旧友-3
俺は目の前のアクストリウスに圧倒されていた。彼は別に声を荒げていたわけではない。ただ淡々と、今まであった事実を語っただけだ。
だが、そこに横たわる憎悪の輪郭に圧倒された。
俺の中のファンズが、俺の中のアクストリウスに声を掛ける。
(大丈夫?アクストリウス?)
俺の中のアクストリウスは黙ったままだ。
俺の中にいる人格たちは、俺が知っているその人の知識を元にした存在でしかない。俺が知らないことは、知らない。
現実のアクストリウスと俺の中のアクストリウスのギャップが浮き彫りになり、フリーズしてしまったようだ。
目の前のアクストリウスが再び話し始めた。
「50年前、師は私の約束を守ってくれました。遅くなりましたが、私も約束を守ろうと思います」
そう言うと、赤髪の召喚体の女性エアリスが、アクストリウスの車椅子を動かし始めた。アクストリウスが部屋に用意されていた魔法陣に向かう。
エアリスが魔法陣の方を向き、アクストリウスの手をその方向に誘導する。
俺とルシルフもその魔法陣の近くに向かって歩みを進める。
ルシルフが歩きながら俺を見上げて尋ねる。
「50年前の約束とは、なんだったのでしょうか?」
俺は腕を組みながら考える。俺の中のファンズが思い出した。
「アレだ。アクストリウスの悪魔を紹介してもらうって約束だった!」
アクストリウスが魔法陣の前に車椅子をすすめると、俺の方を向いて口元に笑顔を浮かべた。
そしてその魔法陣に向かって姿勢を正すと、悪魔召喚を始めた。
魔法陣の中央に、一人の男性が姿を現した。
銀色の髪に、緋色の目。タキシードを着こなしたイケメンの悪魔。
(なんとなく吸血鬼っぽいな……)
俺が悪魔を見て思ったのは、そんな感想だった。
アクストリウスが悪魔に向かって言う。
「師にお前を紹介したい。師にもついてもらえないだろうか?」
その言葉を聞いた悪魔は、俺の居る方向を向いた。そして暫く俺の方向を見つめて、考える素振りを見せる。
そして残念そうに口を開いた。
「申し訳ございません。その要望にお応えするのは難しいですね」
思わぬ反応にアクストリウスは言葉を失った。俺もこの展開は初めてだったので、悪魔に尋ねてみる。
「え?そんなことは初めて言われたんだけど、紹介されるのに何か条件とかあったりするの?」
悪魔は少し困ったような顔をして、俺の方を見て言う。
「ある意味では、そうかもしれませんね。貴方たちにルールがあるように、我々にもルールがあるのですよ。申し訳ありませんが、詳細は述べられません」
丁寧だが有無を言わせない物言いだった。アクストリウスが言葉を絞り出す。
「そう言わないでくれ。師との約束なんだ。何か代案などは無いのか?」
それを聞いた悪魔が腕を組み、あごを撫でながら答える。
「そう言った意味でしたら、恐らく心配ありません。代案は必要ありません」
話すことは話したと言わんばかりに、悪魔は魔法陣に滑り落ちるように消えていった。
俺とアクストリウスは暫くの間、無言だった。
俺の近くにいたルシルフが、俺を見上げて慰めるように言う。
「大丈夫ですよ。あの悪魔も代案は必要ないと言っていましたし……」
そしてアクストリウスの方にフードを被った顔を向けて続ける。
「アクストリウス様も気を落とさないで下さい。必要があれば悪魔の方から出向いてくる、とかですよ。きっと。多分……」
ルシルフが健気に俺たちを励ます。
俺もアクストリウスのフォローに向かう。
「俺は大丈夫だよ!アクストリウスが50年前の約束を果たそうとしてくれたそれだけで俺は嬉しいよ!悪魔の事は何とかなるよ!多分……」
俺たちのフォローが効いたのか、アクストリウスが動き始めた。包帯の巻かれた目の見えない顔を、済まなさそうに歪めながら俺たちに言う。
「師よ、本当に、大変申し訳ありません!まさかこんなことになるとは……」
俺とアクストリウスは暫くの間、謝罪とフォローを繰り返していた。




