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宿敵

 窓から窓ガラスを通して暖かい日差しが病室のベッドを照らす。そのベッドには壮年男が横たわっていた。顔色は悪いが、意識ははっきりとしている。

 彼の名はメンデルス。廃屋で追跡していた黒魔法使いの反撃にあい、生死の狭間をさまよっていた。後から来た白魔法使いたちの必死の応急処置と、運ばれてきてからの集中治療によって生きながらえたのだ。


 彼の横たわるベッドの横には二人の白魔法使いがいる。立ってメンデルスを心配そうに見下ろす、若く銀髪で顔の整った男が一人。近くの椅子に座って厳しい目でメンデルスを見つめる老女が一人。

 若い男がメンデルスに声を掛ける。

「本当に心配しました。ご無事で何よりです!神のご加護によるものか、奇跡的に急所を外れていたようです」

 その言葉を聞いて、老女が厳しく突っ込む。

「奇跡でも何でもないわ。相手の黒魔法使いの青剣の練度が甘かった。ただそれだけよ。本家本元のアクストリウスの青剣だったら、貴方はベッドでなく棺にいたはずよ!」

 飴と鞭を同時に喰らったメンデルスは、目元を笑顔で歪め、口元を申し訳なさで一文字にしている。

 若い男は少しおっかなそうな顔をして、老女を見下ろして言う。

「マリア様は本当に厳しいですね……」

 マリアと呼ばれた老女は、キリっとした目で若い男を見上げて、静かに刺すように言葉を紡ぐ。

「かつての魔王軍、そして王国軍との戦いで、多くの白魔法使いが黒魔法使いにやられた。私の師も友も、そのアクストリウスにやられた。どれだけ警戒してもし足りない。これだから今どきの若い者は……」

 そしてマリアの長い説教が始まった。メンデルスと若い男がうなだれながら、その説教を聞き続ける。


 そう、彼女は白魔法使い、マリア。

 50年前の舞踏会の事件で幼馴染であったクルスと共にアクストリウスと対峙していたあのマリアその人。

 その後の戦いでクルスを失い、魔王軍との戦い後の王国との再戦で、上官であり師であったレオルドンを失っている。

 それから彼女は打倒アクストリウスを心に刻み、一から自分を鍛錬し直した。

 そして彼女はランク7まで昇りつめる。


「しかし、青剣はアクストリウスの代名詞。アクストリウス以外にも使い手がいたんですね」

 説教のタイミングを見計らって、若い男が合いの手を入れた。メンデルスがすかさずそれを拾っていく。

「一瞬しか見えませんでしたが、使った黒魔法使いは……冴えない風貌をした若い男でした。封印されていた黒魔法使いとのことですが、マリア様は御存じでしょうか?」

 説教を割り込まれたマリアは少しだけメンデルスを睨んだ後で、目を瞑って記憶を探る。そして目を開いて話し始めた。

「50年前の我々との戦いで、爆裂魔法と召喚された巨大なワームで暴れ回っていた黒魔法使い。ランクは恐らく8。多分、舞踏会で爆裂魔法を使って戦争の火種を作ったアイツでしょうね……」

 そしてさらに記憶を掘り起こし、そのシワ顔に憤怒のシワが刻まれ始めた。

「エメリア様の恰好をして、適当なことを、随分と偉そうに私に説教をしてくれたわね、あの野郎!ちょうどいいわ。アクストリウスともども、あの世に送ってやる!」

 マリアの憤怒の圧に、若い男とメンデルスがたじろいだ。

 マリアが椅子から立ち上がる。最早80近いはずなのに、その足腰の動きには微塵も衰えが見られない。マリアがベッドで寝ているメンデルスを見下ろして、鋭い口調で刺すように言う。

「これから忙しくなるわ。人手がいる!メンデルスはさっさと傷を治しなさい!」

 そして若い男を見上げて言う。

「アレクシオス!アンタにとっても因縁の相手よ!その黒魔法使いを封印したのはアンタのおばあ様であるミリア様なんだから、その継承者であるアンタが始末をつけるのよ!」

 そう言われた若い男、アレクシオスは姿勢を整えて、真顔でその青い瞳をマリアに向けて誓うように言う。

「はい!祖父母の名に恥じぬよう、その任に当たります!」

 帝国の英雄であるアレクスとミリアの間に子供が生まれていた。彼はその子孫。英雄の孫。帝国で最も高名な白魔法使いの名を継ぐ者。


 因縁の相手もまた、動き始める!

 

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