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 俺は旅にでる準備を始めた。森の抜けて帝国の隣にある王国へ向かうつもりだった。

 俺は使えそうなものをかき集めて、鞄に突っ込んでいく。水とか食料は必要ないので、着替えやら路銀やらだ。そろそろ冬に入る季節なので、厚着して行きたいところだ。

「さて、最後にグリフにでも会って行くかな……」

 オルドが死んでから、グリフは少し落ち込んでいたのだ。俺まで居なくなったら、更に落ち込むかもしれない。

「どうせならグリフを連れて行くか」

 魔物を連れて旅をする黒魔法使い。小説とかでありそうな展開で、俺は少し楽しくなった。


 いつもの集落の外れに来たが、グリフが見当たらない。

「アレ、おかしいな……いつもならここに居るのに」

 暫くここで待とうかな?そう思った時だった。

 

 ブィシャァー


 どこか聞きなれた音がする。俺は顔をその音の元に向ける。そこに居たのは、獅子、山羊、蛇の三頭を持つ魔物。キマイラだった。

 キマイラが俺を見据える。俺はキマイラを見据える。

 

 獅子の前足が地面を蹴ろうとする、その瞬間。俺は獄炎を放ち、獅子のたてがみに引火させた。突如として自分の背後で感じる熱量に、獅子が驚く。山羊がその火を自分の口で消そうとする。その隙に俺は油瓶を投げつけた。キマイラにぶつかった油瓶は割れ、文字通り火に油を注いでいく。キマイラの三頭はパニックになった。

 俺は魔手を召喚して、その手に乗る。そしてスライドするように近くにあった大岩の元へ高速で向かうと、その大岩に寿命を惜しまずに加速魔法を使って行く。目標は暴れているキマイラの胴体。直線方向の加速に加え、ひねりの回転を加えることで、貫通力と弾道安定性を高めていく。

 そして俺の寿命を全力で注ぎ込んだ岩石弾が発射された。


 キィィィィン!


 岩石弾は音速を越えて、キマイラに突っ込んでいく。それはキマイラの胴体をぶち抜き、巨大な風穴を開けた。ぶち抜いた岩石弾は森の奥に消えていく。

 キマイラは叫び声も上げずに、倒れた。


「やった!」

 俺は思わず呟いた。


 この世界に来てから俺を散々な目に合わせてくれた魔物、キマイラ

 俺を弄び、保存食にし、事あるごとに立ちふさがって来た、キマイラ

 この世界における、俺の壁


 そのキマイラを、とうとう倒したのだ!それも俺一人の手で!

「ウォォォォォォォォ!」

 俺は咆哮した。そして勝利のガッツポーズを決めた!



 俺はキマイラの死体に近づいて行く。

(せっかくだし、杖にでもしていこうかな)

 フレイヤの杖なんかを持ち歩く気にはならなかったので、それは置いて来た。モリガンがやっていたように、キマイラの杖なんかは良いかもしれない。

 そう思ってキマイラの死体に近づいて行った時に、俺は気がついた。

 奥でグリフが倒れている。

「おい!グリフ!大丈夫か?キマイラにやられたのか?」

 俺はグリフに駆け寄った。そして気がついた。

「グリフが、死んでいる……」


 俺はグリフの亡骸を見つめる。

 この森に入ってから、グリフとはずっと一緒だった。集落の住民と碌に話していなかった俺にとって、唯一の話相手だったのだ。友達だったのだ……

 俺は悲しみに浸りながら、グリフの墓を作ろうと思って亡骸を見た。そして、気がついた。

(外傷が無い?)

 キマイラにやられたのであれば、どこかに傷があるはずだ。だが、それが無い。俺は嫌な予感がして、グリフの身体を調べる。

 グリフの羽根が異様にボサボサだ。グリフが抜け羽根に悩んでいた時よりも、もっとボサボサになっている。


 まるで、老化が進んだように……

 

 俺は、悪魔と契約した時の言葉を思い出した。


 集落に属するモノ、その全ての命と引き換えであれば


 集落に属するモノ

 

 モノ


 俺は気がついた。俺が生贄にしたのは、集落の住民だけではなかったのだという事を。

 

 小雨が降り始めた。辺りに、深い霧が立ち込め始める。

 

 雨の中、俺は、グリフの、友の亡骸を見つめる。


 ビビりで、怖がりで、何かあったらすぐに逃げる

 魔物の癖に呑気で、鳥頭ですぐに物事を忘れる

 おっさんみたいに抜け羽根を気にする

 俺よりもポンコツだった、グリフ


 俺にとって集落の住民は、心底どうでもいい連中だった。人なのに……

 俺にとってグリフは大切な友だった。人じゃないのに……


 霧雨が、俺を、グリフを、包むように濡らしていく。


 俺は動けない。グリフは動かない。

 

 俺はしばらくの間、グリフを見つめた。


 見つめ続けた。


 そして暫くしてから、静かに立ち去った。

 

 墓は作らない。俺に墓を作る資格などない。

 

 俺は一人で歩いて行く。深くなっていく、霧の奥へと……

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