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金融サスペンス小説『トリプルAの空売り』  作者: 如月妙美


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第四章 審判の日

小章① 告発

 金曜日の午前十時。  霞が関の株式取引等監視委員会(SESC)。  結城は、冴子と共に窓口を訪れていた。  担当官に、USBメモリと、冴子が作成した資金フローのチャート、そして結城自身が書き上げた詳細な告発状を提出する。

「……これは、相当な事案ですね」

 資料に目を通した担当官の顔色が変った。  日本を代表する格付け機関と、伝説の相場師による癒着。市場の公平性を根底から覆す大スキャンダルだ。

「すぐに調査に入ります。……結城さん、ご自身の身の安全も確保してください。相手は手段を選ばない連中です」

「覚悟の上です」

 結城はSESCを出た後、もう一つの手を打った。  大手経済新聞の社会部記者に連絡を取り、全ての情報をリークしたのだ。  公的機関の捜査は時間がかかる。その間に証拠隠滅されるのを防ぐため、世論に火をつける必要がある。


小章② 崩壊

 翌週の月曜日。  朝刊の一面トップに、衝撃的な見出しが躍った。

 『格付け操作疑惑 東都格付研究所に強制調査へ』  『大物相場師と癒着か 帝都重工株暴落で不正利益三百億円』

 金融街は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。  TCRの本社前にはテレビカメラが殺到し、黒田部長がハンカチで顔を隠しながら連行される姿が生中継された。  同時に、赤坂の鬼頭の自宅にも、東都地検特捜部の係官たちが踏み込んだ。

 テレビのニュースを見ながら、結城は自宅のアパートでコーヒーを飲んでいた。  画面の中で、鬼頭玄三が車椅子に乗ったまま、不敵な笑みを浮かべて連行されていく。  「新陳代謝だ」と彼は言っていた。だが、腐った部分として切除されたのは、彼自身だった。

 帝都重工の株価は、疑惑の発覚とともに急反発し、ストップ高となった。  市場は、TCRの格下げが不当なものだったと判断したのだ。  「トリプルA」の輝きは、傷ついたものの、完全には失われていなかった。


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