森の主-2
森の主の攻撃を避けたオルドがすぐさま大剣を、加速魔法も合わせつつ、その体に振り下ろす。しかしその柔軟な体に衝撃が吸収され、分厚い表皮にはかすり傷しかつかない。
「相変わらずクソみてえな身体をしてやがる!」
オルドが毒づく。森の主が首を傾けてオルドを正面にとらえようとするが、オルドはスライドするように背後に回り込む。森の主の頭部と尻尾の近くは特に危険なので、そこを避けるように立ち回って行く。オルドは回り込みつつ、切っ先を突き立てるように、森の主の胴体を切りつけていく。しかし、やはりかすり傷しかつかない。
それでもオルドは立ち回りを変えない。一撃を喰らったら終わりなので、回避を優先している。
俺はオルドの立ち回りを観察していた。そして気がついた。
(オルドは、自分で召喚した魔手の上に乗って移動している)
以前キマイラと戦っている時もそうだったが、オルドはローラースケートでも使っているように、体重移動だけで自在にスライドしながら移動している。そして森の主の行動を先読みして、常に相手の攻撃の届かないところへ回り込み、少しずつ削るように攻撃を加えていく。
(低レベルでラスボスと戦っているみたいな感じだ)
俺はオルドの戦いに魅入っていた。
俺の見ていた森の主の行動が変わった。突如としてオルドを無視して旋回を始める。いや、無視などしていない。オルドを中心に巻き込むように動き始めた。
(アイツ……このまま輪を縮めて締め潰す気だ……)
俺も巻き込まれないように距離を取る。オルドは慌てていない。近くにあった巨大な切り株の上に立ち、 森の主から目を離さない。森の主の包囲が徐々に縮まって行く。
森の主の包囲の輪が完全に一周した。最早、俺からオルドの姿は見えない。
(このままだと潰される……)
そう思った直後、オルドが包囲から飛び出して来た。いや、宙に浮かせた魔手を階段のように駆け上っている。そして包囲から脱出して、俺のところに跳んできた。
「オメーはボサっとしてんじゃねーぞ!ちったあ役に立て!」
剣を構えなおしながら、オルドが俺に罵声を浴びせる。俺には自覚があるので気まずい。
「分かったよ……森の主って、なんか弱点とかないの?」
俺はオルドに聞いた。オルドですら碌にダメージが与えられていない。俺が何かをしても、今のままでは役に立たないのが明らかだった。
「弱点は……炎だ……」
オルドが言いにくそうに言った。俺は不思議に思ってオルドを横目で見つめる。弱点を知っているのに、この戦いで炎撃も獄炎も使っていないからだ。
「なんで、炎の魔法を使わないの?」
俺はオルドに言う。オルドは、何も言わない。
俺は、何となく察した。
オルドが森の主を見ながら、目をひそめて呟く。
「森の主の動きが変わっていない。何かおかしい。何をやる気だ……」
「オルドが脱出したことに、気がついていないとか?」
俺の回答に、オルドが森の主から目を逸らさず答える。
「それは絶対にない……」
突如として森の主の尻尾が鞭のようにしなり始めた。森の主が大きな切り株にかじりついているのが見える。
「ヤバい!」
オルドの叫び声と同時だった。森の主がかじりついた切り株を軸に、その巨大な身体を振り始めた。それは巨大な鞭と化し、その尾が天高くそびえ立つ。
俺はその尾に目を取られた。
オルドは大剣を突き立てて、その刀身を盾にする。
森の主の天高く舞い上がったその尾が、振り下ろされる勢いのままに、地平すれすれに振り回される。そして森ごと周囲一帯を強烈に薙ぎ払った。
オルドは刀身を盾にしつつ、魔手を足場にして飛び下がる。それでも勢いは殺せない。
俺はまともに喰らう。
オルドも俺も、森の主の鞭で吹き飛ばされた。




