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戦争-2

「キマイラだ!」

 兵士の悲鳴が戦場に響き渡る。獅子、山羊、蛇の三頭を持つ魔物が機敏に動き、帝国軍の前線に突っ込んできた。キマイラは動きが素早い上に、三頭六眼が周囲を警戒するので、隙が少ない。

 キマイラを正面に取った兵士たちが、槍衾を作って向かっていく。キマイラは突き出される槍をバックステップで回避すると、くるりと半転して獅子と尻尾の蛇を入れ替えた。その蛇が地を這って槍の下から潜り、一体の兵士に噛みついて引きずり出した。

 キマイラが再び半転する。兵士を加えた蛇はその遠心力のままに、咥えた兵士を槍を構えていた集団に向けて、勢いのままブン投げた。

「うわぁぁ!」

 人間砲弾を喰らった兵士たちの槍衾が解けてしまう。その隙間を逃さず、キマイラが四肢を躍動させて、集団に突っ込んでいく。かぎ爪が唸りを上げて兵士を切り裂き、蛇がその体躯のままに複数の兵士を絞め殺していく。山羊は背中から辺りを見渡し、弓矢などを警戒する。

 崩れていく集団の中、ある兵士が無我夢中で突き出した槍が、突っ込んできた獅子の目を捉えた。

「やった!」

 その兵士の言葉はそれが最後になった。すぐさま繰り出された獅子のカギ爪の反撃をモロに喰らい、そのまま絶命していく。

 

 召喚体となったキマイラは、野生の個体とは違い、目を潰された程度では怯まない。自我の無い、自らを省みない、生物兵器だ。

 

 再び集まった兵士たちが槍を構え、キマイラを迎え撃つ体勢を取った。その兵士たちに向かって突進していた正面のキマイラが、突如としてブレーキをかけて動きを止める。その瞬間、兵士たちの右手から別のキマイラが跳躍して集団に飛び掛かって来た。

 槍を正面に突き出した構えなおしが効かない兵士の集団は、右手のキマイラの内側への侵入を許してしまう。その勢いで正面の槍衾が崩れてしまった。

 その隙を逃さず正面から跳躍してきたキマイラが、兵士の集団へ侵入していく。

 帝国軍の前線が崩壊し始めていた。


 マリアが前線へと到着する。連れて来た白魔法使いが障壁魔法で壁を作りつつ、ランクの違う白魔法使いがキマイラに解呪を撃っていく。ランク10辺りから解呪の効く個体が出て来た。これを見てマリアが逆に渋い顔をする。

(ランク11の黒魔法使いにキマイラの脊柱が与えられているのか……)

 キマイラの脊柱はレアなので、こういった戦争であれば、通常は高位の黒魔法使いに与えられる。それが比較的低位の黒魔法使いにも与えらえているという事は、キマイラの個体数が多いことを示している。

「解呪したキマイラの脊柱は必ず確保しろ!」

 マリアが指示を下す。回収されて再度召喚に使われると意味がないからだ。

 

 マリアも剣を抜き、キマイラに向かって解呪を打ちながら前に出て行く。白魔法使いの出現を感知した黒魔法使いたちが、キマイラを前線から引き始めた。その替わりに王国軍の兵士が前線を押し上げ始める。

 白魔法使いたちは防御障壁で弓矢を防ぎながら、後ろから追加される予備兵と、崩壊した前線の退却の間を埋める。兵士の入れ替わがあらかた終わったら、マリア達も後退し、今度は怪我人の回復に向かうこととなる。

 マリアが防御障壁を張りながら、レオルドンたちの方を向く。

(レオルドン様の戦線はどうなっているのだろうか?)


 レオルドンが閃光で目くらましをしながら、光弾で王国軍の体勢を崩していく。槍衾が崩れたところを、強化魔法で強化した跳躍のままに突っ込んでいった。着地と同時に魔法で作り出した大槌を振り回して、周りの兵士を鎧の上から叩き潰していく。

 無事だった兵士が剣を振りかぶってレオルドンに切りかかるも、薄く纏っている防御障壁で弾かれる。レオルドンが切りかかって来た兵士をギロリと睨み、剣を握っているその手を掴む。そしてそのまま握りつぶした。

「うぎゃぁぁぁ!!!」

 いきなり両手を失った兵士が腰を抜かしてその場に尻もちをついた。周りの王国兵が引いていく。両手を失った兵士も這いつくばって逃げようとした。だがその頭上に大きな影が現われる。キマイラだ。その兵士は跳んできた味方のキマイラに踏みつぶされた。

 

 キマイラの獅子が、獅子の獣人であるレオルドンを見下ろす。レオルドンは無表情でその獅子の頭を見つめる。

 キマイラが前腕を振りかざして、レオルドンに襲い掛かる。が、レオルドンは動じない。

 肩に背負っていた大槌を変形して更に巨大な大槌を作り出す。それを大きく振りかぶると、キマイラの獅子の頭めがけてその大槌を振り下ろした。

 頭に叩き込まれた大槌は、その頭蓋骨を砕き中身を弾き飛ばす。キマイラの獅子の顔は瞬時に肉塊へと変貌した。

 レオルドンはピクピクしているキマイラから大槌を引き、胴体についている山羊も、尾の蛇も、更に念入りに叩き潰していく。キマイラは脊柱ごと粉々になった。

 レオルドンはキマイラの遺体から大槌を引き抜き振りかぶる。大槌に着いた血糊が飛び散る。それを見た王国兵たちは、引きつった顔をしながら後ろに下がった。

 通常、白魔法使いは前線に常駐しない。だが彼は例外だった。

 ランク7、聖獣、レオルドン。このクラスになると、三竦みの相性で図るレベルでは無くなってくる。


 大槌を振りかぶったレオルドンに、高速の針が飛んできた。それを察知したレオルドンは、針の当たる瞬間に防御障壁を部分的に強化してそれを防ぐ。

「やあ!レオルドン。久しぶり。今日も元気そうだね!」

 戦場に似つかわしくない、爽やかな声が響き渡る。アクストリウスが二人の美女を引き連れて戦場に立つ。一人は赤髪の美女エアリス。もう一人は金髪の美女ヴェロニカ。いずれも召喚体だ。

 レオルドンは何も言わずに、エアリスに向けて解呪を放つ。が、成功しない。それをみたアクストリウスがあざ笑うかのように言う。

「やれやれ、無礼な男だな。会うなり女性に手を出すなんて、紳士の風上にも置けない」

 レオルドンはアクストリウスの小言を無視して考える。

(前回のエメリア様の召喚体は解呪が出来た。今回は失敗した。どういう事だ?)

 無視されているにも関わらず、アクストリウスが青い炎を出しながら、レオルドンに言う。

「さて、前回は舞踏会を途中退場してくれたね。今日はその続きと行こうか?」

 レオルドンがようやくアクストリウスに答える。

「悪いが、踊るのは苦手でね」

 そう言って新しく大槌と大盾を作り出し、アクストリウスに向かう。

「だったら舞踏会なんかに来るなよな……」

 アクストリウスは割と本気で言いながら、エアリスとヴェロニカを繰る。

 通常、黒魔法使いは前線の召喚体に同行しない。だが、彼は例外だった。

 ランク7、青剣、アクストリウス。このクラスになると、三竦みの相性で図るレベルでは無くなってくる。

 

 レオルドンとアクストリウス。例外同士の同格。それ故に、彼らは今までも戦場で例外的な戦いを繰り広げて来た。

 そして今日も、その戦いが始まる!

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