ飲みながら、ふふっと口角を上げる。
先ほどの婚約破棄劇場には腹が立つが、ザックとの婚約破棄は、私にとって非常に喜ばしいことであった。
あの人、ちょっとモラハラ気質なところがあったし、束縛も厳しくて困ってたんだよね。
だから、彼を引き取ってくれた聖女様には感謝しかない。
「気分がいいから、おやつも食べちゃおう」
私は鼻歌を口ずさみながら、チェリーパイを注文しに行くのであった。
◇
ザックとの婚約が正式に解消されて、悠々自適な毎日を送っていたある日――。
何やら、隣の教室が騒がしい。
何事なのだろうと中を覗き込むと、聖女様が何人もの女子生徒たちに取り囲まれていた。
「……何があったんです?」
私は、近くに居た生徒に問いかけてみる。
「……ああ。あの聖女様、何人もの男子に手を出してたみたいなんだよ」
「……えぇ……」
話を聞くと、あの聖女さまは私だけではなく他の女子生徒の婚約者や恋人にまで手をだしまくりだったらしい。
(いやもう、聖女じゃなくて、性女ですな……)
そんなことを考えていると、教室の中から一際大きな声が聞こえてくる。
「いい加減になさい!!」
その声は、第二王子の婚約者のものであった。
えっ、ちょっと待って……あの聖女様、よりによってリュシアン様にも手を出しちゃったの!? やばっ、怖っ!
「わたくし達、全て存じ上げておりますのよ! あなた、ジェームズ先生にも言い寄っていたのでしょう!?」
は? 聖女様、先生にまで手を出そうとしてたの……すごいな。なんかもう、異次元だわ……。
「ま、待って、違うの! 誤解だわ! 私は、ただ、みんなを愛していただけなの! 本当よ? だって、私は聖女だもの。みんなを愛して当然じゃない?」
聖女様の言い分に、その場にいた誰もが呆れた表情になる。
「……人の婚約者を奪うのが、愛ですって?」
「バカなこと言わないで!!」
「ひどい……ひどいわ……これが聖女のすることなの……?」
一人の女子生徒が泣き始めたことで、周りが更にヒートアップする。
「みんなを愛するというのでしたら、わたくし達のことも愛してくれても良いのでは?」
「婚約者や恋人のいる男子生徒ばかり愛するというのは不公平ではなくて?」
「……っ……そ、それは……」
女子生徒たちの言葉に、聖女様は黙り込んでしまう。
「それと、聖女の証を見せていただけないかしら?」
「……え?」
「聖女はその証として、うなじに宝石が埋め込まれていると言うではありませんか……ねぇ?」
「わたくし、聞いたことがありますわ!」
「わたくしもです!」
「異世界から来たというだけで、聖女に祀り上げられて。なのに、肝心の証を誰も見たことがないのだとか……王室も随分と杜撰ですわよね」
聖女様を見下しながら、クスクスと笑う女子生徒たち。
「さあ、見せてくださいな。女同士ですもの、恥ずかしくなんてないでしょう? それとも、見せられない理由でもおありで?」
「……っ……」
「皆さん!」
「はいっ!!」
女子生徒が聖女様の後ろに回り込むと、彼女の髪の毛をもちあげる。そして、どんなに暑くても必ず着用している薄い生地のタートルネックを、勢いよく下げた。
「やだ、やめて——っ!!」
「……っ、ご覧ください! 何もありませんわ!!」
他の生徒たちにも見えるように、聖女様のうなじが晒される。彼女の、なめらかなうなじには何も存在していなかった。
「皆様、ご覧になったでしょう! この聖女様は異世界から来たというだけで、本当は聖女でも何でもないのです! なのに、これまで自分は聖女だと嘘を付き、わたくし達を騙していたのですわ!!」
周りの生徒たちが、ざわざわする。
うなだれる聖女様が、ガクリと膝を落とし床にへたり込んだ。
「あなたには、然るべき処罰が待っているでしょう。聖女を偽った罪としてね」
「それと、慰謝料も払ってもらいますから!」
「貴方のせいで婚約破棄になったのだから、当然ですわよね!」
無言で座り込んでいた聖女様が、床につっぷして大声で泣き始める。
