舞踏会-2
(モリガン、なぜここに?)
戸惑った俺は、暫くの間、そのモリガンをガン見した。そしてアクストリウスに目を向けた時に、思いっきり目線が交差した。アクストリウスの顔に驚きの表情が作られる。
(ちょっとヤバい……)
俺はそさくさとその場を立ち去った。
(考えられる可能性はいくつかある)
歩きながら俺は考える。
(1つは、モリガンの双子とか姉妹が居た。もう1つは、俺みたいにフルセットで変身している)
俺は足早に宮殿の片隅の、木と草むらが茂っている人気が無い場所に向かう。
(もう一つは……)
立ち止って考えている俺の後ろから、とても爽やかな男の声が聞こえて来た。
「おや?気のせいかと思ったんだが……」
俺はその声の主を振り返る。俺のモリガンの顔を見た、その男が答えを口にした。
「凄いな。本当に僕の召喚したエメリアにそっくりだ!」
(エメリア……確かモリガンが貴族として表舞台に居る時の名前!)
それを思い出しつつ、俺は召喚されたモリガンを見つめる。召喚されたモリガンは変身した俺を見つめる。違うのは服装だった。俺はセクシーな黒のドレスだが、相手は薄紫色の上品なドレスだ。そんな見つめ合っている俺たちモリガンを見て、アクストリウスが嬉しそうに話し始めた。
「エメリアの脊柱は僕が持っている。エメリアに姉妹は居ない。なので君は変身している黒魔法使いだ。フルセットで変身するには整形、整声、整体が必要なので、ランクはまあ9以上だろう?」
俺はモリガンからアクストリウスに目を移した。アクストリウスが得意げに推理の続きを披露していく。
「エメリアは表向き帝国貴族だったが、裏社会ではモリガンという名前の黒魔法使いだった。なので君はそちらの関係者かな?本当にエメリアそっくりだから、大分近い関係だったんだろうね?」
俺は感心した。彼の推理はほぼ合っている。俺と目の合ったアクストリウスは、得意げに軽く両の手のひらを上に上げた。イケメンなのもあいあまって、異様に様になっている。
そんなアクストリウスを見て、俺は自分の正体を明かすことにした。
「貴方が王国筆頭黒魔法使いのアクストリウス様ですね?俺の名前は……」
と言い始めた時点で、アクストリウスが手で俺を制し始めた。俺は喋るのを止める。その上からアクストリウスが話し始めた。
「おいおい、辞めてくれたまえ。せっかくのダブルエメリアを楽しみたいんだから、もう少し役割に成り切ってくれないかな?勿体ないじゃないか!」
イケメンの爽やかな声から繰り出されたキモイ提案に、俺はあっけに取られた。
(何だ……この人?)
イケメンにも関わらず、女性たちから嫌な物を見る目線を向けられていた理由が、何となく分かった気がする。俺は珍獣を見るような目で、そんなアクストリウスを見つめる。そんな俺の目を見て、アクストリウスは嬉しそうな顔をしていた。
俺は言葉に詰まった。何をどう話せばいいのか全然分からないからだ。アクストリウスは爽やかで期待に満ちた目で、そんな俺を見つめる。
(誰か……助けてくれ……)
そんな俺の心の声を汲み取ったかのように、背後から大きな男の声が聞こえて来た。
「いたぞ!エメリア様だ!やはりこの国に来ていたのか!」
その声を聞いて、俺は振り返る。俺たちの近くに二人組が駆け寄ってきた。
一人は若い男だ。ダズくらいの背の高さの男で、見た感じは騎士のように見える。先ほどの大声はこの男のようだ。もう一人は若い、整った顔をした女だ。こちらも騎士のような恰好に見える。
その駆け寄ってくる二人に対して、アクストリウスが声を出して制した。
「ハイ、ストップ!これ以上近づくのは辞めたまえ。舞踏会の客に帯刀して近づくなんて、無礼ではないかね?」
二人組はその声に応じて足を止めた。俺は少し離れた場所に居る、若い二人組を見る。確かに舞踏会の会場であるにも関わらず武装していた。アクストリウスが続ける。
「要人の警護という名目でここに入って来たのだろうが、流石にそこまでウロウロされても困るよ。これだから帝国の者は困る。それともアレかな?我が国の宮中など、帝国の庭同然、とでも言いたいのかね?」
アクストリウスが挑戦的な目で二人組を見つめ始めた。二人組も睨みつけるようにこちらを見つめる。
(え!?なに?この展開?)
俺は突如として修羅場に放り込まれた。




