新生魔王軍-1
「アクストリウスはわざわざ50年前の約束のために俺の封印を解いてくれた。封印されている間は本当に地獄だったから、解放してくれて本当に感謝しているよ!それだけでチャラだよ」
俺がアクストリウスを慰めるために言った言葉。これを聞いた瞬間、アクストリウスが一瞬だけ固まった。そして、否定するように首を振った。
「……違うのです。私が師を開放した本当の理由は、そうではありません」
そして俺の方を向いて、続ける。
「王国の時と同じです。私は、戦力を欲していました。この魔王軍の残党を束ねることが出来る、信頼できる人を。その時に思い浮かんだのが、師でした」
そしてアクストリウスはきっぱりと言う。
「悪魔の紹介の約束を守ろうとしたのは、その後でその提案をするためです。そうすれば師の性格からいって断り辛いだろう。そういった打算がありました!」
それを聞いた俺の中のモリガンが、怒ったように言う。
(アイツ、散々私の性格を馬鹿にしてくれたけど、自分だって大概じゃない!)
俺の中のドナルドが言う。
(でも、こうやって自分から言ってくれたよね)
俺の中のオルドが言う。
(それもまた一つの誘導だな。考えれば明らかになることを、予め公開することで信用を稼ぐ)
俺の中のミストが言う。
(黒魔法使いの言うことを信用するな、ってやつか)
俺の中のファンズが言う。
(アクストリウスはどう思う?)
俺の中のアクストリウスは答えない。まだフリーズしている。
俺は目の前のアクストリウスに聞いてみることにした。
「魔王軍の残党を集めて、どうするの?目にもの見せてやる、って言ってたけど?」
アクストリウスが一瞬だけ歯を食いしばり、車椅子を掴むその手に力が入った。その興奮を抑えて、アクストリウスが冷静な口調で言う。
「残党で新生魔王軍を起こします。それで魔族の現政権に不満を持つ勢力に取り入り、この国を乗っ取ります。その力でもってして、帝国に反旗を翻すのです!」
思っていたよりも壮大な計画だった。俺はアクストリウスを見つめる。
かつて王国の筆頭黒魔法使いであった彼は、今や車椅子でしか動けない。視力も失われ、その他の五感と召喚体のエアリスからの認識を使わないと状況を確認できない。よく見るとその肌も荒れ果てたように所々が爛れている。
(今の私で、それが出来るのだろうか?)
俺の中のアクストリウスがようやく呟くように言った。
俺の目の前にいる落日のアクストリウス。彼はもう何も言わなかった。ただ見えない目を俺に向け続ける。
ルシルフが俺を見上げながら、悲しそうに言う。
「アクストリウス様もこうおっしゃっています。お引き受け頂けないのでしょうか?」
それを聞いても俺は考え込んでいる。ルシルフがため息をついて、さらに続けた。
「仮に次の悪魔を見つけても、新規契約のためには多くの生贄が必要です。仮にこの新生魔王軍が失敗し、アクストリウス様が討たれたとしたら、貴方にチャンスが巡ってくる。そう考えてみれば悪い話ではないのでは?」
思わぬ提案に俺はルシルフを見下ろす。
「君はそれでもいいの?」
俺は思わず聞き返した。ルシルフは目深にかぶったフードに埋もれた顔をこちらに向けながら笑顔で答える。
「私たちはそれで構いません」
アクストリウスも答える。
「自分でも先は長くないと分かっています。その残り少ない人生を帝国との戦いに捧げるつもりです。ですので私は構いません。これは私の我が儘なのです。それでも改めてお頼みいたします。どうか私に力を貸して頂けないでしょうか?」
アクストリウスが車椅子に座ったまま、エアリスの力を借りて、頭を深々と下げた。
俺は腕を組んで地面を見つめながら、暫く考えた。
俺の中のドナルドが言う。
(帝国にいた時に、オズロ兄弟やアルガスには酷い目に合わされたよな……)
俺の中のファンズが言う。
(ミリアには封印されたし、帝国にはあんまりいい思い出がないな……)
俺の中のオルドが言う。
(ランク6の条件が満たせる機会はそうそうないぞ)
俺の中のモリガンが言う。
(黒魔法使いだったという魔王のことも気になるわね)
最後に俺の中のファンズが言った。
(それに、今のアクストリウス一人に戦わせるのか?)
俺は決めた。
俺は頭を上げてアクストリウスの方を見た。彼は頭を下げたままだった。
「分かった、協力するよ。俺も帝国には色々と酷い目に合わされたり、封印されたりしてムカついていたし。丁度いいや!」
俺の言葉を聞いて、アクストリウスはエアリスの力を借りて起き上がった。そして一瞬の間をおいて、震える声で言う。
「……ありがとうございます!」




