娼館-3
俺たちの娼館運営は成功を収めたと言って良いだろう。やって来る顧客は商人から、大商人。たまに聖職者っぽい人。そして、貴族へとランクアップしていく。
そんな顧客の対応をするために、俺の召喚魔法の熟練度も上がって行く。
諸々の接待はもちろんの事、ピロートークやらも操作しなければならない。召喚体はそのままでも多少の受け答えは出来るが、死んでいるので自我などは残っていない。このレベルの対応には個別対応をする必要がある。しかも召喚する脊柱のキャラに合わせて、それを調整しなければならない。
今日はエレンディラ
今日はセラフィナ
今日はオフィーリア
今日はベアトリーチェ
……
その日その日で演じる女性が違う。俺はそのキャラになり切るつもりで、魔法陣を専用に作る。そして部屋の覗き穴を見ながら、場合によって手動で操作する。
(演じる相手の仮面を被る。なんかの少女漫画にあったな……)
俺は元の世界で母が持っていた漫画を思い出した。そんな俺の演じる女性に駄目出しするのは、ダズ先生だ。
「ベアトリーチェはもっと知的な会話をする設定だ。ファンズはもう少し教養というものをだな……」
大男のやたら細かい注文が続く。俺はうんざりした顔をしながら聞いていた。
そんなある日のこと……
「おい、ファンズ!とうとう来たぞ!」
ダズが魔法陣を管理している俺の部屋に駆け込んできた。
「来たって何が?今日の客は終わったんじゃないの?」
俺は振り向かずにダズへ返答する。そんな俺に、ダズが嬉しそうに言う。
「いやいや、そうじゃない。王宮の舞踏会への招待状が来たんだ!」
その言葉に驚いた俺は、ダズの方を振り向いて喜んで言う。
「え!本当に!?やっと来たのか!やった!」
野郎二人が王宮から来た舞踏会の招待状を喜ぶをいう、奇妙な光景がそこにあった。
「招待されているのは二人。俺と、最高の女を一人だ」
手紙を読んでいるダズに、俺は懸念を伝える。
「召喚体は魔法陣から遠くまでは行けない。この町の範囲くらいなら大丈夫だけど、流石に王都までは無理だ」
それを聞いて、ダズが答える。
「あーそうなのか……じゃあ、脊柱を向こうに持っていくか?」
ダズの提案に、俺は懸念を追加する。
「王都は広いから、全域はカバーしきれないかもしれない。それに、手動操作するにはある程度目視が必要だ」
俺の答えに、ダズが考え込んだ。
「俺がダズに変身して、向こうで召喚するとか?」
俺は整形、整声、整体のフルセットで他人に変身できる。俺よりも大きいダズであっても、成り代わることは可能だった。その俺の提案を聞いたダズが、何かを思いついた顔をして別の提案をした。
「それは良いな。だが、変身するのは俺じゃない。ファンズ、お前が女に化けろ!」
俺は変身用の魔法陣を描いている。
ダズの提案には滅茶苦茶抗議したのだが、
「顧客の対応は俺じゃないと駄目だ。お前は普段から女を操作しているから、女に変身した方がやりやすいだろう?」
と言う、合理的な理由に返す言葉が無かった。とは言え、この機会を逃したくは無い。ランク7の黒魔法使いは、この国では一人しかいないのだ。俺は渋々承知した。
俺は魔法陣の上に乗って変身する。そして適当な服を着ながら、近くのダズに声を掛けた。
「どうよ?」
ダズは俺の姿をガン見している。何も言葉を発しない。
「なんか言えよ!」
ボン、キュ、ボンの恐ろしくセクシーなプロポーションに、胸ほどの長さのプラチナブロンドの髪。クリっとした灰色の瞳に鼻筋の通った高い鼻。
闇ギルドの拠点リーダーをしていた女、モリガン。
そんなモリガンの姿で、俺はダズにもう一度言った。
最高の娼婦という指示に、ダズが思いついた女はモリガンだった。
「俺はそんなにモリガンの顔を覚えていないんだけど……」
変身はゲームのパラメータ調整みたいに、細かい調整しないと出来ない。俺のうろ覚えの記憶でモリガンになれる自信が無かった。そんな俺に、ダズが自信満々に答える。
「そこは任せろ!俺はモリガンをガン見し続けたから、完璧に覚えている!あの女……手を出せないからといって、クソ……」
手を握りしめて悔しがっているダズを、俺は何とも言えない目で見つめた。
ダズの変身への要望は多岐に渡った。
・モリガンの目はもう少し大きい
・目の間が広すぎる
・プラチナブロンドの髪はもう少し細い
・鼻が高すぎる
・胸の位置はもう少し上
・腰のくびれはもう少し深い
・尻にはもう少しハリがある
etc
(クッソ面倒くせーな)
そんなことを内心で思いながら微調整を続け、ようやくモリガンが完成したのだった。
無言で嘗め回すようにガン見するダズを、俺は睨みつけて言う。
「おい、気持ち悪いからそんな目で見るのはやめろ!マジで!」
そんな俺の言葉を聞いたダズが、目に涙を浮かべながら呟く。
「そうだよな……モリガンなら、そう言うよな……」
ダズが袖で涙を拭う。
俺はモリガンの顔を引きつらせながら、そんなダズを見つめていた。




