聖獣
「クルス……」
戦闘中にもかからず、マリアの目から涙が流れ始めた。彼はマリアと共に孤児院で育った仲間だったのだ。涙が止まらない。だが、剣は放さない。
アクストリウスはそんなマリアを見つめて、それとなく言う。
「こうしてみると、君も結構美人だね。僕、白魔法使いの脊柱は持っていないんだ。丁度いいや。君のを貰って行こうかな」
そう言ってアクストリウスはその顔に笑顔を浮かべながら、マリアの方向へ歩みを進めていく。
「ヒッ!」
思わずマリアから小さな悲鳴が上がった。マリアの顔が恐怖と涙でぐしゃぐしゃになる。そして意図せずに踵が後ろに下がって行く。
距離を詰めていったアクストリウスの歩みが止まった。
「誰の警護なのか気になっていたけど、君がここに居たのか。君に警護とか要らないだろう?」
アクストリウスはマリア、いやマリアの後方に向かって言う。後ろに下がったマリアの背中に、何かが当たった。
「それ以上下がるんじゃない。戦う前から負けるのだけは、いけない!」
太い声がマリアの後方から聞こえる。マリアは袖で涙を拭った。
「……ハイ!」
マリアはその声の主に答える。
「相変わらず暑苦しい男だね。聖獣、レオルドン」
アクストリウスはその声の主に向かって言った。そこには白い法着を着た、白い獅子のような大柄な獣人が居た。
「暫く見ないうちに随分と下劣な男になったな、アクストリウス!以前はもう少しマシな男だったはずだ」
レオルドンが不快そうな顔を隠さずに、アクストリウスを睨む。
「まあ、三日会わざれば刮目して見よ!って言うじゃんか!人は変わるんだよ。君はあんまり変わって無さそうだけどね!」
アクストリウスは飄々として答える。だが目線は切らない。レオルドンは同格の魔法使いなので、油断しない。
レオルドンも目線を切らずに、アクストリウスに言う。
「爆裂魔法の音がしたと思ったら、クルスが殺されている。貴殿は一体どういうつもりだ?」
アクストリウスが答える。
「それは、不幸な事故ってやつだよ。赤の他人が爆裂魔法を使って、それを僕らの仕業だと勘違いした君の部下が僕に切りかかって来たから、やむ得ずってやつだ。僕だって本位じゃない。良かったら、これで手打ちにしないか?」
レオルドンはますます不快そうな顔をする。
「貴殿の腕であれば殺すまでもなかったはずだ。本位でないと言っておきながら……わざと殺したな!」
レオルドンの言葉に、アクストリウスがうんざりしたような顔をしながら答える。
「本当に、君は見かけの割には察しが良くて嫌になるよ。だって、これ、もう無理でしょ。だったら今のうちに数を減らした方が得だよね」
そう言いながら、アクストリウスが魔手に乗ったモリガンを繰る。レオルドンが魔法で大槌を作り出す。マリアが剣を構えなおす。
「貴殿に、見かけの割などとだけは、言われたくないな……」
最後に、レオルドンが言った。
突如として激しい閃光がアクストリウスを刺すように放たれる。アクストリウスはそれでも目をそらなさい。その光に紛れて、複数の光弾が飛んできた。アクストリウスは魔手を使ってそれを防ぐ。
その合間を縫って、大槌がアクストリウスの頭上に投げ込まれた。アクストリウスは光弾に突っ込んで大槌を回避しつつ、光弾を喰らってでも迎撃の体勢に移る。
目くらましの閃光が消え始めた。それと同時に、空を飛んでいたモリガンが、杖に戻って地面に落ちる。
杖の落ちたカラリという音だけがその場に残った。
レオルドンたちは、居なくなっていた。
辺りを見回したアクストリウスは警戒を解いて、頭を掻いた。
「本当に嫌だね、アイツ。脳筋っぽく見えるのに全然そんなことない。やりにくいなあ」
俺は一種で終わった戦闘を見つめて不思議に思った。
(何故かモリガンが杖に戻っていた。このままなら二対一だから有利なのに、なんで逃げたんだろう?)
その答えはすぐに分かった。周りの茂みから、何人もの女性が現れ始めた。全員、召喚体だ。
(どういうことだ?多重召喚を使っても、二体が限度のはずだ。何かカラクリがあるのか?)
そんなことを考えている俺に、アクストリウスが近づいて来た。
「さて、ようやく君の番だ。覚悟は出来ているんだろうな」
アクストリウスは笑顔で、だが笑っていない目で俺を見つめて言った。




