選択-1
「最近オルドを見てないんだけど、グリフは知らない?」
集落の外れで、俺はグリフに聞いた。グリフが少し心配そうに答える。
「知らない」
ここ数か月オルドが姿を見せていない。1か月くらい居なくなる時はあったのだが、これほど長い期間居なくなることは初めてだった。
「まさかキマイラにやられた?」
俺の思いついたことに、グリフが呆れたように答える。
「ミストは、本当にそう思うか?」
全然思っていない。とは言え、他の可能性が思いつかない。俺はグリフに尋ねる。
「グリフはオルドがどこに住んでいるのか知ってる?この集落に来ていないだけで、家に居るとか?」
グリフが目を瞑って悩んでいるような顔をしている。どうやら知ってはいるようだ。
「多分口止めされているんだろうけど、グリフから聞いたって言わないからさ。教えてよ!」
グリフが渋々といったように目を開くと、その嘴を山の方に向けた。
「オルド様は、あの山の中腹にある、洞窟に居る。でも、俺も近づくなと言われている」
グリフの言葉を聞きつつ、俺もその山の方を向く。思いっきり行動制御魔法の範囲外だ。俺は森の主と戦った時に、範囲外に出た時の激痛を思い出した。頭の中を掻きむしりたくなるような激痛。
「流石にアレを喰らったまま、あそこまで行くのはしんどいな……」
俺は途方に暮れたまま、その山を見つめた。
俺はいつものように集落でフレイヤを連れて巡回している。いつものような光景だが、咳き込む人が多いことに気がついた。
(なんか風邪でも流行っているのか?)
不健康そうな人たちだから、病気にもかかりやすいのだろう。
(そう言えば、病死は試したことが無いんだよな。今度試してみるか?)
とはいえ、寿命を使い切るごとにデスリセットをかましている俺は、常に健康体だった。中々病気には掛かりそうにない。
「健康の秘訣。それは一回死ぬことです。貴方も死んでみませんか?」
俺は何となく思いついた広告フレーズを口ずさむ。とは言え、誰も聞いていない。
中毒者は勝手な話をフレイヤにし続け、フレイヤはそれを聞き続ける。
いつもの光景だった。
更に数か月が経った。
流石に俺はイライラし始めた。
「ふざけんなよ!オルドのヤツ!いつになったら帰ってくるつもりだ!」
俺はフレイヤの家で一人叫ぶ。
「帰ってこないなら、せめて行動制御魔法は解いて行けよ!あの野郎!」
術者が死んで行動制御魔法が解けるのかどうかが、良く分からない。解けないとしたら、俺はこの集落から一生出られないことになる。
「ヤバい!これはヤバい!どうしよう……」
俺は頭をフル回転させて考え始めた。
洞窟の前で、焚火が炊かれている。その近くに、椅子に座って焚火を眺めている大男が居た。コートを着て、崩れたハットをかぶっている、狼のような顔をした大男。
近くには、大剣が置かれている。大男は焚火を眺めながら、時々咳をしている。
大男は、オルドだった。
オルドが口を開いて、静かに言う。
「誰だ?」
ガザガザと音がすると、そこから一人の男が現れた。なんてことの無い、冴えない男だ。怪我をしたのか、頭に包帯が巻かれている。
「こんなところに居たのか」
冴えない男は、そう口にした。
男はミストだった。
オルドがミストを見つめて言う。
「よくここまで来られたな。行動制御魔法の範囲外なのに。流石にお前でも、ここまでの距離を来るのはキツイだろう」
ミストは少し笑いながら、人差し指で自分の頭を指して答える。
「すげーキツかった。頭を掻きむしりたくなるぐらいキツイ。だから、頭を掻きむしって来た」
ミストは鏡を持って行動制御魔法の範囲外に出て、自分の頭の頭蓋骨を開いて手術を行った。魔手を使って、刃物で痛覚を感じる部分を取り除いたのだ。
当然、彼には脳医学の知識などない。なので何度も試行錯誤した。中途半端に植物状態にならないように、頭の上に大岩を魔手で吊るして、いつでも死んでリセットできるようにする。
そうやって、何度も、何度も、何度も、自分の脳みそを直接弄り続けた。そして、彼はやり遂げたのだ。
そんな俺を見て、オルドが笑って言う。
「すげーな、ミスト」
その後で、大きな口で大きな咳をした。




