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プリンセスタ☆ステラローグ -女児向けアニメ大好きな一八歳の私が変身ヒロインになった話-  作者: みづき木積
第一章 春から大学生になる私が変身ヒロインですか?

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第一話

 金曜の夜は、多くの人々にとって幸せな時間だ。街を見てみればわかる。酔っ払ったスーツ姿のサラリーマン、いちゃつきはしゃぐカップル、まだ遊び足りそうな中高生、外食帰りの家族連れ――そんな明日のことなどお構いなしの人達が街にはあふれている。

 誕生日やクリスマス、春から大学新入生の私には存在しないけれど結婚記念日だとか、幸福の度合いでいったら飛び抜けて高い日が何日かはある。でも、それらはたいてい年に一回。金曜は毎週一回で、年間だと四八回もやって来る。

 お手軽に幸せを味わうなら金曜日はすばらしい。コンビニスイーツやプチプラだってお手軽だが悪くないし。

 夜でもコートのいらなくなった三月半ば、金曜日ももう残り二時間を切ったけれど、気分は最高だった。人生一八年間の数ある金曜日の中でも相当の部類だ。

 理由はほんの三〇分前まで観ていた映画――小学生の頃から大好きなアイドルアニメ『プラチナドリーミングス』の一〇周年を記念した劇場版のスペシャルエピソードだ。当時中学生だったヒロイン達も本作ではすっかり二二歳となり、過去の卒業式ライブの様子を振り返る。この卒業式ライブは今回はじめて描かれたものだ。成長したキャラクター達、曲も含めたライブシーン、作中に登場するアイテムや舞台まですべてが完璧だった。

 そう、ファンを完璧に喜ばせる作品だった。オープニングで懐かしさと期待に心が震え、エンディングではまわりの目も忘れてぼろぼろと泣いた。シアター内では私のほかにも鼻をすする声が聞こえてきた。一〇〇点満点で評価するなら、三五億二〇〇〇万点。感想を語っていたら間違いなく夜が明けてしまう。

 ショッピングモールに併設された映画館からバスに乗り、停留所で降りて家への帰り道を急いでいる。早くSNSでこの感動を共有したい。それに夜間女子の一人歩きは危険だ。

 本当にスキップしたいぐらいだった。近所の公園を通りがかったとき、ふと中に目をやった。街灯に照らされたベンチの上に、茶色いふわふわモコモコがあった。ネコか何か、にしては頭が大きい。鼻先が細長く伸びている。

「馬?」

 二頭身っぽいし二足歩行にも見える。ぬいぐるみにしては珍しい動物のチョイスだ。

 と思っていたら、ぬいぐるみと目が合った。こちらを向いた気がする。

 脳が興奮しすぎてついに幻覚まで現れるようになってしまったか。ベンチからすっと浮遊してこちらに近づいてきているように見える。馬にしては頭の上から伸びる両耳が長い。見た目は動物をモチーフにしたファンシーキャラみたいだ。

 しかも、遠近法とかでなく、サイズもでかい。自分にも経験があるからわかるが、保育園や小学校低学年の子だと抱きかかえるのも難しそうだ。

「ラクダ?」

 思わず出たつぶやきに返事があった。

「助けてキャル」

 ぬいぐるみがしゃべった、のも突然すぎて思考が追いついてこなかった。

 そのとき、ベンチの前にワニの顔をした人が現れた。暗いところから照明の下に移動したとかではなく、ワープや転移魔法のように一瞬で空間に出現したのだ。

「見つけたぜえ。チッ、夜のくせに光で照らしてんのか」

 このワニ人間は黒のライダースジャケットを着ていた。彼は盛り上がった横長の目元をぴくりと動かし、三日月のような細い瞳でこちらをにらんだ。

「女王が与えた星の力を渡してもらうぜえ」

「嫌キャル。悪いユルセナイヤ達には渡せないキャル」

 ぬいぐるみが身体を私の顔に押しつけてきた。モコモコしていて、晴れやかな日の草原をさわやかに吹き抜ける風のような不思議なにおいがした。

「教えてキャル。この星にプリンセスタはいるキャル?」

 両手でぬいぐるみの身体をつかみ、顔から引き離した。見た目よりも軽かったが、右手に映画館で買ったパンフレット入りのビニール袋を持っているのでバランスが悪い。

 ワニ人間が品のない笑い声を上げた。

「なら無理にでも渡してもらうしかねえなあ」

 少しずつ状況を理解しはじめた。自分以外は人間でないし、会話に出てくる言葉も意味がわからない。しかし、驚きながらも意外と冷静でいたのは、こんな光景に心当たりがあったからだと思う。

 ぬいぐるみが私の手の中でじたばた暴れた。

「早くキャル。プリンセスタの居場所はどこキャル」

 そして、私の手からぬいぐるみが抜け出ると同時に、パンフレット入りの袋もばさりと公園の地面に落ちた。

 ワニ人間が袋を拾い上げ、中をのぞき込む。

「なんだよ、紙切れじゃねえか。俺様は星の力を――」

 ただの紙でもないし、そのへんにありふれた冊子でもない。『プラチナドリーミングス』の映画パンフレット、おまけに豪華版だぞ。主演声優や監督へのインタビューに加えて、豪華版ではライブシーンで着用のドレスデザイン資料も掲載されている。全国の映画館では売り切れも続出、さっそくフリマサイトやSNSでは定価の二、三倍で転売されていた。幸運にも、私の行った映画館で残り数冊だったところをなんとか買うことができたのだ。

 嫌な予感がしていた。そして、その予感は的中した。

 ワニ人間は雑に袋ごとパンフレットを投げ捨てた。終わった。最高の金曜日が。土曜の零時を迎える前に。

 そのパンフレットには金額以上の価値があったのだ。家に帰ったら映画の余韻に浸りながら見るつもりだったのに。それを、あんな空き缶みたいに無関心に捨てて。これでは作品――私の大好きが冒瀆されている気がした。

 すごく腹が立つ。身体の奥が熱くなってきた。そのとき、胸のあたりがピンク色に輝いた。まるで光る何かを呑み込んだように体内から放たれていた。

 私もワニ人間も呆然としていた。ただ、ぬいぐるみはうれしそうに目をキラキラさせた。

「見つけたキャル! 伝説の戦士プリンセスタキャル」

 どこに持っていたのか、ぬいぐるみは丸っこいコンパクトを取り出し、私に手渡した。よく見ると、ケースは完全な円でなくカットしたジュエルのような一二角形で、金色の上蓋の中央にはローズピンクの石、それを取り囲むように複数の円が重ね合わさり幾何学的な模様を作り出していた。さらに円を区切るように何本もの直線と曲線が細かく引かれていて、これら全体に銀のラメがちりばめてあった。

 変身アイテムだ。そう直感した。

 上蓋はひとりでに開いた。ケースの中身はパウダーファンデーションだった。ぽわっとコンシーラーのブラシが出現し、魔法で操られているかのように勝手に動いて私の目元を整えた。それから、宙に浮かんだパフがケースのファンデを取ってとんとんと頬に押し広げる。続いて、グロスとネイルも塗られていく。

 私の身体と髪とはピンクの光に包まれている。後ろ髪が腰ほどの長さにまで伸びた。トップには大きなピンクのリボン、左側にパステルオレンジのシュシュで小さくワンサイドポニーを作り、残りは自然な感じで後ろに流していく。

 楽しいときの笑い声や悲しいときの涙のように、心の奥底から言葉が込み上げてきた。

「正義つかさどる高潔の星、プリンセスタ・リブラ‼」

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