「ぅっ……うぅ……うわああああああん!! ひどい!! ひどいわぁ!! なんで私がこんな目に遭わなくちゃいけないのよぉ!! 私は本物の聖女なんだからぁ!! みんな最低だわ! 大っ嫌いよ!! うわああああん!!」
その場にいた被害者である女子生徒たちが、互いに目を合わせると首を左右に振る。
「よく、これまでバレませんでしたわね……」
「例えお飾りの聖女でも、居ないよりも居たほうが良いという上の判断だったのでは……?」
「どうしようもないですわねぇ……」
誰かが呟いたあと、泣き喚く聖女様の声だけが辺りに響いていた。
私は小さく息を吐くと、首をゆっくりと撫でてから自分の教室へと戻って行った。
――その後。
聖女様は、ニセ聖女だったことが国中に知れ渡ってしまった。国民を裏切り、多額の借金も背負うことになった聖女様は学園を辞めた今、炭鉱に居るとだとか娼館に居るだとか、いろんな噂を耳にする。
こうして、聖女様のざまぁ劇は幕を閉じました。
◇
「な、なあ……アネット」
聖女様が学園を去ってから、数日後。
私は元婚約者のザックに声をかけられる。
「……なにか、ご用ですか?」
「お、俺さ、騙されてたんだ……あのニセ聖女に。……分かってくれるよな? 君は、俺の婚約者だもんな?」
は? なに、今更。人のことさんざん見下しといて、本気の恋がなんたらとか気持ち悪いこと言ってたくせに。
「いいえ。もう婚約は解消されましたよね? 私たちは、赤の他人なので関わらないでもらえます?」
「そ、そんなこと言わないでくれよ! 気の迷いだったんだよ。なぁ、また君のことを婚約者にしてやるから! 嬉しいだろ? ……ああそうだ! そもそも、君は平民出の養子じゃないか! 他に誰が、受け入れてくれると思う? なぁ? むしろ、俺に感謝すべきなんだよ! はぁ~本当に平民はなぁ。頭の出来が悪くて、すぐ感情的になるんだから、嫌になるよ! ほら、アネット。早く撤回しな? 今なら許してやるから!」
ザックの必死な様に、呆れてしまう。ごちゃごちゃと煩い人だな。平民? 頭の出来? 人のことバカにしすぎでしょ。それを分かってて、婚約したくせに。よくこんな、失礼なことが言えたものだ。
「嬉しいわけないでしょう? 感謝って……ふざけるのも大概にしてもらえますか? あなたと婚約なんて、二度とごめんです。というか、真実の愛だったのでは? 真実ならニセ聖女でも、浮気されまくってても、その愛とやらを貫いたらどうなんです?」
「そ、それは……」
「――心底不快なので、もう二度と私に声を掛けないでください。さようなら」
「あっ、アネット!? ちょっ、待って、アネット!!」
大きな声で人の名前を叫ばないでほしい……。
私はため息を吐くと、ザックを無視して歩き出すのだった。
◇◇
「めでたし、めでたし……なんて思ってる?」
突然降って来た言葉に、驚いて顔を上げる。
「…………は?」
「随分と探したよ、〝聖女さま〟」
さらりと流れる金色の髪に、神秘的な紫色の瞳。柔和な顔立ちに爽やかな雰囲気のその方は……。
「……ろ、ロイ……様?」
この国の第一王子である、ロイ・アストリア様だった。
「君でしょ、本物の聖女さまって?」
彼の言葉に、私はひくりと口角を震わせる。
「な、何の話ですか……?」
「何もかも話してくれたよ、叔父上と宮廷魔術師たちが。まあ、正確には口を割らせたんだけどね」
にこりと目を細めるロイ様から、私は距離を取って押し黙る。
「……っ」
「例のニセ聖女様が召喚された数日後に、君が召喚されたんだってね?」
……どうしよう……本当に全部知ってるんだ、この人……。
「当時、筆頭魔術師である王弟の叔父と高位魔術師たちは、召喚に応じた少女に聖女の証があるのかを確認しないまま、彼女を聖女として祀り上げた」
口を開かない私を気にすることなく、王子は話を続ける。
「何故うなじを確認しなかったのかの問いに、召喚された彼女に〝貴方が聖女か〟と尋ねたら不思議そうな表情をしたあと〝ええ、そうよ。私が聖女よ〟と笑顔で答えたらしい。おまけに見目も良いからという、非常にくだらない返事をいただいたよ」
