選択-2
俺は咳の止まらないオルドを見つめる。そしてそのオルドから、嗅いだことのある匂いを感じた。
「オルド、麻薬を使っているの?」
集落で皆が使っている物に似た臭い。それよりも純度が高い物のようだが、それでも同じ物のようだった。
咳の止まったオルドが答える。
「ああ、そうだ」
俺はオルドを見据えながら問う。
「なんでそんなものを使ってるんだ?」
俺は答えを知っている。オルドは答える。
「流行り病から拗らせた。それでだ……」
そして、また咳を始めた。俺はイライラし始めた。
「なんでそんなのに掛かってるんだよ!オルド!お前、もしかして死ぬのか?」
オルドの咳が止まらない。それは肯定を意味しているようだった。
俺はオルドを見下ろす。
(俺は、一度もオルドに勝てていない……)
初めて会った時から、俺はオルドが気に喰わなかった。
粗暴で、横暴で、横柄で、自信に満ちていて、傲慢な男
そして、それが許されるだけの実力を持った男
オルドは、俺の壁だった
いつか倒してやりたかった
目にもの見せてやりたかった
やり込めてやりたかった
俺は、咳を続けるオルドを、見下ろす。
俺は無性に腹が立ってきた。
「ふざけんなよ!テメー!何勝手に死にそうになってるんだよ!俺がまだ勝ててないだろうが!」
俺はオルドを罵倒する。病死なんていう、ふざけた死に方など許すわけにはいかない。
咳の止まったオルドが、俺を笑って見上げる。そして、言う。
「しょーがねーだろ。ポンコツなお前が悪い。タイムアップだ」
俺は悔しさで歯を食いしばる。その通りだからだ。
オルドは焚火に目を戻す。そして呟くように言う。
「なあ、ミスト。死ぬって、どんな気分だ?」
俺はキレながら、答えを探す。俺の死にコレの記憶を掘り起こす。そして答える。
「別に、普通」
俺の答えに、オルドは露骨にがっかりしたような顔をした。
「オメーは、本当に、ポンコツだな……」
オルドはしみじみと言った。
オルドは立ち上がると、咳をしながらダルそうに、地面に魔法陣を描き始めた。俺はオルドを見つめて言う。
「何をするの?」
オルドは答えない。魔法陣を描き終わると、俺の方を向いて言う。
「おい、ミスト。魔法陣の真ん中に立て。行動制御魔法を解いてやる」
俺は訝し気にオルドを見る。そんな俺にオルドは面倒くさそう言う。
「前の時みたいに嵌めるつもりはねーよ。そんなことをしても、もう意味が無いからな」
俺はいつでも反撃できるように構えながら、魔法陣の真ん中に立つ。オルドがそんな俺に手をかざして、魔法を使う。
突如として俺の身体の中心から、太くて黒い光の線が立ち上った。それは複数の細い光の線に枝分かれしていって、魔法陣の外周部に移動していく。そして光が消えていった。
「解けたぞ」
オルドが俺に言った。俺には違いが分からない。痛みを感じていないからだ。
俺はその辺の石を拾うと、口に咥えた。そして加速魔法で思いっきり自分の頭をぶち抜いた。俺は死んだ。
生き返った俺は、頭に激痛が走らないことを確認する。
「あ、本当だ。解けてる」
そんな俺をみて、オルドが羨ましそうに呟く。
「随分と便利な身体をしてやがるな……」
その言葉を聞いて、俺はカチンときた。
「全然良くねえよ。クソみたいな呪いだ。俺はサッサと死にたい」
オルドは俺を見つめて聞く。
「そんなもんなのか?」
俺は答える。
「最初は死にたくないと思った。そしてこの身体になった。その後ですぐに後悔した。こんなのはクソだ!」
オルドは遠い目をして言う。
「そうか……そんなモンか……」
オルドが俺に言う。
「おい、ミスト。そこをどけ」
俺は言われるままに魔法陣から出て行く。オルドはその魔法陣で、再び魔法を使い始めた。その魔法は、悪魔召喚。
魔法陣からいつものように、銀のテーブルと椅子。そしてそこへ優雅に座る、フレイヤの顔をした悪魔が出て来た。
悪魔がオルドに言う。
「あら?契約更新の時期じゃないのに呼んでくれるなんて。もしかして、ようやく新規契約を結ぶ気になったの?」
それを聞いて、俺はオルドを見て言う。
「あれ、オルドってランク8なんじゃないの?」
以前聞いた時に、悪魔で契約できる最高ランクは8と聞いていたから、てっきりそうだと思っていたのだ。オルドが答える。
「俺のランクは9だ。ランク8の意思疎通魔法は、お前と同じようにたまたま覚えた」
そしてオルドは俺を見て続ける。
「以前にも言ったはずだ。自分のランクは他人に教えるな、と」
俺はしてやられた気分だった。長年一緒に過ごしてきたはずなのに、俺は今まで気がつかなかったのだ。
悔しそうにしている俺を見て、オルドが少しだけ笑う。そして俺を見て言う。
「オメーは、本当にポンコツだった。そんなお前に最終試験だ」
そしてオルドは悪魔を指さして続ける。
「俺の悪魔をくれてやる。この悪魔と契約しろ!ランク8からは生贄の条件が変わる。それは、自分の支配する組織の住民の命だ!」
そう言ったオルドは、静かに俺を見下ろす。
その目は、今までにないほどに、澄み切っていた。




