舞踏会-1
そして舞踏会の日がやって来た。
俺たちは石造りの城の入り口で招待状の確認をして貰っている。手続きをしている間、モリガンとなった俺は他の参加客を眺めていた。
白、黒、青、紫、緑と言った艶やかな色。そして、手の込んだ刺繍。そういう高級そうな衣装に身を包んだ男女たち。種族も人間から、獣人など様々だ。
(なんか仮装パーティーみたいだな。まさか俺がこんな場所へ来ることになるとは……)
元の世界では縁の無かった光景を、俺は腕を組みながら眺める。そんな俺を、チラチラと舐めるように見る男の視線を感じる。俺はかつて見たモリガンが着ていたような、首筋から肩の頭まで剥きだしのセクシーな黒色のドレスを着せられることになったので、露出が大きい。俺は滅茶苦茶気まずい。
(よくこんな格好で人前に出ていたな、モリガン)
男と目が合うと、彼らは逃げるようにそさくさとその場を去って行く。モリガンの顔は恐ろしく美形なので、ある種の威圧感があるのだ。凡庸な顔で普段は舐められがちな俺にとっては新鮮な体験だった。
手続きを終えたダズが俺のところに戻って来た。
「意外と時間が掛かったわね」
俺はモリガンの口調をトレースして、ダズを見て言う。ダズはそんな俺を見つめて、暫く黙っていた。そして思い出したように言う。
「ああ、ちょっとな。とりあえずお偉いさんに挨拶をして、そこからは自由行動だ。後は王宮魔法使いを探すなりなんなりすればいい」
それを聞いた俺は、舞踏会の入り口へ向かう。その俺の隣を歩くダズは、どこか自慢げだ。歩きながら、ダズが言う。
「なあ……腕を組んで歩かないか?」
鳥肌の立った俺は、ダズを横目で睨みつけて一言だけ言う。
「ハアァ!?」
そんな俺を見て、ダズは妙に嬉しそうな顔をしている。俺は速攻で目を逸らして、正面を見た。
(さっさと終わらせたい……)
俺は心底、そう思った。
「では、そういう事で、今後とも御贔屓に……」
舞踏会の片隅で、俺とダズはここに招待してくれた貴族に挨拶をしていた。俺は娼館の女主人という事になっている。
中年の貴族は俺をガン見しながら尋ねる。
「貴方のようなお美しい方があの館にいらしたのですね?もしよろしければ、この後一曲、ご一緒頂けませんか?」
俺はギリギリで嫌な顔になるのを我慢した。そして笑顔で答える。
「申し訳ございません。私、踊りは上手くありませんので。貴方にご迷惑をお掛けしてしまいます」
実際の話、俺はダンスまでは履修出来ていない。その男は残念そうに立ち去った。流石に貴族なので、ガツガツせずにスマートだ。
立ち去って行く貴族を、ダズが嫉妬したような顔で見送る。そして貴族が立ち去った後で、ダズが俺を見て言う。
「良かったら、踊ろうぜ」
こっちは裏稼業の悪党なので、ガツガツ来る。俺はいい加減気持ち悪くなったので、無言でその場から立ち去った。
俺は舞踏会場の周りを歩きながら、王宮魔法使いを探す。
(確か男で、名前はアクストリウスだったはずだ……)
俺はそれらしき男を探す。とはいえ、人相を知らないので見ただけでは分からない。
(適当な誰かに聞いてみるか……)
そう思って、近くの女性に声を掛けてみようと思った、その時だった。
「アクストリウスだ……」
誰かがまさにその名を呟いた。俺はその声がした方を見つめる。そこには恐ろしく美形の男が居た。
高い身長に、均等の採れた体格。長い金髪に、整った顔立ち。鮮やかな青い、金刺繍の施されたスーツを完璧に着こなしている。
(すげーイケメンじゃん)
俺は思わず目を奪われた。周りを見ると、男からも羨望の視線が向かっている。女性からは……嫌なものを見るような目線が多い。これは意外だった。
(モテそうなのに、なんか意外な反応だな。なんでだろう?)
とりあえず近づてみようと思ったその時、俺はアクストリウスの近くに、同伴している女性に気がついた。
胸ほどの長さのプラチナブロンドの髪に、クリっとした灰色の瞳。鼻筋の通った高い鼻。ハリウッド女優みたいな威圧感のある美女。
(え!?モリガン!?なんで!?)
モリガンはアクストリウスと手を組んで、モリガンなら絶対にしなさそうな優しそうな笑顔を、その美貌に浮かべている。
モリガンに変身している俺は、俺そっくりのモリガンを見つけて唖然とした。