うわぁ……そうだったんだ……。さすがに、私もその辺のことは全く知らない。
多分、あのニセ聖女さまのことだから、自分は特別な存在なんだと、舞い上がって言っちゃったんだろうなぁ……と想像できてしまう。
「聖女として迎えた彼女のお披露目パレードが行われた翌日に、消し忘れた魔法陣から君が現れて、それはそれは大慌てだったとか」
「……っ……」
あの時のことを思い出して、息を吐く。勝手に人のことを全く知らない世界に喚び出しといて、ぎゃあぎゃあ叫びながら人のうなじを確認したかと思うと、驚愕したり大声を上げたり絶望したり……本当に、散々だった。
とはいえ、宝石に関しては私も驚いたけど。こんなの、この世界に来るまではなかったし。
そんなことを思いながら、うなじにある青い宝石に軽く触れる。
「それで、君のうなじを確認すると聖女の証があったと——。だが、既にニセ聖女こそが本物の聖女だと民衆にまで知らしめていた。ここで、間違っていましたなんて、到底言えるわけがないからね」
そりゃそうだ。言えるわけないよね。そもそも、目視できる聖女の証の確認すら怠るなんて、怠慢以外の何でもない。
そんな国家の恥を、世間に知られるなんてこと、あってはならないだろうし。
とはいえ、私にとっては知ったことじゃないけど。
「焦った彼らは、密かに君を葬ろうとした。けれど、一人の魔術師が君を助けたそうだね。その魔術師の伝手で子供のいない伯爵家に引き取られて、今は当たり障りのない穏やかな生活を送っている——合ってる?」
柔和な笑みを見せるロイ様。
まあ、今更何を言ってもバレてるなら、どうでもいいか。
大きく息を吐くと、私はようやく口を開いた。
「……ええ。合っていますよ。確かに今は比較的穏やかな每日ですかね。ここに来たばかりのときは、殺されそうになりましたし?」
私はわざと嫌味たらしく言うが、王子様は気にすることなく静かに私の言葉に耳を傾ける。
「ありがたいことに言葉も通じますし、学校にも通わせてもらえて、衣食住にも困っていません。養父母たちは温厚な常識人で感謝してますよ、実際」
ここで言葉を切って息を吐く。
視線を外して辺りを見回すと、揺れている花たちが目に入る。ベンチで寛ぐ生徒に、談笑している先生たち。柔らかな風、微睡んだ空気。青い空に、流れ行く雲——穏やかな日常。
(……私は、これを失うのだろうか)
うなじの宝石をゆっくりと撫でて、肩を落としながら王子様に問いかける。
「……それで? 私はどうなるんですか?」
ああ、嫌だなぁ。ニセ聖女さまには思うところはあったけど、聖女の役目もザックも持って行ってくれて、物言いや態度には腹が立ってたけど、ある意味で感謝もしていた。
彼女のせいで殺されかけたのは事実だけど、心のどこかで、こんなわけの分からない世界で放り出されるくらいなら、いっそその方がマシくらいには思ってたし。
でも、あの魔術師のおじさんが助けてくれて……養父母も、凄くいい人たちで。ザックなんていう婚約者を充てがわれたこと以外は、心の底から感謝していた。実の両親たちよりも、ずっと尊敬できる心根の良い人たち。
(もう、あの人たちのところには、戻れないのかなぁ……)
私が視線を下げていると、カラリとした声が耳に入ってくる。
「——別にどうもしないよ? とはいえ、卒業後には、聖女の役職に就いてもわなくちゃいけないけど。特殊な存在だからね。国の結界を強固にしてもらうのが一番大事な役目かな。あと、各種祭典には出席してもらえると助かるよ。でも週休三日だし、もちろん有給もある。住む場所や食事もこっちで用意するし、城内の全ての場所に出入り自由。それどころか、国内の全ての場所を身分証なしで行き来することができるよ。税金も免除されるし、そこまで悪い条件ではないと思うんだけど」
ロイ様の言葉に唖然として、瞬きを繰り返す。
(……あ、あれ? 聖女って、そんな感じなの……?)
