戦争-1
王国と帝国の関係は、舞踏会の事件を契機に、一気に悪化していったようだ。アクストリウスは事件のあらましの説明やら、その対応。結果として避けられたなくなるであろう戦争への準備で忙しくなっていった。
夜になるとアクストリウスはぐったりしたように帰ってくる。寝室で何をしているのかは知らない。
俺は王宮の客人用の別室を割り当てられて、そこに住んでいた。ダズには「理由があって娼館運営は出来なくなった。スマン」と言ったような内容の手紙を送ってある。元々王宮魔法使いに会うまでと言う約束だったし、稼ぎのほとんどはダズに行っていたはずだ。俺の良心は特に咎めていない。
俺も戦争に参加することとなったので、作戦会議やら軍部との打ち合わせに参加している。元の顔で参加するのは危険なので、整形で少しだけ顔を弄っている。アクストリウスからは「どうせなら美女に変身してくださいよ」とか言われたが、それはガン無視した。
俺もアクストリウスに倣って多重召喚の練習をする。黒魔法使いの脊柱はアクストリウスに借りた。「男の脊柱であればいくらでもお使い下さい」とのことだったので、遠慮なく使う。とは言え高ランクの黒魔法使いの脊柱は数が少ない。ランク8はエアリスともう一人の女性ヴェロニカのみ。ランク9もモリガンしかいない。元々はハーレムのために研究されていたので、今まで確保されていなかったようだ。
俺はちょくちょく魔の森に転送魔法で帰還して、キマイラを狩る。数を揃えれば脅威になるはずだからだ。森の主が居なくなってから繁殖しまくっていたので、丁度いいだろうと思い、片っ端から狩りまくった。
そして魔の森の集落跡で多重召喚の練習をしながら、オルドの言葉を思い出す。
変に小細工を考えるよりも、惜しみなく寿命を突っ込んだ方が良い。
多重召喚は俺向きかもしれないな……と思いつつ、相手が白魔法使いであることを考える。変に数を増やしても解呪されやすくなるだけだろう。
俺は召喚編成を考えながら、黒魔法の特性の調査も進める。アクストリウスやオルドが黒魔法の特殊な仕様を見つけたように、俺にも何かが見つけられるかもしれない。
そうやって城と魔の森を行き来しながら、必要な準備を進めていく。戦争のための……
時間はどんどん過ぎていく。避けられない戦争が、ブレーキの壊れた列車のように近づいて来た……
「帝国軍が国境近くまで進軍してきました!」
俺とアクストリウスが参加していていた会議室に、兵士が緊急の報告に来た。
「攻め込んでくる予兆は?」
会議に参加していた将軍の問いに、兵士が沈痛な表情で答える。
「軍団の背後に多くの補給部隊の存在が確認されています……」
それを聞いた将軍がしかめっ面をしながらアクストリウスの方を向いて言う。
「宣戦布告と同時に攻め込んで来ると思われます。我々も打ち合わせた場所に向かいましょう!」
アクストリウスが頷く。そして俺の方を向いて言う。
「ここからは別行動になります。ご武運を!」
俺もアクストリウスを見つめて言う。
「そちらも頑張って!」
そう言って拳を合わせると、俺たちは別々の魔法陣に向かう。そして何人かを連れて、別々の拠点に転送魔法で跳んだ。
「王国軍が拠点から展開してきました!キマイラが居ます。恐らく召喚体。それも……数が多い!軽く見積もっても20体は居ます!」
帝国軍の後方の陣幕に居るレオルドンは、椅子に座りながら兵士からの報告を聞く。近くにいたマリアをそれを聞いて顔をしかめて呟く。
「20体!そんなに居るのか……」
数体なら兵士に任せても大丈夫なのだが、それだけの数が揃うと白魔法使いが対応しないと被害が大きくなる。
レオルドンが兵士に聞く。
「もう1つの南側の拠点はどうだ?」
帝国軍は軍を北側と南側の2つに分け、二方面のルートから攻め込んでいる。報告係の兵士が答える。
「そちらにもキマイラが散見されます。こちらは5体ほどでしょうか。この拠点にはそれほど軍自体が配置されていないようです」
それを聞いてレオルドンが考える。マリアが呟くように言う。
「あからさま過ぎて、誘われているような気がします……」
魔王軍と交戦中の帝国軍には、それほど白魔法使いが居ない。レオルドンがランク7、マリアがランク9。ランク10以下はそこそこ居ると言う状態だ。
(クルスが生きていれば……)
マリアが悔しそうに地面を見る。クルスもランク9だった。この場に居れば戦力になっていただろう。
レオルドンが別の兵士の報告を聞いてから、決定した。
「よし、我々はこのまま北側に向かう!」
そう言って、レオルドンが席を立つ。
前線へ向かうレオルドンにマリアも御供する。
交戦が始まる……




