師弟-3
俺はオルドと向かい合っている。もう何度目になるのか分からない、決闘だ。
俺はいくつかの小石を掴んでオルドに投げつける。小石は加速魔法で速度を上げ、散弾のようにオルドに向かって行く。オルドは大剣を盾にしつつ、魔手を使ったスライド移動で躱していく。
それでも俺は小石を投げまくって行く。小石の弾幕でオルドの接近を阻むつもりだ。狙い通り、オルドは近づけなくなっている。オルドの目線が、盾にした大剣で隠れた瞬間、俺は次の手を打つ。
オルドの周囲に獄炎の炎を巻き起こした。遠慮なく寿命を突っ込んで、大炎を巻き起こす。大炎であっても獄炎の炎だけで殺すのは難しい。でも問題ない。これは目くらましだ。俺は背中の鞄を探って、油の入った瓶を取り出す。コイツを投げつけてオルドを炎上させるつもりだ。
俺が油瓶を振りかぶった瞬間だった。炎の中からオルドの大剣が俺を目がけて飛んでくる。それをまともに喰らった俺は、大剣で押しつぶされる形になり、油瓶を落としてしまった。落ちた油瓶は割れて、中身が零れ落ちる。獄炎の炎の中から出て来たオルドが、自分の獄炎で零れ落ちた油に着火した。
自分の油で俺は炎上した。俺は死んだ。
「チクショー!また負けたー!今度のは行けると思ったのに!」
不死鳥の如く灰の中から蘇った俺は、地団駄を踏んで悔しがる。そんな俺を、オルドが見つめて言う。
「悪くは無かったんだがな。狙っている最中に、お前は動かなさすぎだ。獲物を狙っている時が、一番無防備になる。もう少し、自分の意図を隠せ!」
それを聞いて、俺は先ほどの戦いを思い出す。確かに自分が攻撃することに夢中で、オルドからの反撃の可能性を忘れていた。もう少し注意していたら、飛んでくるオルドの大剣は躱せていたかもしれない。
考え込んでいる俺を尻目に、オルドは投げた大剣を拾いに行っている。俺は後ろからオルドに聞く。
「次の決闘はいつ?」
オルドは振り向かずに答える。
「二、三週間ほど後だな。最近は忙しいんだ」
キマイラすら捕食していた森の主が死に、魔の森の生態系が変化したらしい。キマイラが繁殖し始めたのだ。キマイラは人里を避ける傾向があるが、それでも過剰繁殖によって縄張りを追われた個体が、時折集落へやって来るようになった。それでオルドは森の主の替わりに、キマイラを間引くように狩っている。
そんなわけで、最近は集落を不在にしていることが多くなっていた。
俺はいつものように、集落の外れでグリフと駄弁っていた。何やらグリフが深刻そうな顔をしている。
「どうかしたの?いつになく深刻な顔をして?」
俺はグリフに尋ねた。グリフは目を瞑って、神妙な顔をして答える。
「俺に大変な問題が起きた」
俺はグリフを見つめる。
「キマイラが増えたこと?」
俺は思いついたことを言ってみたが、グリフは否定するように首を振る。俺は他には何も思いつかない。
「鳥頭のグリフが悩むって珍しいよな。禿げるんじゃないか?」
その俺の言葉に、グリフが反応した。
「それだ!最近、俺の羽根が減っている」
俺はグリフの頭の辺りを見つめた。言われてみれば、以前よりも羽がボサボサになっているように見える。
「グリフォンでも、歳を取ると禿げるんだな……」
俺は悲しそうな顔をするグリフを見つめつつ、元の世界のテレビでやっていた植毛のCMを思い出した。子供の頃、テレビを見る父がグリフみたいに神妙な顔で、そのCMを見ていたのだ。そして、俺はふと気がついた。
「あれ?ずっと修行と決闘をしていたから忘れていたけど、もしかして凄い時間が経ったのか?」
俺はフレイヤを召喚して、集落巡りをしている。いつものように集落の住民はフレイヤに集まってきて、好き勝手に話している。
住民は新陳代謝するように入れ替わっているので、俺が最初にここへ来た頃に居た人は、既にいないはずだ。だが俺が見ている光景はまるで変わらない。
(見ている光景が全然変わらないから、気がつかなかった……)
俺は悪魔との契約更新の時を思い出した。
悪魔との契約は一年に1回は更新しないといけない。俺もオルドも、既に何回も行っている。だが、何回やったのかを忘れてしまっている。
俺は死なないし、オルドは生命吸収魔法で寿命を確保しているから見た目の歳は取っていない。
朽ちぬフレイヤと、生きながら朽ちる中毒者。
中毒者たちがフレイヤに救いを求めて群がっている光景を、俺は冷たい目で見つめる。
時間は流れている。でもきっと、ここでは澱んでいるのだ。




