坑道
朽ちて今にも折れそうな坑木が支える坑道。 湿気った空気がどんよりと肌に巻き付いてくる。薄暗く、水漏れによってじめじめしたその道を、俺たちは松明を片手に、カレイドの先導に従って進んでいく。
カレイドは鉱山ガスを確認するために時折足を止め、松明の炎の様子を見て、鼻で臭いを確認する。
その間に俺は隣のベルフェに尋ねる。
「この坑道ってどこに繋がっているの?」
歩き始めたカレイドに続いて歩き始めながら、ベルフェが説明をし始めた。
「ここはかつて魔王軍の鉱山でした。今は廃坑となっていますが、いくつかの坑道が帝国の隣の国へ抜けています」
魔王軍と聞いて、俺は思い出した。50年前は帝国と魔王軍が戦争をしていたという話だった。
「帝国と魔王軍の戦いってどうなったの?」
その俺の問いにベルフェは押し黙った。カレイドが振り返らずに歩きながら呟くように言う。
「魔王軍が負けました……」
ベルフェの話によると、50年前の帝国の英雄であるアレクスとミリアに魔王が討たれ、それが要因となって魔王軍が敗北したそうだ。それ以降、魔族の国は帝国に支配されているらしい。
「ミリアか……そう言えば魔王軍との戦い、とかなんとか言っていたな……」
俺は彼女に封印された時のことを思い出す。俺の中のファンズが忌々しそうに呟く。
「妙に忙しそうだったな。突然現れて、俺を拘束したかと思ったら、即封印しやがった。あんな奴、ドナルドが助けなければ良かったんだ」
それを聞いた俺の中のドナルドが口を尖らせて答える。
「いや、そんな20年後の事なんか分かるわけないじゃんか。あの時は気のいい女の子だったしさ。モリガンがミリアを攫ったのがそもそも悪いんだよ!」
今度は俺の中のモリガンが怒りだした。
「いや、貴方が契約の時に素直に生贄にしておけば良かったのよ!なんで私が生贄にされなきゃいけなかったの?」
ドナルドが面倒くさそうに答える。
「だってあの時のミリアとモリガンなら、まあそうなるでしょ!」
俺の中で論争が始まった。
「すみません。静かにしてもらえませんか?」
カレイドが正面を向いたまま、俺たちに言った。それを聞いた全員が、俺の中に戻った。
カレイドは警戒するように前を見ながら、剣を抜き始めた。それを見たベルフェも剣を抜く。
俺は小声でカレイドに聞く。
「誰か、居るの?」
どうやらフラグ回収の時間が来たようだ。カレイドが剣を指した先には、熊よりも大きい、牙をむき出しにした太った鬼のような生き物がいた。
「オーガです」
カレイドが小声で呟いた。
オーガが何かをリズミカルに呟いている。
「誰も居ない。何もいない。おらーこんな場所、いやだー」
そして鼻をひくつかせると、俺たちに目を向けた。そしてその獰猛な顔を嬉しそうに歪めながら呟く。
「み~つけた~」
カレイドが疲れた体に鞭を入れながら呟く。
「いつの間に入り込みやがった」
ベルフェも剣を抜きながら俺に警告する。
「戦闘準備をして下さい。オーガは一匹では動かない。何匹かいるはずです!」
俺たちを見たオーガはよだれを垂らしながら舌なめずりをして、こん棒を振り上げながら言う。
「夕飯、ゲットだぜ!」
それを聞いた俺は思わず叫んだ。
「え!?こいつら、俺らを喰うつもりなの?」
その叫び声を聞いたオーガの動きが止まった。カレイドとベルフェの動きも止まった。
それを見て、俺は不安になりながら言う。
「え、俺、なんか変なこと言った?」
オーガが振り上げたこん棒を下ろしながら俺を見て、頬を爪で掻きながら言う。
「アンタ、俺の言葉が分かるのか?」
カレイドとベルフェが少し不安そうにしながら、剣を抜いたまま俺とオーガと距離を取った。
オーガが先ほどとは打って変わって、フレンドリーな態度で俺に話し始める。
「アンタはなんで話せるんだ?」
それを聞いて、俺は魔の森でグリフォンのグリフと初めて会った時を思い出した。
「互いに意思疎通魔法が掛かっていると、魔物とも会話できるんだ」
俺の中のミストが言った。
俺は目の前のオーガに聞いてみる。
「君、なんか魔法とか掛けられてるの?」
それを聞いたオーガが、頭を掻きながら思い出すような素振りを見せる。そして暫くしてから呟いた。
「魔王様に、なんか掛けられた気がする」
俺の中のファンズが言う。
「魔王は黒魔法使いだったのかな?」
少し離れた場所からカレイドとベルフェがひそひそと話をしている。
「あの人、魔物と会話が出来るみたいですよ。まるで噂に聞く魔王様みたいだ……」
ベルフェがオーガと会話をしている男を見つめながら言った。
カレイドが腕を組み、顎に拳を当てて考えながら呟く。
「冴えない男かと思ったけど、ひょっとして凄いヤツだったのか?」
笑って談笑しているオーガと男を、二人は値踏みするように見つめた。




