召喚の極意-1
「しかし本当にエメリアそっくりだね。整形魔法でここまで似せるのは大変なはずだ。先ほどの演技もそうだけど、よほど近しい関係者だったのかな?」
アクストリウスは俺をまじまじと見ながら言う。その手には短剣が握られていた。その短剣の先端が、俺の顔近くに近づけられる。俺はそれをのぞけるように避ける。その光景をみて、アクストリウスが嬉しそうな表情になる。
(凄いドSだな。この人)
アクストリウスを見ながら俺が内心で呟く。アクストリウスは短剣を俺の顔から胸元に向けなおすと、胸の谷間辺りのドレスに切れ目を入れた。そして服を開いた先を見つめながら、考えるように言う。
「彼女のここにはホクロがあるはずだ。だが君の身体にはない……」
そして再び俺の顔を見つめる。
「顔の造形にここまで気を遣う者が、この位置のホクロに気がつかないわけがない。つまり知らなかったという事だろう。君はエメリアに近しい人間だが、恋人とかではない。ただ彼女に異様に執着してその顔をガン見していた部下あたり、かな?」
俺は驚いた。俺のモリガンの変身の監修はダズだが、それで大体合っている。
(この人、キモイけど凄い!凄い洞察力だけど、キモイ!)
アクストリウスは首を振りながら呟く。
「いやーしかしこれほどまでに彼女に執着していたのに、ガン見することしか出来なかったなんて……可哀そうに、凄く惨めだっただろう」
同情しているのか馬鹿にしているのか、良く分からない。どちらにせよ監修はダズなので、俺は特に何とも思わない。
アクストリウスは再び短剣の切っ先を俺の顔に向けて言う。
「さて、少々惜しい気もするが、そろそろ変身を解いてもらおうか?」
俺は嫌な顔をしてアクストリウスを見つめる。アクストリウスは嬉しそうな顔をして続ける。
「解かないなら解かないで、別に良いけどね。痛がるエメリアの反応は召喚体で見られないから、それはそれで都合がいい」
俺は観念して、変身を解いた。整体魔法も解いたので、戻った体にドレスが食い込んで痛い。そんな俺の顔を見つめて、アクストリウスが呟く始めた。
「この顔……どこかで見たことがあるような……どこだったっけな……」
そして思い出したような顔をして、俺を見つめて言う。
「貴方はもしかして、ドナルド師ではありませんか?」
変身を解いた俺の顔を見つめていた変態が、なぜか敬語を使いだした。
宮中に連行されていくファンズを、物陰から除いている大男がいる。ダズだ。
「モリガン……」
ダズには何も出来ない。その手は強く握りしめられていた。
俺は宮中の一室に連行された。見た感じは豪華な私室と言った感じだ。監獄のような場所に連行されると思ったので、これは意外だった。
アクストリウスが振り向いて、俺の後方に向かって言う。
「エアリス、拘束を解いてあげてくれ。そして替わりの服を用意して持ってくれないか?」
俺を拘束していた魔法が解けた。俺を抱きしめていた腕が離れて、その主がクローゼットに向かう。アクストリウスは俺の方向を向くと、何故かお辞儀を始めた。
「立場上、あの場で拘束を解くわけにはいきませんでした。ドナルド師、ご無礼をお許しください」
俺は訳が分からない。
「初対面、ですよね?」
アクストリウスが顔を上げて俺を見つめる。その表情はやけにキラキラしていた。
「ええ、初対面です。ですが、貴方は私の心の師なのです」
そう言って、変態が語り始めた。
エメリア、裏社会ではモリガンと呼ばれていた女。そしてその美貌で有名であった女。その女の突然の死は、彼女の美貌を知る者にとっては衝撃でした。皆が思いました。なんという、勿体ないことを……、と。
私は事件について調べ始めました。そして、知ったのです。犯人によって、エメリアが召喚体として利用されていたと……
確かに人の脊柱を使って召喚出来ると言うこと自体は知られていました。しかし、それを美貌で知られたエメリアに使うという発想はありませんでした。
彼女はその美貌で有名でしたが、それ以上に性格の悪さも有名でした。しかし、召喚してしまえば、それも問題なくなるのです。
これは画期的でした。あなたの行為は、私にインスピレーションを与えたのです。
私は召喚魔法の独自研究を進めました。それによって召喚魔法を極めることが出来たのです!
語り終えた変態は、ビシリと俺を指さした。
「私に多大なるインスピレーションをお与えになったドナルド様。なので貴方は、私の心の師なのです!」
俺は目の前のイケメンを見つめる。
(あのむさ苦しいダズとまるで同じことを言っている。この人、ダズの上位互換だ……)
俺は過去最高に残念なイケメンを、感情の無い目で見つめた。