「た、確かに、悪くない条件ではありますが……」
「ああ、それと。ニセ聖女や叔父上、当時あの場にいた魔術師たちは、国外追放にしたから安心して?」
「……は?」
「あれ、国外追放じゃ足りなかった? やったことが、やったことだしね……。じゃあ、今から処刑にしても……」
「いやいやいや! 確かにムカつきますけど、そんなことしなくても! それよりも、私を助けてくれた魔術師のおじさんは!?」
「彼は、お咎めなしだよ。君を助けたことと、ニセ聖女が現れた際にも、唯一宝石について言及したらしいしね。まあ誰もが舞い上がっていて、話を聞きはしなかったそうだけど」
彼の言葉に、ほっと胸を撫で下ろす。あのとき助けてくれた魔術師のおじさんには、感謝しているのだ。
あの人だけが、必死に私を逃がそうとしてくれて……なんて言うか、凄く守られてる感じがして嬉しかった。あのあと、なんで助けてくれたのかと聞いたら、私と同じ年くらいの娘がいるのだと教えてくれたっけ。
私が安心していると、ロイ様が首をこてんと傾けて美しく微笑む。
「——てことで、君が今日から僕の婚約者だね」
「…………………………は?」
突然、わけの分からないことを言われて困惑する。彼の言葉が飲み込めなくて、眉根を寄せたあと、気持を落ち着けるように小さく息を吐く。
(…………こ、婚約? 今、婚約って言った? この王子様……?)
「本当は、あのニセ聖女さまと婚約の予定だったんだけどね。——でも、彼女ではなく君で良かったよ。よろしくね、聖女さま……いや、アネット・グレヴィさん」
「ま、待ってください。それは……」
困ります……という呟きに、ロイ様が紫水晶のような美しい目を、ゆっくりと猫のように細める。
蠱惑的な笑みを浮かべる彼に、私は何も言えずただ息を呑むことしかできないのであった——。
(婚約者を奪っていった聖女様のざまぁを見届けてただけなのに、なんでこんなことになっちゃうのよ!?)
◇その後◇
「そういえば、アネット嬢の聖女の証を見たことがなかったな。見せてくれない?」
——聖女だということがバレて、一ヶ月ほど経った頃。
今日はロイ様に招待を受けて、お城に来ていた。爽やかな風の吹く午後のバルコニーで彼とお茶をしていると、急にそんなことを言われたので、思わずしかめっ面になる。
「わぁ、嫌そうな顔。そんな表情も可愛いね♡」
何言ってんだ、この王子。正式に婚約してからというもの、彼はずっとこんな感じだ。
「僕に見せるのは嫌?」
手に持っていたカップを置くと、テーブルに頬杖を付きながら、とろりと目を細めるロイ様。
「嫌……というか、見せるようなものでもないというか……」
私はうなじにある宝石に触れながら、視線を逸らす。
「そっかぁ。人払いしてもダメ?」
絶対に引く気ないでしょ、この人。
ていうか、このやり取り面倒だな……。まあ減るものでもないし、祭典とかになったら、見えるような髪型と公装じゃなきゃいけないみたいだし……。
「……別に、いいですけど……」
私の返事にロイ様が表情を輝かせると、人払いをする。バルコニーから誰もいなくなると、彼が私の座っている椅子の後ろへと回り込んできた。
ため息を一つ落としてから、髪の毛を束ねて上に持ち上げると、私のうなじが晒される。
(……なんか、妙に緊張するな……)
「……これが、聖女の証。こんな、透き通った海のような青い色をしてるんだ……へぇ……」
ロイ様の指が宝石に触れ、ビクリと肩が揺れる。
「ちょっ! 触っていいなんて言ってませんけど!?」
「ああ、ごめん。つい。触っちゃダメかぁ……じゃあ、キスしてもいい?」
「もっとダメでしょ!?」
なに言ってんだ、この王子!? 綺麗な顔して、急にエグいこと言ってくるの怖すぎるんですけど……。
「君の婚約者なのに?」
「婚約者とか、関係あります?」
振り返りながらジト目で睨みつけると、ロイ様が楽しそうな笑い声を上げる。
「ふふっ。アネット嬢は、表情豊かだね。面白い」
「元婚約者には、能面とか感情が希薄とか言われましたけどね」
思い出して、乾いた笑いが漏れてしまう。
「ふぅん。その彼、何も分かってないね。きっと、つまらない男だったんじゃない?」
「それは、もう! だいたい、あの人——」
平穏な休日。
美味しいお茶とお菓子。
目の前には、私の愚痴を笑顔で聞いてくれる見目麗しい王子様。
聖女になんて絶対になりたくなかったし、王子様と婚約なんてありえないって思ってたけど、この時間は悪くない——そんなことを考えながら、私はこの穏やかな休日を過ごすのであった。
◇おわり◇




